ドラマの登場人物に憧れ民間企業に就職、ICT人材コンサルティング会社を設立/レコ人材有限会社CEO・グエン・ビック・フエ

 情報通信技術(ICT)産業における人材不足は顕著になっている。日本の経済産業省の報告によれば2030年には79万人ものICT技術者が不足するとしている。人工知能(AI)、ビッグデータ、ブロックチェーンなどICTの分野で新しい技術革新が進む一方、日本の中小企業であっても自社やサービスのデジタルトランスフォーメション(DX)を進めなければ今後生き残れないとあってICT技術者の需要は高まるばかりだ。
 コロナ禍にあってソーシャルディスタンスを保ちながらも、ZOOMなどのオンライン会議ツール、Uberなどの宅配サービスなど様々なICT技術を駆使することによって企業活動や日常生活を維持することができた。これも日進月歩のICT技術のおかげだ。
 筆者もベトナム各地の取材先に直接出向かず、オンライン会議ツールを使ってインタビュイーに取材を行う日々。否が応でもICT技術のお世話にならなければならない。
 ベトナムにおいてもICT人材において需要が大きく供給をうわまわっているのが実情だ。
 2021年ベトナムICT人材市場においては45万人のプログラマーが必要とされていたが、実際には43万人しか供給できておらず、2万人もの不足が生じており、短期的にはこの状況は解消されないと言われている。
 情報技術を学ぶ学生は5.5万人いたとしても、実際に企業が求める技能を有する人材はわずか1.65万人、全体のわずか30%にすぎないともされ、高等教育、職業教育上の問題も指摘されている。
 早急には改善が見込めないベトナムのICT労働市場において、ベトナムのICT起業はどうすべきか?外国に必要な人材を求めるか、優秀な人材を引き抜くか、あるいは企業と人材との適切なマッチングを行うか。その人材面に困難さに市場性を見出し、起業した会社がある。今回ご紹介するのはそうした企業の1社、RECO社である。インタビューに応えてくれたのは同社CEOのグエン・ティ・ビック・フエ氏だ。

 彼女は1986年、ナムディンの生まれ。両親は二人揃って公務員の家庭だという。大学は首都ハノイに出て、ベトナム国家大学ハノイ校で経営科学を学んだ。
 「私は日本や韓国のドラマにハマっていて、その主人公たちが民間企業のオフィスでさっそうと働いている姿を見て、自分もあのドラマの登場人物のようになりたいと思ったんです」
 2008年大学卒業後、両親は自分の娘には自分たちと同じ公務員の道を望んだが、フエはその両親の勧めを断って、民間企業に就職した。ベトナムにおいては両親、特に父親の意見は絶大なものがある。それを断って自分の希望する民間企業への就職を決めた彼女は自分の信念に従う強さがありそうだ。
 彼女は建設、教育、そして通信企業と大手企業の人事畑を経験した。彼女はこれらの仕事を学ぶ機会ととらえていたという。


 今から6年前の2016年、彼女はNTQ社というIT会社に就職した。NTQ社はオフショア開発から独自のアプリ開発まで行い、日本にも子会社を有し、ベトナムでも注目されているITベンチャー企業だ。社長はチャン・タイ・ソン。ベトナムの情報通信大手FPT社でプログラマーとして働き、日本でのソフトウェア開発の経験を有している。
 彼女は大手企業の人事部に10年近く関わってきた経験を活かして、NTQに請われて人事部長の地位を得たのだ。
 フエが入社した当時の社員数は80名だった。社長のソンは当時1000名の人員を抱える会社に発展させることを目指していた。
 フエは3年半で80名から約750名の従業員を抱える企業にすることに成功した。採用にあたっては候補者の希望する給与や労働条件などのインタビューを繰り返し、IT企業と人材との採用にあたっての独特の問題点やマッチング、コンサルティングの大切さに気がついた。彼女が長年人事畑を歩いてきたことの蓄積とひらめきがあった。
 「この経験から私はICT企業向けに人事コンサルティングを行う会社の独立起業を考えました。NTQ社の社長ソンに相談したところ、起業アイディアは面白い、全面的に支援するから起業してみたらと勧められました」

