ベトナムの縫製工場:国営から出発し民営化、SDGsの課題にも取り組むチエンタン縫製

ベトナム縫製工場(チエンタン縫製会社)での作業の様子

すでに先進国となった国の産業の発展史の中で、繊維縫製業が花形だった時代を経ていない国はない。英国の産業革命にあって紡織業が果たした役割は計りしれない。日本も開国後に世界へ輸出され、外貨を稼いできたのは生糸だった。

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ベトナムで戦後から半世紀を超え発展してきた繊維縫製業

半世紀以上の歴史を持つベトナム北部ハノイの縫製工場

ここベトナムにおいても長らく軽工業、中でも繊維縫製業は輸出産品の中でも輸出商品として、その輸出金額において筆頭の地位を保ってきた。ここ最近は携帯電話とその部品にその地位を譲ってしまったが、それまでは水産、農産物をおさえて、第一位の商品だった。

今回ご紹介するのは創業年は1968年、半世紀以上の歴史を持つベトナム北部ハノイの縫製工場だ。その名もチエンタン縫製会社。日本語に直訳すると「戦勝」縫製といかめしい。それもそのはず、前身はベトナム戦争中に創業した軍服、軍装品を生産する国営の軍需工場だったのだ。

戦後は旧ソ連向けの縫製品輸出で成果を上げたが、1990年代初頭にソ連・東欧の体制崩壊を受けてチエンタン社は窮地に陥る。しかしドイモイ政策への転換の時期と重なって新たに西側諸国に市場を開拓し、新技術も導入、中でも刺しゅう機を購入して付加価値をつけた商品を輸出できるようになり、市場経済化の波に乗って、同社は目覚ましい発展を遂げた。まさにドイモイ政策のもとで寵児となった企業であった。

成長と変革:2005年の株式会社化と事業拡大

2005年には株式会社化を図り、間接部門の人員を減らし、価値を生み出す直接部門の労働者を増やす、機械も最新鋭の設備に投資するなどした。
事業を拡大するために工場もハノイのみならずタイグエン省にも建設した。一時期は3千名を超える従業員を抱える、縫製業としては大企業に発展した。

市場の新規開拓と主要な商品ライン

日本市場への売り込みに意欲的な縫製会社

そのチエンタン縫製会社に5年前から働いているチャン・ティ・ゴック・ラン氏にお話を伺った。
彼女は市場開発部の副部長だ。チエンタン縫製ではマーケティング、市場の新規開拓が主な仕事だ。今回も日本市場への売り込みに意欲をみせてくれた。なおこの取材はZOOMを利用したリモート取材であることをお断りしておく。

ベトナム縫製工場(チエンタン縫製会社)の工場風景

現在の商品ラインと主要顧客

チエンタン縫製の得意とする縫製品はジャケットやコートなどの重衣料だ。特にダウンジャケット、コートなどを得意としている。他にスウェットシャツ、水着、Tシャツ、ポロシャツといったカットソーが続く。

主な顧客はZARAGUESSなどファストファッション系の量販向けからカルバン・クラインPEUTEREYといったブランド品まで手がけている。
年間100万着のキャパシティがあり、2022年の売上は約700万米ドルだ。

主な顧客先は、zaraなどで2022年700万米ドル

挑戦と課題:縫製労働者の確保と工場の立地戦略

労働者確保のための取り組み

同社にも悩みはある。それは縫製労働者の確保だ。
チエンタン社は元々ハノイに工場を立地していたが、都市部の発展にともない、ベトナム北部のタイグエン省にも20世紀末に工場を建設した。そのタイグエン省にも韓国の携帯電話、家電メーカーであるSamsungが工場を進出させたため、工場労働者の賃金も上昇、労働集約型の産業である縫製産業はダメージを受けた。縫製産業は労働の密度は高い割に工賃も安く、労働環境も決して良いとは言えない。

そうした変化に対応して、チエンタン社はベトナム北部の山岳地帯に工場を建設した。バッカン市、イエンバイ市、ギアロー県など、いずれも山岳少数民族が暮らす、まだ開発の手が及ばず、安定した職業、産業の誘致が待たれている地方である。

