微生物入り有機肥料販売し、有機栽培茶園経営に発展/アンドー農業商事サービス有限会社

 15、6年前、日本人農業技術者とともにラムドン省のダラットのトマト畑を訪問した。ダラットの土地は高地だが、湿度は高く、トマトに適した土地柄ではない。そのためトマトが病気になりがちだとのこと。農民はトマトが病気にならないように抗菌剤を20回も撒いてしまうのだという。抗菌剤は収穫まで4回が限度、それ以上撒いても意味がない上、農民の健康やトマトに残留する農薬が心配だと、その日本人技術者から教わった。見ると、畑のトマトは抗菌剤で真っ白になっていた。
 これも10数年前のこと、日本の農学の権威がベトナム旅行をした。帰る直前に夕食に招かれて、彼と一緒に食事をした。彼は観光地の行き帰りに農村に立ち寄ってみたという。すると農薬や肥料の空袋や容器をみかけたそうだ。そのいくつかは、中国ですら使用が禁止されている農薬で、農民への直接被爆や残留農薬による健康被害が心配されると顔曇らせていた。
 その後、ベトナムでは農業で用いる農薬や合成肥料による健康被害、環境への影響を最小限にとどめ、農水畜産物の輸出を奨励するために、農水畜産物の安全性を高め、高品質なものを生産できるように、ベトナム適正農業規範、VietGAPが2008年に定められた。
 この認証は農業における慣行栽培で、適切な量と回数の農薬を用い、「安全でクリーンな」野菜や農産品を市場に届けようとするもので、無農薬・有機栽培は要求しないものの、農民たちの意識改革と国民の食の安全への理解につながった。おかげで街には「クリーン野菜」「安全野菜」という言葉が浸透したほどだ。
 オーガニック、有機にも関心が集まっている。商品にはオーガニックをうたうものが街に溢れるようになった。ただ、実際にオーガニックかどうか、商品を見ただけではわからない。もちろんベトナムでも国際的なオーガニック認証である、米国農務省(USDA)オーガニック認証などを受けることも可能だ。
 ベトナムでは世界有機農業運動連盟​​(IFORM)による簡易な参加型の認証制度​​(PGS)が普及している。これは、地域ごとに消費者、生産者が中心となって農場の調査や認証を行い小規模ながら簡易に有機農業者を増やす仕組み​​で、村をあげてPGSの認証の取得に取り組む生産農家も増えつつある。
 ただ一般的には、市場などで購入できる野菜や農産物は原産地不明で、どのような生産方法で生産されている農産物かはわからない。加えて中国産の密輸農産品も売られているとのうわさもあり、また、ダラット産との表示のある梱包に中国産の野菜果物を詰め込む場所が堂々と存在するとの情報もある。産地偽装や安全野菜、有機野菜を装った農産品が流通しているとも言われている。

 今回ご紹介するアンドー農業商事サービス有限会社は、肥料、農薬、殺虫剤、農業機械など、農業生産に必要な資材、薬品を扱う会社だ。そして時代の流れは省農薬、オーガニックへ向かうと見越して、肥料については有機肥料、それも省農薬、減農薬につながる微生物入りの有機肥料を扱っている。代表のチン・トゥ・アイン社長にお話を伺った。今回の取材もZOOMを利用したリモート取材であることをお断りしておく。

