ベトナムで「花見」はいかが?各地の花の名所をご紹介

 日本で「花見」といえば桜の花。秋、葉が散ったあとの木が冬を越え、葉が生い茂る前に枝に蕾を膨らませ、薄いピンク色の花を咲かせます。花は2週間と持たずにやがて散り、その儚さも観る人の心を動かすのか、桜の花は多くの人々に愛されています。
 日本の桜の花の美しさはこのベトナムでもよく知られており、一生に一度は桜の季節に日本を訪れ、桜の花をめでたいとおっしゃるベトナム人も多くいます。
 ベトナムには桜の花はないものの、亜熱帯らしい花々が季節ごとに咲き、ひとの目をたのしませてくれます。また、ベトナム人は先祖を祀る拝壇に、命日のみならず、旧暦の1日と15日には花を供えることをかかしません。ベトナム人は花を愛するひとたちでもあります。
 今回のベトナム観光旅行記では、花とその季節をご紹介します。ベトナムを訪れる際の場所と季節を選ぶときの参考にしていただければ幸いです。

ハスの花

 ベトナム航空のマークにも用いられているハスの花。ホーチミン市の中心部にそびえたつ高層ビル、ビテクスコ・タワーはハスの花のつぼみをモチーフとしています。
 季節になるとハノイの街にはハスの花を売る自転車屋台が目立ちます。ハスのかすかな香りが漂ってきて、女性などはついハスの花を買い込んでしまうようです。
 ベトナム人にとってハスの花は特別な感情をもたらすようです。
 ハノイでのハスの花の見頃は5月の終わりから6月のはじめだといわれています。
 ハノイの西湖(Hồ Tây)のまわりにはハスの池があり、花見客は入場料をはらい、ハス池に立ち入り、写真撮影を楽しみます。アオザイやアオイエムといったちょっとセクシーで、インスタ映えするような衣装も貸し出していますので、それらをまとい、女性たちはハスの花といっしょに写真撮影をします。
 スマホで撮影するもよし、プロのカメラマンを雇って本格的な撮影を楽しむ人たちもいます。
 ハスの花はベトナムの国花だと言われますが、法に定めがあるわけではありません。2013年に当時の首相のグエン・タン・ズン氏が文化スポーツ観光省に命じて、国花選定プロジェクトを発足させましたが、今のところハスの花をベトナムの国の花とするといった宣言や法制化はなされていません。
 インドはハスの花を1950年に「国の花」に定めています。スリランカもハスの花が国花です。日本では桜や菊が国の花といわれていますが、慣習的なもので、なにか法律で定められたものでもありません。ベトナムのハスの花を国花とする、といった法制化など必要はないものと思います。

バンランの花

 5月ともなるとハノイの街にバンランの紫色の花が咲き乱れます。元々は南アジア原産の樹木ですが、現在はインド、東南アジア各国でみることのできる花です。フィリピンではバナバの名で知られ、日本ではオオバナサルスベリ、ジャワサクラとの和名、俗名もあります。中国で百日紅との名がある通り、サルスベリの花はピンクや紅色をしていますが、バンランの花はかわいいフリルの入った比較的大きなうす紫色の花を咲かせます。白や薄いピンクの花を咲かせるものもあるようですが、ハノイでみかけるのはこのうす紫の花を咲かせる種類です。
 ハノイの街のなかでもバンランの並木として有名なのが、日本人街のあるキムマー(Kim Mã)通り、ホアンカウ(Hoàng Cầu)通り、ホアンクォックベト(Hoàng Quốc Việt)通りなどです。
 サクラの花は春の訪れを感じさせますが、バンランの花が咲くと、ハノイにも本格的な夏がまたやってきたことを告げます。
 このバンランの花は淡いパステルカラーなので、見た目にも「熱帯」を感じることはありませんが、このバンランの花と同時期か少し遅く咲くホウオウボク、俗名火焔樹は、文字通り火焔を思わせる鮮やかな赤色で、みるからに熱帯ハノイの夏の熱気を思わせ、40度を超えるような夏をより暑く感じさせる街路樹です。

