経営哲学は「顧客」「従業員」「投資家」「取引先」の4つのWin!/HIKARI GROUP

 「わたしは会社経営においていつも『フォー・ウイン』を目指しています。ひとつはまず『顧客』、ふたつめは『会社の幹部・従業員』、3つめは会社に出資してくれた『投資家』、4番目には『パートナー』取引先ですね、この4者がすべてWin(ウイン)であるような経営を目指しています」と、今回のインタビュー相手のHIKARI GROUP社長、グエン・ドゥック・クオン氏は今回の取材の中で語った言葉だ。インタビュー時の彼の言葉の中でわたしがもっとも気になった言葉だ。
 「ウイン・ウイン」、この言葉は最近よく耳にする言葉だ。調べてみると、米国の作家・経営コンサルタントであったスティーブン・R・コヴィー氏が1989年に出版した「7つの習慣」というビジネス書、自己啓発書の第4の習慣として「Win-Winを考える」という項目がある。同書は以来、全世界で4000万部を売上げ、日本でも250万部を超えるベストセラーだとされ、手にとって読まれたことがある人も多いだろう。
 彼の著書から、この「ウイン・ウイン」という言葉が広まっていったとされている。ウインが「勝ち」を、ルーズが「負け」を意味しているため、あたかも人間関係や仕事上の取引関係をあたかも利益のあるなし、勝ち負けで判断しているかのように狭く考える人も多いようだが、同書でコヴィー氏が戒めているように、この第4の習慣はなにか人間関係をうまくいかせるためのテクニックではなく、むしろ倫理や哲学的な意味でとらえるべきだとしている。
 考えてみれば、人間関係も商取引も、誰かが一人、勝ちをとりにいって、他の人が負けるような関係は一時的には成立しても、長続きはしない。違いにその関係を維持することにメリットがなければ、関係は長続きしないだろう。
 そして、ある取引が売り手と買い手がともによし、とするのみならず、世間、社会にとってもよいものでなければいけないとする近江商人の「三方よし」という考え方にも通じるものだ。
 経営者、ただ一人が「勝ち=Win」を取りにいくのでは、会社経営はなりたたない。顧客は当然として、従業員、投資家、取引先、そのすべてにおいてメリットのある関係を築かないかぎり、会社の存続も発展もありえないというのがクオン氏のいう「フォー・ウイン」だろう。もちろんこの言葉ぐらい言うは易し、実行するのは難しいことばはないかもしれない。

