民謡にも歌われたカヤツリグサの名産地で自然素材のゴザ、バッグ製造・輸出/ヴェットアイン輸出加工株式会社

 「カヤツリグサのゴザならガーソン、タイルならバッチャン、絹布ならナムディン、絹製品ならハドン」ベトナム人が用いる日用品の優れた産地として知られる村や街の名が歌われた歌がある。

 バッチャンは古くから陶器の生産地としてしられ、レンガ・タイルの製造、窯業全般で有名な場所だ。日本でもその陶器は「安南焼」として知られる。

 ナムディンには数百年にわたって続く養蚕業の盛んな村があった。その昔は絹糸で漁網を編んでいたことから、養蚕業が栄えた。そこに目をつけたのがフランス植民地時代の投資家だった。彼らはナムディンに19世紀末に当時、東南アジア最大の織物工場を建設した。今もベトナムの繊維縫製産業の揺籃の地としてナムディンは知られている。

 ハドンにはヴァンフックというシルク製品で栄えた古い街が残されている。都市化が進み、まわりはすっかり近代的なマンションや住宅に囲まれてしまったが、今も絹布を織る織機のまわる音がする。どの村も伝統的な工芸で知られている、有名な場所だ。

 ベトナム語でチェウ・コイ、カヤツリグサで作られたゴザの産地として古くから知られているのがタインホア省ガーソンだ。カヤツリグサといえば日本では田畑に生える面倒な雑草だが、ここガーソン村ではカヤツリグサ属の一種が古くから自生し、ここでとれるカヤツリグサは繊維が細く、しっかりとして、つやがあるとされ、このカヤツリグサで編んだゴザはうつくしく、丈夫なものとして知られている。

 ベトナムの家では客人が訪れると、床にこのカヤツリグサのゴザをしき、その上にマムという大きなお盆をおく。茹でた鶏肉やおこわなど、ご馳走をならべ、その周りに車座になって座り、客をもてなす。だからこのゴザは各家庭にはなくてならないものだった。

 今回ご紹介するベトアイン社はこのガーソンにある会社で、ベトナム語で「コイ」、カヤツリグサでつくったバッグやボックス、花瓶などを製造、輸出している企業だ。社名はヴェットアイン輸出加工株式会社という。

 お話は創業者であり、現社長であるファム・ミン・トン氏に伺った。今回もZOOMを利用したリモート取材であることをお断りしておく。もしハノイから出向いたらタインホア省ガーソンまでは片道2時間30分はかかる。遠隔地にある企業を取材するにはリモート取材は便利このうえない。ただ、実際の製品や工場を見学し、代表者と直接会って話し、言語や映像では伝わらないなにかを感じ取ってみなさんにお伝えできないのが残念だ。

 同社は2009年、トンが創業者となって起業した。トンが会社をおこしたタインホア省は出光が投資したニソン(ギーソン)製油所や太陽セメントのギーソンセメントなど大きな投資プロジェクトが進められている。ベトナム中部は大河もなく、農業に適した肥沃な土地でもなく、また台風の通り道ということもあって、開発が遅れていた地域だ。しかし最近になって大型プロジェクトが次々と展開されている。

 トンは元々ガーソン村でカヤツリグサを使った製品を製造、輸出する会社に勤めていた。彼は会社勤めをしながら、いつも悔しい思いをしていた。新しい商品や販路などをもっと開発すればいいのにと会社に提案するも、それはいつもとりあげてもらえなかった。しびれを切らしたトンは自分のアイディアを実現するために、自らカヤツリグサの製品を製造、販売、輸出する会社をつくったのだった。今から14年前のことだ。

 同社のウェブサイトをみると商品はカヤツリグサを利用した商品といっても、ゴザばかりではない。伝統的なカヤツリグサのゴザ、「チェウ・コイ」にはじまり、玄関マットや鍋敷き、ランチョンマット、バッグ、箱やカゴ、ポップな色合いの動物マスコットまで、種類も色柄も豊富に取り揃えている。素材もカヤツリグサ以外にホテイアオイや竹製品も扱っている。

 主な輸出先は米国と欧州各国とのことだ。なかでも米国向けは同社の輸出の6割を占めているという。毎年、アメリカ特に東海岸の顧客やスーパーを訪れ、同社が納めている類似の製品の動向や色や形などを視察し、その年の今後の製品展開や価格政策に活かしているという。なかなか商売熱心な社長だ。

 売上も2021年には約600万米ドルを計上することができ、コロナ禍にあっても2019年対比で売上を2倍にまで伸ばしてきたことをトン社長は強調した。ただし昨年、2022年は若干売上が伸びず、約500万米ドルに止まり、今年2023年は約500万米ドルを確保して、さらにその上を目指すと意気込むトン社長。

 生産能力としては9000平米の土地に3つの工場建屋があり、月に40フィートコンテナ換算で、50〜60コンテナの輸出にも対応できるとのことだが、現在はその能力の50%の稼働率だそうで、さらに販売市場の拡大を目論んでいる。

 また自然素材の工芸品の場合、よく問題になるのが表面でのカビの発生だが、同社では乾燥機をもちいて、加工前に乾燥を完全に行うので、カビの発生の心配はまったくないとトン社長は自信をもって応えてくれた。

 トン社長が期待する市場は日本市場だ。かつて日本の商社数社と取引があったが、長いこと取引が途絶えているという。日本企業との取引には信頼をおいている、日本人の働き方や時間厳守といった考え方には好感をもっているとのこと。まだ日本を訪れたことはなく、展示会などにも参加してこなかったとのことだが、商売を拡大するためにはビズマッチの読者の中から同社へのアプローチを期待するとのメッセージもちょうだいした。ぜひコンタクトをとられてみてはいかがだろう。

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ヴェットアイン輸出加工株式会社

社長のファム・ミン・トン(右)

ヴェットアイン輸出加工株式会社
VIET ANH SEDGE PRODUCTION EXPORT JSC

プロフィール

ハノイから車で2時間30分の距離にあるタインホア省ガーソンに2009年創業。社長はファム・ミン・トン。主な製品はカヤツリグサ、ホテイアオイ、竹を編んでつくった、バッグやマット、小物などの工芸品。主な輸出先は米国と欧州。日本向け輸出に期待。

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