ホウオウボクの花

 英名フランボヤン、まさに燃えるような色をした花を咲かせるホウオウボク。火焔樹とはよく言ったものだと思います。まさに熱帯の花です。
 原産地はマダガスカルですが、欧州の植民地の拡大によって街路樹として植えられたことから世界の熱帯の都市に広まりました。
 平たく傘状に枝葉を広げ、夏にその木陰は涼をもたらしますが、花はまがまがしいまでの赤い色で、美しさよりも、その色に熱帯を感じ、暑さがいやますようです。
 大きな樹に育ちますが、元はマメ科の植物で、その葉のつきかたをみれば、マメ科であることは一目瞭然です。
 特にベトナムの北部、中部の都市には街路樹として植えられた見事なホウオウボクの並木がみられます。なかでもハイフォン市はホウオウボクの街として知られ、毎年ホウオウボク・フェスティバルが花の季節である5月に開催されます。
 ハノイからハイフォンまでは高速道路で2時間強で到着しますし、ハノイ駅から2時間30分の鉄道の旅を楽しむのもよいでしょう。
 5月はまだ夏本番ではないものの、日中の気温は30度を超えますが、それでも朝晩はまだ涼しいので、ホウオウボクの並木を眺めながらハイフォンの街をそぞろ歩きをしてはいかがでしょうか?

ソバの花

 ハノイから車で6〜7時間、北西に向かった先にハザン省はあります。このハザン省には10、11月ごろともなると、可憐なうすいピンク色の花が山の斜面一面に咲き乱れます。ベトナム語ではホア・タムザックマック(Hoa Tám giác mạch)、ソバの花です。
 栽培ソバの花をご存知の方は、ソバの花は白いはず、と思われるでしょう。実は野生のソバの花はうすいピンク色をしているのです。「野生」といってもハザン省では観光のために斜面にソバの花を栽培している場所も多く、とても野生というのもはばかられますが、栽培ソバではなく、野生ソバを移植した場所であると理解してください。
 シーズンのころになりますと、ベトナムの旅行客が多数ハザン省を訪れて、花と一緒に写真をとる姿をみることができます。
 かつてソバの原産地はバイカル湖、アムール湖周辺だとされてきましたが、現在では京都大学名誉教授・大西近江氏が主張する、ベトナムのお隣り、雲南省三江地方だとする説が有力だとされています。
 また、このソバの栽培化にかかわった民族として、大西先生はチベット・ビルマ語族のイ族(ベトナムではロロ族)の人たちではないかと推測しており、ロロ族の住むハザン省に野生のソバが自生していてもおかしくないと思われます。
 ハザン省の少数民族の村を訪ねると、ソバをこねて焼いたものを売っていたりします。また、ソバから作ったビールなども売られていますので、ソバの源流を訪ねることができます。

ダラットは花卉栽培の街

 ホーチミン市から車で5時間、飛行機なら1時間の距離にあるダラット市。海抜1500mにある高原で、夏も涼しいことで知られている避暑地です。
 ダラットの気候は平均気温が18〜20度、降水量も2000mmと花卉生産に適した土地柄で、ベトナム全体の花卉輸出のうちダラット産の花卉は金額にして年間8000万米ドルを輸出しています。特に日本向けには年間4500万米ドルもの花卉を輸出しており、輸出先として、日本はダラットの花卉輸出業界の最大顧客となっています。
 ダラットでは、2年に1回、フラワー・フェスティバルが行われ、ベトナムの国内外から観光客が訪れます。
 年間を通じて、アジサイ、ヒマワリ、キク、バラを見ることができるほか、冬はラベンダー、ヒマラヤサクラ、ラン、春はコーヒー、ジャカランダ、秋はコーヒーの実、コーホン(ピンク色の牧草の意)の花を楽しむことができます。
 フラワーガーデンやバオダイの別荘など、いくつもある花園や庭園でダラットの花の数々を楽しめます。
 ベトナム平野部での暑さに疲れたら、ぜひ中部高原の都市ダラットを訪れ、季節の花を愛でてはいかがでしょうか。

文=新妻東一

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