ベトナム北部の山岳地帯

ベトナムにおいてはこれらの山岳地帯は都市部と比べて最低賃金も低く、各種税制優遇も受けられる。同社は国の指導も受けて2003年から山岳地帯へ工場を建設したそうだ。元国営工場だけに貧困削減政策など国が求める社会的な要請にも応えて会社運営を進めている。

縫製労働者のスキル向上、商品の品質向上への取り組み

同社はまた顧客ごとに品質、納期を維持するために13ある縫製ラインに対して1、2ラインを顧客毎に固定する手法をとっている。同じ顧客、同じ商品を固定して流せば、縫製労働者の熟練度も上がる。熟練度があがれば、商品の品質面、納期面でも安定してくる。

品質、納期を安定させる上では、電子、電気関係の工場にも負けない労働者の賃金レベルを維持し、同時に安定的に縫製の仕事があるように受注にも気を配っているという。

新しく工場に加わった労働者への研修にも力を入れ、いち早く戦力となるように指導するという。工場を経営する側としては市場や価格に対する理解を常にアップデートし、同時に工場の在り方そのものも常に見直し、改善をはかり、市場の変化にも対応していると話すラン氏。

ベトナム縫製工場(チエンタン縫製会社)で働くメンバー

コロナ危機への対応と今後の展望

コロナ感染拡大による工場への影響

コロナ感染の拡大でこの数年間受注減や工場稼働に対する影響について質問した。
ラン氏は次のように答えた。
「工場はベトナム北部の、それも山岳地帯に立地していたため、都市部で行われたロックダウンなどもなく、製造を維持できました。原料、副資材を中国から購入していたものはベトナム製に切り替えるなどして対応しました。各国から受注が減った分は、マスクや防護服などの縫製を行い、仕事を確保しました」

世界的な感染症拡大といった危機に対しても同社は柔軟に対応し危機を乗り越えてきた。その点でも信頼のおける企業であると言っていいだろう。

持続可能な発展への取り組み

同社は縫製労働者を確保するために、国の奨励する貧困、生活困難な地域である山岳地帯、少数民族の多く住む地域へ積極的に工場を建設している企業である。

日本の小売企業やアパレルメーカーなどが進める、スウェットショップ、つまり違法なレベルでの低賃金、児童労働を行う搾取工場で作られた商品を購入しないという動きがある。私たち消費者ももの作りをしている労働者のことを考えて、商品を購入することが求められている

国連の提唱するSDGs持続可能な開発では、貧困削減も大きな指標のひとつだ。スウェットショップに反対するのみならず、チエンタン縫製のように積極的に山岳地域に工場を立地し、多くの少数民族を雇い入れて彼ら彼女らに雇用と安定した収入をもたらす企業に発注し、その商品を購入することは貧困削減にもつながるのではなかろうか。

「少数民族同胞の女性たちに安定した収入をもたらすことで、私も同じ女性としてうれしいことだ」と同社の市場開発部のラン氏もそう述べた。

国営企業から出発し、今は民間企業、株式会社となって、新しい縫製企業のあり方を模索している。日本の企業はさらに低賃金の工場を求めてベトナムから南アジアや他の東南アジア諸国へと目が向いてるいるようだが、その前にチエンタン縫製のような企業があることも、その選択肢に加えても良いのではなかろうか。

チエンタン縫製株式会社 市場開発部副部長・チャン・ティ・ゴック・ラン氏

チャン・ティ・ゴック・ラン氏
同社市場開発部副部長・チャン・ティ・ゴック・ラン氏

チエンタン縫製株式会社
Chien Thang Garment Joint Stock Company

プロフィール

創業1968年の老舗縫製工場。軍服、軍装品の縫製から出発、戦後は旧ソ連向けの輸出で活路を見出すもソ連・東欧の体制崩壊。その後市場を西側企業に求め、輸出縫製企業として活躍し、2005年には株式会社化。現在は山岳地方に縫製工場を立地させ、労働者を確保し、かつ、貧困地帯への就労機会を与えることで、持続可能な開発の課題にも取り組む。

さらに詳細な情報を知りたい場合は
下記よりお問い合わせください。


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