海外で技術と経営、語学を学び、ベトナムに戻って起業/アルゴス有限責任会社・社長レー・ニャット・ロン

ハティン省出身、高卒で挑んだ韓国への海外出稼ぎ

 「2011年、高校を卒業したばかりの自分は生まれ故郷のハティン省から韓国・釜山に出稼ぎにいきました。8時間労働のあと、4時間は学習にあてました。6年間、韓国で技術や韓国語を学びました。大学はでていません」
 私がALUGOS社という金属加工企業の社長、レー・ニャット・ロンに学歴、職歴について質問したら、彼はこう答えた。
 ハティン省は、ベトナムの中部の省で、北部のホン河、南部のメコン河のような大河がなく、農地にする平野部も少ない土地柄で、農業にも適せず、海港からも遠いため、工業の発展も遅れている。そのために、海外への出稼ぎ労働者を多く輩出してきた土地柄だ。
 ベトナムの不動産開発を主とするヴィングループの総帥、ファム・ニャット・ブオン氏もハティン省出身だ。ブオンは旧ソ連に留学し、ソ連崩壊の最中にウクライナで起業して一財をなし、ベトナムに不動産投資を行って成功し、ふるさとに錦を飾った。
 これまでもこのBizmatchベトナム企業インタビューでは、日本や韓国に出稼ぎにでて、苦労して言語と技術を学び、帰国後、ベトナムで起業した創業者を何名か取材してきた。特に金属加工業では、海外出稼ぎからベトナムへ戻り、そして工場を設立したと語る起業家が多いことに気づかされる。
 このことはベトナムからの海外出稼ぎが、ベトナム人は生活のための金を稼ぐため、受け入れる国々は人手不足で単純労働を補うためだと説明されているが、そうした認識を覆すものではないだろうか。なかにはロンのように、帰国後、出稼ぎ先で習った言語と技術、工場経営のノウハウをもって、企業を起こし、立派に経営を維持、発展させている人もいる。ベトナムにとっても、日本や韓国にとっても、その技術移転を受けてベトナムの起業家たちが次々と製造分野で起業することは望ましいことだろう。

カスタムメイドの金属部品OEM製造が専門

 2017年にベトナムに戻ったロンは、製造工場が集積する南部ビンズオン省に2018年、金属加工工場を設立した。彼が得意とするのは、韓国で学んだ板金加工だ。彼の起こしたALUGOS社もまた、板金・溶接加工をメインにすえた工場となっている。
 ビンズオン省は、海外企業の誘致にも積極的な土地柄で、南部でもとくに製造業をはじめ、多くの日系企業が進出している先でもある。また、ホーチミン市のベッドタウンとしても開発が進み、日本の東急電鉄がベトナム企業べカメックス社とともに新都市開発を進めていることでも知られている。
 2025年7月1日からはビンズオンはホーチミン市と合併し、人口1400万人の大都市を形成する核の一つとなる。今後の発展がさらに期待される場所でもある。
 同社は顧客ニーズに合わせたカスタムメイドの金属部品のOEM製造を専門としている。従業員数も25名を擁している。品質においては、国際標準化機構のISO9001:2015を取得し、他の市場においても十分な品質基準をクリアすることに心をくだいている。
 主な製品は、カスタマイズ金属製品、HVAC(空調設備用)製品、板金筐体、家具・BBQ用製品、金型パンチプレス製品である。
 同社の強みは、レーザー切断、CNC加工(旋盤、フライス、穴あけ)、プレス加工(打ち抜き、曲げ、深絞り)、ベンディング、TIG/MIG溶接、粉体塗装、メッキといった幅広い金属加工技術を保有している点だ。試作品の制作も迅速に行い、顧客の期待に応えているとロンは話す。
 製品の主な用途で同社の特徴的な点は、運送車両、コンテナ車両、建設機械用の金属部品を提供していることだろう。オートバイ、家電製品用の部品も取扱いながらも、同社の板金加工技術から、他社では提供できない部品加工に対応することができる。
 月間の生産能力はコンテナ換算で4〜5コンテナ分を製造することができるとのこと。ただ年間の売上が100億ベトナムドン(約6千万円相当)程度なので、まだまだ受注の余力はありそうだ。
 同社はまた、製品の60%を輸出にまわし、40%は主にベトナムに進出した外国企業に製品を納めているとのことだ。
 主な輸出先は、日本、韓国、アメリカ、カナダであり、今後あらたに豪州向けにも輸出できるようになったとロンは語る。

大手企業へ直接納品できる企業へと希望

 ロンは大手企業への自社ブランドでの納品を目指しているが、支払条件など厳しいこともあり、大手企業に部品を供給しているサプライヤー向けに、そのサプライヤーのブランドで生産することが多いという。OEMに取り組むなかで、自社の信頼を高めて、ゆくゆくは大手企業に直接納品できる企業へと飛躍したいとの希望をもっているようだ。
 すでに日本企業との取引もある。オートバイ用部品の供給も行った経験があるという。そこで得られた印象は、日本企業は特に品質に対する要求が非常に高く、常に高い精度と美しい仕上がりが求められる。韓国企業と比べてもその傾向は顕著であり、ALUGOS社としてもその品質基準の高さによって鍛えられた一面もあるようだ。
 同社は当面、取引先のブランドでの金属部品供給に注力していきたいとのことだ。金属部品であれば、自動車、オートバイ、家電、工場設備など問わず、相談してほしいとのこと。特に対日向けの輸出の拡大に期待していると語るロンだけに期待できようというものだ。
 ロンは1992年生まれの33歳。ベトナムでは初対面であっても、既婚か未婚かを尋ねる、未婚となれば、恋人はいるのか?と聞きただすのが、普通だ。
 私もその習慣にしたがって、ロンに問いただした。すると「まだ結婚はしていません。恋人もいません」という。若くして起業し、25名の社員をかかえる企業の社長として、奮闘する日々だ。女性とお付き合いしたりする時間もないのだろう。まずは企業を立派に拡大、発展させることに力を注ぐロンは、苦学して言語と技術を学び、起業したガッツをこれからも見せてくれるだろう。

文=新妻東一

社長レー・ニャット・ロン

アルゴス有限責任会社
ALUGOS LIMITED LIABILITY COMPANY

プロフィール

2018年、ベトナム・ビンズオン省に設立された金属加工企業。社長はレー・ニャット・ロン。同社は、ISO 9001-2015認証も取得。板金加工を中心にカスタム金属部品などを製造し、製品の約60%を日本、韓国、米国などへ輸出。高品質・高精度を強みとし、輸出拡大を目指す。

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新妻東一Sanshin Vietnam JSC マネージングダイレクター

投稿者プロフィール

1962年東京出身。東京外国語大学ベトナム語科卒。貿易商社勤務、繊維製品輸入を担当。2004年ベトナム駐在。2010年テレビ撮影コーディネートと旅行業で起業。

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