ベトナムのおいしいコメを日本や世界に/株式会社ニャットタン
- 2025/02/07
- ベトナム企業インタビュー

最近のベトナムのコメはうまいと評判だ。私のベトナム人の妻は数年前ならべトナムのコメはおいしくないと、タイ産の輸入米を購入していた。いつしかST25というベトナムの銘柄米がうまいと評判になり、わが家でも試してみたが確かにおいしい。普通のおコメより多少高いが、妻がほかの銘柄のコメに変えたりすると、子どもたちからおいしくない!といいだすので、ここ数年はST25ばかり食べている。
このST25はソクチャン省出身の農業技術者、ホー・クアン・クア氏が開発したコメの新品種だ。コメの香りがよく、適度な粘り気もあり、おいしく炊けるとあって、ベトナム人にも広く好まれている。クア氏のコメ品種はフィリピンで行われたコメ貿易会議でも世界でもっともおいしいコメ品種として表彰されたこともある。その味の良さは世界的にも認められている。
日系レストランチェーンを経営している私の知人は、ST25のうまさに惚れ込んで、自社で提供する白米を日本から輸入したコメからST25への切り替えも検討している。日本のプロからも注目されている。
ベトナムはまた、世界第5位のコメ生産量を誇り、その輸出量においてもインドに次いで、世界2位の地位を同じく輸出量の多いタイと毎年競い合っている。
最新のニュースによれば、2024年ベトナムはそのコメの輸出量と輸出金額において史上最高を記録したと報じられている。輸出量は年間900万トン、金額にして57億米ドルだそうだ。ベトナム最大の顧客は海を隔ててお隣のフィリピン。続いてインドネシア、マレーシアだ。ベトナムはいまやアセアン諸国におけるコメの供給基地としての地位を確立している。

今回ご紹介する株式会社ニャットタン社はベトナム米の国内販売と海外への輸出を手がけている会社だ。代表はレー・ヒュー・ズン。ベトナム中部の都市ダナン出身だ。なぜ、ダナン出身で、会社はダナン市に登記されているのに、メコンデルタのティエンザン省に工場があって、そのメコンデルタのコメを扱うようになったのか、との私の質問に、ズンは次のようにこたえた。
「妻の実家がこの30〜40年にわたりコメの製造販売をやってきたんだ。いわばファミリービジネスだね。それを婿の私が会社組織にして、2年前の2021年から直接輸出も手がけるようになったんだ。法人の登記は私の出身地。人脈もあったから、輸出ライセンスをとるなどの行政的な手続きもやりやすかったので、ダナンに登記したんだよ」
自社のコメの栽培面積は4haほどだが、仕入れ先はメコンデルタの管理された農場からも購入しているようだ。
メコンデルタは全長4350kmある東南アジア最大の河川、メコン川によって作り出された巨大なデルタである。メコン川は中国、チベットを経て、雲南省からミャンマー、ラオス、タイを経てカンボジアからベトナムへと流れていく。
その上流に中国が大規模なダムを建設したことと、気候変動による上流での雨量の減少によってメコン川の水量が減ったため、海水が陸地へ逆流して、沿岸のみならずかなりデルタの奥にまで、川の水が塩水化して、塩害が発生、コメが育てられなくなるという現象がおきている。ベトナムのコメ生産の中心地であるメコンデルタが塩害で危機に瀕しているのだ。
この塩害がたびたび発生するのを逆手にとって、メコンデルタ沿岸部ではあたらしい稲作が開発されている。キエンザン省では、海水が逆流してくる乾季には汽水域に生育するエビを育て、淡水化する雨季にはコメを植えるという、稲作とエビの養殖を同じ田んぼで行う新しい農業が奨励され、効果をあげている。
稲作は土壌を浄化させ、エビ養殖に適しているうえ、エビを育てると土壌に必要な栄養が豊富となり、多くの農薬や肥料を投入せずとも安定的な収入を得ることができるようになったという。
日本でもアイガモ農法というものがあるが、エビの養殖と組み合わせるとは、メコンデルタならではのアイディアだ。塩害という問題を逆手にとったたくましい農法だといえよう。
こうしてできたメコンデルタのコメは味もよく、残留農薬などに対する各国の厳しい輸入基準をもクリアできるようになり、輸出も増加するというよい循環をつくりだしているのだ。

ニャッタン社は、従業員60名、1日千トンの乾燥、精米も1日400〜500トンの処理が可能だという。能力は十分あるので、他社の輸出前加工も請け負っているそうだ。
主な輸出先はアフリカやアラブ諸国、米国や豪州への輸出にも取り組んでいる。
同社の主力製品は7種類。バルク販売する業務用のコメに加えて、ST25などのブランド米を正味重量5kgに個装した商品、そしてベトナムで「ガオルット」と呼ばれる玄米である。ハノイには代理店を設けて、豪州をはじめとする輸出先拡大とB to Cにも努めている。
個装は単色でシンプルなデザインで、これまでのベトナムのおコメの包装とは一線を画したものになっている。ここにも同社の個人消費者へのアプローチの本気度がみてとれそうだ。
社長のズンはかつてベトナム民芸品の輸出を手がけていた。当時は日本にもよく出張したそうだ。東京、名古屋、大阪での展示会で商品を展示した。

日本人顧客の印象は、商談が決まるまでは細かい点や商品品質に対してたいへん厳しい要求をしてくるが、一度商談がまとまれば、あとは長期間のお付き合いができるとの印象をもっているようだ。
だからこそ、ズンは日本向けのコメ輸出に力を入れたいと抱負を語ってくれた。とくにベトナム産のジャポニカ種とST25などのブランド米だ。ジャポニカ種はおもにスシ用に用いることを想定しているようだ。おいしいST25は日本にもぜひ紹介してほしい。
同時に日本に在留するベトナム人58万人という市場もある。彼らにもベトナム米は売れるだろう。
2024年10月9日付ベトナム商工新聞によれば、ベトナム・タンロングループがベトナム産ジャポニカ種のコメ千トンの輸出に成功したと報じられている。
日本はこれまでコメの輸入には消極的であったが、最近ではコメの輸入にも道が開かれている。外交関係のきわめてよいベトナムからのコメ輸入であれば、もっと積極的になってもよいのではないだろうか。
文=新妻東一

株式会社ニャットタン
NHAT THANH DEVELOPING AND TRADING COMPANY LIMITED
プロフィール
ダナンに2021年に法人化したコメ製造販売輸出会社。代表はレー・ヒュー・ズン。彼は元民芸品の輸出を手がけていたが、ティエンザン省の妻の実家のコメ製造販売ビジネスを受け継いで、ダナンに法人設立、世界各国へのコメ輸出を手がける。日本向けのコメ販売も視野にいれている。