 2019年末、満を持して会社を設立、社名はRECO社とした。もちろんNTQ社出資の会社なので、NTQのブランド力を頼って社名にNTQという文字を入れることもできたが、フエは「子どもの人格は親とは別もの」と親を頼らず、子どもの生命力でのみ生きる道を選んだ。親の勧める公務員の道を選ばなかったフエらしい選択だ。
 社名の「RECO」にはREcruit(リクルート=新人採用)、REsource(リソース=人的資源)、REvolution(レボリューション=革命)、REstructure (リストラクチャー=再構築)の意味に加えて、ECOsystem(エコシステム=生態系)という意味も込められているという。もちろん彼女のいう「エコシステム」とはビジネス上で業界の枠や国境を越えて広く共存共栄する仕組みのことを指している。
 取引の30%はベトナム、残りの70%は日本を含む海外のIT企業との取引だという。日本はそのうち20%を占め、他にシンガポール、タイ、ポーランドとの取引がある。
 起業直後にコロナ感染症が世界的に広がり、当初当て込んでいたIT技術者の海外派遣が困難になった。しかし、リモートでベトナムに居ながらにして海外の受注を受け、現在は60もの海外企業に対してICT技術者の「派遣」を実現しているという。コロナの逆風を逆手に取った。
 「ベトナム人ICT技術者の海外への「派遣」には技術者自身の成長にもつながります。特にICT技術の専門性を学ぶと同時に語学力を身につけることで、日本や韓国などの先進国のマインドセット、見方・考え方をも学ぶことができるからです」とベトナム人技術者の海外派遣の教育的な効果をもフエは強調する。


 同社は技術者派遣RECOオンサイトの他に、受注から7日間で企業が希望する人材をヘッドハントして紹介するRECO 7や、RECO BOTと言って、企業からの要望に応じて人材を雇用し、運営管理を行い、安定した雇用状態にいたってから技術者チームを丸ごと注文先企業に移転するBuild, Operation & Transfer (BOT) 形式でのサービスも行っている。後者はまだベトナムの現地法人化を検討中の企業であってもすぐに仕事を開始することができ、仕事が安定したらその技術者チームをそっくりそのまま法人化することができる。海外進出のハードルを下げるサービスといえよう。
 フエに日本へ訪れたことがあるか?と尋ねたところ、それはまだないとのことだったが、日本に対するイメージを伺ったところ、次のように答えた。
 「日本の企業文化や人は規律正しく、決意も高い。加えて日本としての民族の意識も高いと感じている。ベトナム人は仕事の拙速さを求めがちだが、日本人の仕事は慎重で完璧さを求める点に違いがある」
 彼女がデメリットとして指摘するベトナム人の拙速さは、しかしICT産業においてはむしろメリットになりうるし、日本人の慎重さは逆にデメリットになるのではないか、ベトナム人と日本人とが違いに協力し合えば、さらに良い結果が生まれるのではないか?というと「確かにそうですね」と笑った。
 フエの率いるRECO社の売上は初年(2020年)度は40億ベトナムドン(約2,000万円相当)だったが、次年(2021年)度は130億ドン(約6,500万円相当)、そして今年はなんと100万米ドル(1.3億円)を目指すという。起業直後にコロナ禍に見舞われても、それをものともせず起業精神旺盛な同社とグエン・ビック・フエ社長。ICT人材コンサルティングという一種ニッチだが、しかし同産業の発展の土台となる「人材」に関するサービスとして大きく発展する日が楽しみだ。

文=新妻東一

レコ人材有限会社
CEO グエン・ティ・ビック・フエ
プロフィール

1986年ナムディン省に生まれる。2004年ベトナム国家大学ハノイ校に経営科学を学ぶ。2008年に同大学を卒業後、建設、教育、通信大手にて人事担当。2016年NTQソリューション社の人事部長に抜擢。2019年ICT企業向け人材コンサルティング会社・RECO人材有限責任会社を設立、CEOとなり、現在に至る。

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