養殖も手がけ、世界にベトナムのエビを輸出するエビ専門輸出会社/チョンニャン・シーフード有限会社

 天丼といえばエビ天がなければはじまらない。フライならやっぱりエビフライだろう。中華ならエビチリが人気だ。こう考えると日本の食生活にはエビが欠かせない。

 かつて日本はエビの消費国、輸入国としては世界でも有数だった時代がある。時代は移ろい、現在のエビ消費・輸入大国といえば中国、欧州、米国なのだそうだ。かつては東アジア、東南アジア料理に欠かせない食材としてエビが好まれていたが、最近ではエビが栄養とダイエットに優れた食品であることが注目され、欧米でも消費が伸びている。中国はエビの生産地でもあるが、環境の変化によるエビ生産の減少から、海外からの輸入量が急増し、世界トップのエビ輸入国となった。

 エビの供給・輸出国にも変化がみられる。2015年ぐらいまではエビの輸出国としてベトナムが1位だったが、ここ数年はエクアドル、インドが急伸し、ベトナムは輸出国としては2位から3位に甘んじている。ベトナムのエビが振るわないのは、そのコストにある。たとえばエクアドル産のエビの生産コストはベトナムのエビの1/2から1/3といわれている。インド産のそれはベトナム産の2、3割というからコストでは太刀打ちのしようがない。

 ただベトナムも農業農村開発省を中心にエビ輸出産業のハイテク化と大規模な生態養殖を実行することで、輸出国ナンバーワンの地位を取り戻そうとしている。

 今回紹介するのは、エビ専門輸出業者、チョンニャン・シーフード有限会社だ。本社はベトナム南部ロンアン省にある。お話を伺ったのは同社の副社長、ダオ・ティ・ミー・チュー氏。ベトナムでは珍しくもないが、女性管理職である。このたびの取材もZOOMによるリモート取材であることをお断りしておく。

 同社の本社はベトナム最南端のカマウ省にあるが、工場はホーチミン市から車で2時間弱、ロンアン省の国道1号線沿いにあり、地のりがある。実は、ロンアン省には海がない。ただし省内には川が流れ、淡水と海水が入り混じる気水域といわれる河口に面している。

 エビが生息するのは海という思い込みがあるので、なぜ海のないロンアン省にエビの冷凍加工工場があるのか、と不思議に思われるかもしれない。

 エビはもともとそれほど深くない海に生息する生き物だ。稚魚ならぬ稚エビの段階では河口域、すなわち淡水と海水とが入り混じる場所に生息する。海水ではなく淡水または低塩水中でもエビは育つことがわかっており、内陸でのエビの養殖が確立されている。ベトナムでは、田んぼなどでエビの養殖をしている光景をみることができるのだ。

 メコンデルタを中心に内陸でのエビ養殖が盛んで、ベトナムの輸出用エビの生産が盛んに行われている。それゆえ生産地と消費地、輸出港に近いロンアン省にチョンニャン社の工場がある。

 チョンニャン社は、水産物の仲買人だったヴォー・ホアン・フン​​社長が2009年、国営の水産工場を買収して設立した水産物輸出会社だ。冷凍工場であれば、エビ以外の水産物も取り扱うのが普通なのだろうが、ロンアン省という海に面していない省にある水産工場なので、エビの輸出販売を専業とすることで、差別化をはかっているといってもよいだろう。

 エビの取扱い品種は、ブラックタイガーが2割、バナメイエビが8割だという。日本の市場ではクルマエビ類のエビとしてどちらも知られている。かつてはブラックタイガーが養殖品種としては一般的であったが、現在ではブラックタイガーよりバナメイエビの方が養殖品種の主流となっている。

 チューに理由をたずねたところ、ブラックタイガーは稚エビから育てても5ヶ月かかるが、バナメイエビは3ヶ月から3ヶ月半で出荷が可能であり、育てやすいこともあり、養殖の生産の主流がバナエイエビに移っているいるのだそうだ。

 同社は30ヘクタールもの自社の養殖場を有し、年間1580トンのエビを養殖している。ただし、自社で養殖しているのは同社の生産量全体の2割であり、その他の8割は他の養殖場から原料のエビを調達している。

 エビは冷凍品といっても、客先、国別によって加工方法や冷凍の姿が異なっている。様々な加工、姿にて供給が可能だ。IQF、すなわち個別急速凍結によるものがほとんどだが、生きたままの出荷もできる。また、尾つき/なし、頭つき/なし、殻つき/なしなど多様な要求に応えることができる。日本特有の「のばし」や「ひらき」などにも対応している。また、マリネードされたものや串に刺した形や、プリプリ感をだすための食品添加物を加えたエビの提供も可能だ。

 主な輸出先は米国、欧州、日本、シンガポール、オーストラリアだ。中国向けは市場が不安定かつリスクが高いため、取引はあってもわずかだという。特に日本向けは大手水産会社にも輸出している。

 最大の市場は米国で輸出全体の30%、欧州EU向けは25%、日本向け、シンガポール向けがどちらも15%、その他国で5%となっている。

 2022年は4000トンもの製品を輸出、3,500万米ドルの売上を達成している。

 エビは養殖場にあるときから、定期的に同社の社員が検査、品質管理を行い、市場ごとに異なる基準をクリアしているかどうか、調べるのだという。輸出前の商品検査はもちろんのことだ。昨今では抗生物質の使用なども厳しく管理されるので、その管理は怠らないという。もちろん「危害要因分析に基づく必須管理点(​​HACCP)」をはじめ、BRC(英国小売業会食品安全規格)、ASC(水産養殖管理協議会​​認証)、BAP(ベスト・アクアカルチャー・プラクティス)、ハラール認証といった国際的な基準認証などもクリアしているのは輸出水産加工工場としては当然だろう。

 特に日本向けは今後ぜひとも輸出を拡大したいと同社は意気込んでいる。日本向けは取引が安定しており、長期的に取り組むことができること、バイヤーも技術者を送り込み、技術移転を含めて、工場とともにカイゼンに取り組んでくれるなど、輸出者にとってもメリットは大きいと副社長のチューは語る。

 もちろん、インド産のエビが日本の市場を席巻していることは知っているという。価格はベトナム産よりも安く、品質も日本の市場が受け入れられる最低限のレベルのものをインドは提供していることも知っている。それでもベトナムの方が品質において優れている上、多年にわたり日本市場もよく知っているのがベトナムの水産工場だ、と胸をはる。日本の業者であれば、中小の業者を含め、ぜひチョンニャン・シーフード社の門を叩いてもらいたいと強烈なラブコールを受けた。

 日本市場の良いところを知る同社のラブコールに応え、日本のエビ輸入業者のみなさんにはベトナムを訪れ、その品質と価格を確かめてもらいたいものだ。

文=新妻東一

TRONG NHAN SEAFOOD CO., LTD
チョンニャンシーフード有限会社

プロフィール

創業2009年、本社はベトナム最南端のカマウ省にあり、工場はロンアン省にある。社長はヴォー・ホアン・フン​​で創業者でもある。フンは元水産物の仲買人だったが、国営水産工場を買収し、チョンニャン・シーフード有限会社を創業。2022年は製品4000トンを生産・輸出、売上3,500万米ドルを達成した。主な輸出先は米国、欧州、日本、シンガポール、豪州など。日本向けの輸出増を目論む。

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