ベトナム唯一、無焼成カラースレートメーカー/ベトナム・ナサキ有限責任会社

 先日、ハノイのとなりフンイエン省にあるオーシャンパーク2を家族で訪れた。ここは、ベネチアを模した街並みがあり、川が流れていて、その両脇にカラフルな欧風な街並みが際限されている。川にはゴンドラも浮かんでいる。週末とあって多くの人々が訪れ、あちこちでチェックイン、すなわちスマホ写真を撮りあっている姿がある。日本でいえばハウステンボスだと思えばよい。ただ、入場料はとられない。ショップハウスと呼ばれる店舗兼住居の1階にあるファーストフードやお買い物、ショッピングを楽しむ趣向だ。
 この建物の屋根材に使用されているのが、今回ご紹介するベトナム・ナサキ社の製造するカラースレートだ。日本では天然スレートにかわり広く使われている、セメントを固めた化粧スレートという商品である。ベトナムにおいては新建材となる化粧スレートの製造をはじめた同社の社長は女性経営者、グエン・ティ・クエンだ。
 「私は田舎生まれ、両親も農家で、両親は私の名前に『Khuyên(メジロ)』」と名付けたのよ」そういって、パソコンの画面の向こうで笑うクエンだった。

「顧客は恩人」という信念で事業を成長

 グエン・ティ・クエン氏は1983年生まれのイエンバイ省イエンビン県モンソン村出身。農家の家庭で育ち、高校卒業後、ハノイ国家大学社会科学人文大学国際学部へ進学した。2005年に名門大学を卒業、一度は新聞記者の道を目指したが、どうも自分はビジネスの世界に向いていると自覚し、ホンダ・ベトナムの営業職に就いた。その後もビティス・ラオカイ支店、イエンバイセメント・鉱物株式会社の営業部門で経験を積んだ。
 どのような職場においても、彼女は常に「勤勉で熱心、創造的で責任感が強い」と評価された。特に、ベトナムを代表する石灰石のメーカーであるイエンバイセメント・鉱物株式会社での勤務経験が、大学時代から温めていたビジネスへの情熱をさらに刺激したという。「石灰石の超微粉砕」という製品を選び、起業を決意した。
 数年間の経験蓄積を経て、2014年には塗料、プラスチック、紙などの産業向け石灰石粉末を供給する炭酸カルシウム・ビナファイン社を設立し、自ら社長を務めた。「設立当初は、ごくわずかな資本しかなく、顧客もゼロからのスタートでした。『ゼロから』というより『マイナスから』というのが正しいかもしれません」と彼女は当時を振り返る。「ホー・チ・ミン主席の言葉に『困難な仕事などない。ただ、心が折れるのが怖いだけだ。山を掘り、海を埋める。断固たる決意があれば成し遂げられる』がある。勤勉にして、創造的な努力と、ブランドを構築し、顧客を『恩人』として大切にすることで販路を拡大しました」とクエンは語る。地道な努力が実を結び、「雨が地面を浸すように」徐々に顧客が増え、多くの大企業に製品を供給できるようになった。同社の売上は毎年増加し、2014年には5億4600万ドンだったものが、2018年には100億ドン以上に達した。

環境配慮型製品「無焼成カラースレート・ナサキ」の誕生

 2018年初頭、クエンは「ベトナム・ナサキ有限責任会社」の設立を決意した。同社の製品は、日本の先進的な環境配慮型技術を用いた無焼成のカラースレートだ。初期投資は50億ドン以上、1日平均2万枚の瓦を生産できる湿式成形技術の生産ラインを持つ。「ベトナムのセメント・鉱物産業の揺りかごであるイエンバイ省で育ち、学業や仕事を通じて経済発展の状況を分析・判断する中で、環境保護と持続可能な発展がますます重要だと考えるようになりました」とクエンは語る。
 同時に、現代建築や都市開発における美観に優れた建材への需要が高まっていることを認識した。加えて、若者の起業を奨励する地方政府の政策も後押しとなり、クエンは共同経営者とともに、日本の先進技術を用いた無焼成カラー瓦の製造に投資することを決めた。「環境保護に貢献し、人々の健康を守りたい」という思いが、この新たな挑戦への原動力となった。
 製品開発の初期段階では、国内外の多くの企業で製造プロセスを調査した。しかし、「創業間もない新興企業として、多額の投資資金、質の高い人材の確保、特に市場開拓において非常に多くの困難に直面しました」と彼女は語る。「無焼成スレートはベトナムの大多数の消費者にとって非常に新しい製品であり、ベトナムの人々の嗜好を変えることは、決して小さな挑戦ではありませんでした」。
「『万事はじめは難し』とは言いますが、まさにその通りです」とクエンは言う。彼女は決して諦めることなく、「ビジネスは決して容易なことではない」という原則を深く理解していた。彼女は同社の同僚とともに、生産とビジネスにおける問題を一つずつ解決し、市場経済に見合った解決策を見つけていった。
 市場については、クエン氏はまず北西部の主要都市での販売に注力した。そこでは多くの顧客が瓦の需要を持っていた。同時に、タンチャオ博物館(トゥエンクアン省)やオーシャンパーク住宅地(フンイエン省)など、多くの省や都市の大規模プロジェクトに製品を供給することに成功した。
 人材については、ナサキベトナム有限会社は「地元の人材、特に有能で熱心な幹部や従業員を優先的に採用し、育成しています。また、国内外の専門家を招き、幹部や従業員のスキル向上と専門性を高めるための研修を行っています」。資本については、「市場の拡大に合わせて生産規模を拡大する」という原則に基づき、段階的な投資を行っている。
 環境保護と経済発展を両立させる明確な方向性と戦略のもと、グエン・ティ・クエン社長の柔軟で断固たる経営のもと、ナサキベトナム有限会社は市場シェアを着実に拡大している。現在、同社は7種類の製品を生産しており、年間生産キャパシティは550万枚に達している。

