メコンデルタの特産マングローブのバーベキュー木炭製造で起業/クーロン製造販売輸出入有限責任会社
- 2025/05/30
- ベトナム企業インタビュー

筆者のわたしも小学生のころ、父親に連れられて、車で奥多摩の河原にいき、そこでバーベキューを楽しんだ記憶がある。今から50年以上昔のことだから、同じ様にキャンプを楽しむひとなど皆無だった。広い河原にぽつんとテントを建て、火を起こして、飯盒飯を炊き、カレーをつくり、持ち込んだ鉄板で焼肉も焼いた。
雨が降れば、テントの中までずぶ濡れになってしまう。車の中に避難して一夜を過ごしたこともあった。面倒なことが多かったが、父親と過ごした、とても楽しい思い出のひとつだ。
半世紀も昔は、バーベキューなどモノ好きの道楽だった。現在はアウトドアのアクティビティがブーム、特に野外でのキャンプやバーベキューが日本でも大流行している。バーベキュー人口は2千万人といわれ、アウトドアショップにいくと、バーベキューコンロや木炭などが売られている。若い人の間では気の合う仲間たちと食材を購入し、河原のバーベキュー広場でビールを片手に焼肉や調理を楽しむらしい。
インターネットで動画やSNSに興じるとなると、どうしてもインドアで時間を過ごすことが多くなる。ただ、人間、それだけだと物足りなくなるのだろう。アウトドアのアクティビティ、なかでもバーベキューは、友だちと集い、非日常の生活が楽しめるとあって人気だ。部屋にこもりがちになる現代にあって屋外で手軽なレクリエーションでもある。第一、自然の中であれば、空気がうまいし、料理もワイルド、炭火焼きだからおいしくないわけがない。
木炭原料はマングローブの樹木

今回ご紹介するベトナム企業は、バーベキュー用の炭を製造し、輸出している。名称はクーロン製造販売輸出入有限責任会社。代表はホー・ティ・フオン・クイン、スマートな印象を受ける女性経営者だ。ZOOMを利用したリモートでの取材だから、画面の向こうでにこやかな笑顔をみせてくれた。
2022年にメコンデルタ省のひとつ、ソクチャン省に起業した。
社名のクーロンとは、メコン川の異名だ。漢字で書けば「九龍」。メコン川は一本の川というよりはいくつもの支流から成り立っている大河だ。その支流がいくつもある姿を9匹のドラゴンに例えたことからくる川の名前だ。名前からしてメコン川とは切っても切り離せない関係ということだ。
主な原料はマングローブの樹木だ。マングローブとは日本大百科全書(ニッポニカ)によれば、「熱帯や亜熱帯の遠浅の海岸沿いの砂泥地に海水の塩分濃度に耐えうる樹木が多数集まってつくる樹林をいい、紅樹林ともよぶ。おもにヒルギ科、シクンシ科、クマツヅラ科、センダン科などの植物からなる」とある。つまり、マングローブという一つの種類の樹木ではなく、いくつかの種類の樹木からなっている。
メコン川がつくりだしたデルタの海岸沿いにはこのマングローブ林がおい茂っている。ベトナム戦争中は米軍が散布した枯葉剤により、マングローブ林が枯野となってしまった。戦後は、植林が進められ一定の回復をみたが、エビ養殖が流行し、養殖池をつくるために多くのマングローブ林が伐採され、危機に瀕した。
現在は国・地方政府や環境団体の努力により、マングローブ林の植林、管理が進み、マングローブ林は再生し、乱開発は抑制されている。
ベトナム最南端の省、カマウ省を訪れると、生い茂るマングローブの林の間を高速ボートで移動して、カマウ省の突端の岬へ案内される。マングローブは地にその根を広げ、枝とその緑の葉は青々としてたくましく、昼なお暗い森を形成している。その景観は素晴らしいものだ。半世紀前には枯葉剤によって死の森と化したことなど想像すらできない。
木切れに小麦を混ぜて成形炭に

その再生したマングローブの木を伐採し、炭をつくる。伐採したら、再びマングローブの木の苗を植える。15年で成木となるから、持続可能性もある。大気中の二酸化炭素を取り込んで育つマングローブを伐採して、燃料に用いるのであれば、地球の大気中にある二酸化炭素の総量は変わらない。マングローブの木から作られる炭は環境にもやさしい。
クーロン社はまた、マングローブの木の木切れを集め、そこに小麦を混ぜて、六角形に成形された炭をつくっている。マングローブの木を切り出して、直接炭にするのではなく、炭にすることのできない木切れを用いる。マングローブの恵みを使い尽くそうということだ。代表のクインは、同社の商品を一般の商品よりさらに「エコ」だと主張する。
加えて、本来マングローブから生産された黒炭は煙や臭いがでやすい。成形することによって無煙の炭も実現している。
この技術はクインの友人が教えてくれたもので、そのための成形機は日本から輸入した設備を導入したという。
原料は主に、カマウ、ソクチャン、ハウザン省から調達している。月産500トンは製造可能だ。
輸出先は主に、日本をはじめ、オーストラリアやアメリカ、イギリスなど、バーベキューが盛んに行われている国々に供給している。ベトナム市場はまだ市場が小さいとのことで、国内販売は行なっていないが、将来は市場開拓をすすめるつもりだという。
実は同社代表のクインは、ホーチミン市内の日本料理店に長く勤務した経験があり、経営者や顧客としての日本人の何人にも触れてきた。そこで出会った日本人はやさしく、仕事も熱心で、よい印象をもっているという。だから、日本向けの輸出拡大を目論んでいるのだそうだ。
ココナッツ殻からチャコール、繊維からカゴ

同社はまた、ココナッツ殻から作られたココナッツチャコールと、ココナッツ殻から取り出した繊維を用いたカゴなどの商品の開発も行なっているという。
環境にやさしく、地方の労働者に仕事を与え、顧客にはよりリーズナブルな価格での商品提供をと心掛けている、そうクインは語ってくれた。
代表のクインはロンアン省出身だ。仕事を求めてホーチミン市で料理店や宝石店などで働き、そして自分の出身地ではないが、地方に戻って起業した。彼女と同じような考え方で、地元に戻って投資をし、起業する人たちがベトナムでも増えている。そして地方にあっても、人々は出稼ぎにでることなく、仕事があるようにとクインは願っているようだ。彼らの世代は田舎から都会に出て働き、苦労の連続であったからでもあろう。
地方出身の起業家たちが、その生まれ故郷の特産を活かして、企業を立ち上げているのをみるにつけ、彼らを応援したくなる。バーベキュー用の炭を求めている日本企業のみなさん、ぜひ同社にコンタクトをとってみてはいかがだろうか。
文=新妻東一

クーロン製造販売輸出入有限責任会社
CUU LONG PRODUCTION AND IMPORT- EXPORT CORPORATION
プロフィール
2022年、メコンデルタのソクチャン省に起業。代表はホー・ティ・フオン・クイン。主な製品はバーベキュー用マングローブ炭。月産能力500トンを有する。主な輸出先は日本、オーストラリア、アメリカ、イギリスなど。ココナッツ殻から作られるチャコールや繊維で編んだカゴなども製造している。