 インタビューにあたり、最初に私が自己紹介をすると、社長のアインは私に何歳かを尋ねた。私が自分の実年齢を答えると、「あら、同い年なのね」と笑った。女性の年齢をここに明らかにするのは控えるが、同年輩とは思えない若々しい顔の女性がパソコンの向こうに微笑んでいた。まずそこに驚かされてしまった。
 彼女はある企業で経理、そして輸出入の仕事をしていた。取扱商品は石炭などだった。その中で知ったのは中国からベトナムへ殺虫剤が密輸で輸入されていることだった。彼女は農業を愛していると語り、まずは殺虫剤など、農業に必要な製品をベトナムの税関手続きを経て正規に輸入して販売することを目指して、2008年にアンドー社を立ち上げた。
 商売をする中で、殺虫剤や植物防護のための薬剤そのものが、農業にとってコストに跳ね返り、農民の健康を損ねる上、農産物に残留する薬品が消費者の健康にも有害であることに心を痛めるようになった。
 そんなときに彼女が出会ったのは、微生物入り有機肥料だった。この肥料を用いると、土壌が改善され、野菜や果物の風味もよくなる上に、微生物のおかげで農薬の使用もほとんどいらなくなるという。この微生物入り有機肥料を売りたいと試験を試みた。試しに使ってみると、確かに効果がある。自信をもって有機肥料の販売を開始した。
 しかし当初はまるっきり売れなかった。農民はこれまでのやり方に固執するし、販売業者は殺虫剤や薬品が売れなくなるような微生物入り有機肥料の販売には消極的だったからだ。次第にその肥料の効果を実感したところから、少しづつ有機肥料の販売が拡大していった。

 彼女自身もその肥料の効果を実感している。それは農園を手に入れて、お茶の生産をはじめたからだ。オーガニック茶葉としての生産を考えている。オーガニックのお茶を生産するための土壌改良に10年はかかるという。微生物入りの有機肥料を用いて、すでに6年が経過した。
 茶葉の生産は通常、大量の植物防護薬剤を必要とする。微生物入りの有機肥料を使用すると農薬はほとんどいらず、またもし農薬を使用するにしても農民や消費者にとっても害のない薬品を使用している。
 不思議なことに、この有機肥料を用いると、茶葉の苦味は抑えられ、煎じたお茶は甘味さえ感じられるという。また、彼女のつくるお茶を飲んでも、夜眠れないなどのこともなく、消化を助ける効果もあるという。ベトナムでは、少々苦味のあるお茶が好まれる傾向があるので、ベトナム市場のみならず、外国への輸出も視野にいれているようだ。抹茶などに加工して、飲料として用いるのみならず、菓子などの風味付に使用することができるようにしたいとの希望もある。
 彼女は茶葉のブランドを「Tay Truc Xanh(タイチュック・サイン)」とし、社名そのものもアンドーからTay Truc Xanhと変更しようと目論んでいる。彼女の茶所であるタイグエン省の茶園の近くにあるお寺の名前、Tay Truc寺にちなんでいる。寺院に参拝に訪れたお客様にもお茶を買って帰るようにしたいと考えている。
 彼女の販売する微生物入り有機肥料を普及させるためには、農民たちの意識改革が必要という持論を持っている。まずは肥料を試しに購入して試行をし、よいとわかったら、その肥料を用いて農産品をつくり、かつ、そこで採れたものの価値を認め、買い取ってくれる業者を育てることも必要だという。
 こうしたことは私企業だけでは限界があり、政府や企業の農民に対する支援が必要な分野でないかと熱く語ってくれた。
 日本にも2度訪れたことがある。わさび田も見学したが、清潔でクリーンな環境でしか育たない野菜だと知り、感銘を受けたそうだ。環境問題にも配慮された水耕栽培、ベランダや小さな菜園で個人が育てる野菜にも注目したそうだ。
 まだそれらを実現できる環境にベトナムは至っていないと嘆くアイン社長。「農業が好き」と語り、肥料や殺虫剤を販売する会社から、有機肥料を用いたオーガニック茶葉の生産へと大きく舵を切ろうとしている。その夢を実現すべく、アイン社長は日本からの出資、協力にも期待している。

文=新妻東一

アンドー商事サービス有限会社
AN DO AGRICULTURAL SERVICES AND TRADING CO.,LTD

プロフィール

2008年、ハノイ市に設立。創業者は社長のチン・トゥ・アイン氏。微生物入り有機肥料、植物防護剤、殺虫剤を販売。従業員15名。売上は122億ベトナムドン(2020年)。現在は有機栽培による茶園も経営、将来は有機茶の製造販売を目指す。

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