東南アジア市場への展開

 国内市場での困難を克服し、初期の成功を収めた後、クエン社長は「知性、熱意、断固たる態度、そして協力」をモットーに、製品を国外市場、特に東南アジア諸国へ展開し続けている。
クエン社長は「東アジア諸国の文化や建築における瓦の物語は常に非常に興味深いものです。スレートは単に雨風をしのぐだけでなく、歴史において、各国の文化や建築に深い足跡を残してきました。私たちが製品は、海外のパートナーにも受入れられています」と語る。
 「自信(Tự tin)、先駆性(Tiên phong)、誠実さ(Tâm sáng)」という「3T」の生産・経営哲学のもと、同社の製品は最新の機械設備で製造されており、自動化レベルが高く、原材料と電力を最大限に節約できる。特に、製品は品質基準をクリアしている。ナサキベトナム有限会社は、2023年にはマレーシア市場に4,300枚以上の平瓦を輸出することに成功し、総額6,000米ドル以上に達した。これにより、国内外の建材市場における同社のブランドと地位も確立された。
 ナサキベトナム有限会社が製造する無焼成カラースレートは、色も豊富で、現代建築、顧客の好みにあったものを供給でき、ベトナムの厳しい気候条件にも耐えうるものだ。原材料はセメント、砂、ドイツや中国からの輸入添加剤から作られている。製品はISO 9001:2015、TCVN 1453:1986の品質基準も満たしている。
 その信頼性がブランドを築き、現在、ベトナム・ナサキ有限責任会社は、ハノイのビンホーム・スマートシティ、クアンチのビンホーム・ショップハウス、TNRグループのTNR住宅地、オーシャンパーク – 東南アジア最大級のビンホームグループの住宅地など、国内外の著名な企業や大手プロジェクトにスレートを供給する契約を締結している。2023年には、同社は市場に100万枚以上の瓦を販売し、総売上は210億ドンに達した。地元労働者に安定した雇用を創出した。さらに、同社の無焼成カラースレートは、商工省より2023年の国家レベル模範的農村工業製品として認定されている。
 クエンは日本企業に勤めた経験から、日本人の働き方はプロフェッショナルで、勤勉であると好感をもっている、ぜひ自社の製品を日本向けに輸出できるようになりたい、そう願っていると話してくれた。まだ駆け出しの小さな企業だが、日本向け輸出のためのビジネスパートナーが名乗りでてくれることを歓迎する、もしそうした企業があれば、いますぐにでも日本にいって仕事の話がしたい、ビジネスにはスピードが必要ですからね、そう意気込むクエン

 ベトナムの旺盛な建築需要に向けた同社の製品がベトナム国内はもとより、世界にはばたくことで、イエンバイ省という、ベトナムでも特に貧しい地域の発展につながればと強く思っているとクエンは語る。同社の「環境にも優しく、故郷イエンバイ省の雇用創出にもつながる」化粧スレート製造をより一層拡大するのに手を貸してあげてほしい、そう願わざるを得なかった。

グエン・ティ・クエン社長

ベトナム・ナサキ有限責任会社
NASAKI VIETNAM COMPANY LIMITED

プロフィール

2018年、イエンバイ省に起業。社長はグエン・ティ・クエン。無焼成カラースレートの製造販売・輸出を行っている。50億ベトナムドン以上を投資、年間550万枚のスレートを製造可能。現在は主にベトナム国内向け販売だが、今後は日本向けをはじめ、同社のスレートを輸出することを計画している。環境にやさしく、イエンバイ省の雇用創出にも寄与したいと願う経営者の企業。

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新妻東一Sanshin Vietnam JSC マネージングダイレクター

投稿者プロフィール

1962年東京出身。東京外国語大学ベトナム語科卒。貿易商社勤務、繊維製品輸入を担当。2004年ベトナム駐在。2010年テレビ撮影コーディネートと旅行業で起業。

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