 クオンの経営する会社の社名は「ヒカリ・グループ」という。HIKARIという日本語の社名だが、クオンのベトナム資本100%の企業だ。社名は経営や技術などを学んだ日本、日のいづる国の太陽のひかりにあやかって命名したのだそうだ。
 同社は、プラスチック成形とその金型をつくるメーカーでありつつ、プラスチック成形関連の機械設備や化学品、助剤などの代理店として販売も行っている。また、自動化・技術サービスの提供、人材に関するコンサルティングや研修に加えて、国内外の会社のビジネスマッチングなども行う、たいへん意欲的な企業だ。創業は2010年と創業14年の若い会社だが、すでに子会社3社を有しているグループ企業でもある。
 創業者のクオンは1981年生まれ。ベトナム北部・タイグエン省出身。タイグエン省といえば、ベトナムでも鉄鋼産業が盛んな街。鉄鉱石をはじめすずや亜鉛などの非金属類にも恵まれ、石炭もでることから、1959年に今も稼働する製鉄所が建設されたことでも知られる。鋳物業も盛んだった。そんな街に生まれたクオンは、タイグエン省の大学で機械工学を学んだ。
 卒業後は国営企業で建設プロジェクトに関わった。2年勤めたあと、転職して2004年には日系のプラスチック成形関連の企業に就職した。日本人の現地責任者は自分を信頼してくれたと語るクオン。しかし、交代で新たに赴任した若い現地責任者とはそりがあわず、結局その会社には4年半勤めて退職した。
 「当時はまだ資本金もなく、大脳皮質を働かせて稼いだ」と笑うクオン。大脳皮質、つまり頭を使う頭脳労働、技術職として働いた。日系大手企業向けに工場設備などの保守・修理で信頼・信用とお金を稼いだ。
 そして2010年には独立し、念願の自分の会社を設立した。社名はベトナム・ヒカリ製造商事有限責任会社。日系企業に学び、そして日本の国際機関からの裾野産業経営者への支援も受けたことから、感謝と尊敬をこめて社名もヒカリと日本語からとった。
 プラスチック成形関連の機械設備や化学品、助剤のベトナムにおける販売代理店権も獲得し、商事会社としての販売力もつけていった。
 様々な会社との取引きをし、工場にも出入りしていったことから、A社をB社に紹介して、会社同志を結びつけるビジネスマッチングも事業の一つにしていった。
 その中で、プラスチック成形部品の製造工場をやってみないかと誘われて、メーカーに出資もし、最終的には子会社化を果たした。プラスチック成形部品のみならず、金型製造にも乗り出した。ISO9001、14000の取得も果たした。
 現在、同社はハノイを本店とし、ホーチミン市にも支社を設け、加えてハノイには、工場への機械設置・保守修理などの技術サービスを提供するベトナム・ヒカリ自動化・技術サービス株式会社、そしてベトナム北部・バクザン省にはプラスチック成形製品を生産するSUNPLA株式会社を有するグループ企業にまで発展した。グループ全体での従業員数は500名で、日本の基準からしたら、すでに中小企業とはいえないレベルにまで成長した。
 現在はViettel、Vingroupといったベトナム大手からキャノン、京セラ、ニデックといった日系企業をはじめとする外国投資企業30社以上との取引がある。

 日本人あるいは日系企業と取引する上での困難さはあるかという問いに対して、彼は「わたしのあくまで個人的な困難さということで理解してください」とそう前置きをしてから、次のように語った。
 まずは言語。彼が習得した外国語は英語で、日本語はできないのだという。あるときは日本人の営業マンはいないのか?と日系企業に尋ねられることもあるという。彼はそれを日本語のできるスタッフや、外部の日本人協力者に協力してもらうことで、システムとして乗り切ってきた。大手日系企業からも信頼を得ているし、取引してきた経験年数では誰にも負けないとの自負があるという。
 もう一つ、彼が障害だと感じているのは、原材料を中国やタイから輸入しなければならないことだ。結局自国製ではなく、材料を輸入でまかなえば、製品にコスト高として跳ね返ってくる。この点はベトナムの弱点であり、自らの工場の弱点でもあり、もどかしいようだ。
 そしてさらにはマネジメント。ベトナム人は日本人と違い、自らの能力、技術を磨く前に、まずは金持ちになりたい、そういう気持ちが強い。それ自体は悪いことではないが、結局、自分の能力は不十分でも、少しでも給与の高い会社へ転職してしまう。それはベトナム社会の発展にとってはよいことではないと感じているそうだ。
 
 インタビュー中もことあるごとに日本の企業からの学びや、JICAをはじめとする日本政府・非政府組織からの無償の人材育成制度で、経営や技術を学ぶ機会を得てきたことに感謝したいと述べるクオン。だからこそ、彼はベトナムの大学や教育機関と連携し、人材育成、若者向けのスタートアップ、起業家育成などのプロジェクトにも積極的に関わっていると話してくれた。
 そして日本とベトナムの経済がともに発展するようにプラスチック産業のみならず日越企業間のマッチング、橋渡しなどを無償で行うようにもなっているという。直近ではベトナムのフォーを日本に紹介する、という食品産業の橋渡しも行ったそうだ。
 メイド・イン・ベトナムの製品が日本のみならず、世界に輸出されると同時に、ベトナム人の人材育成に貢献して、世界にはばたき、グローバルに活躍するベトナム人をより多く生み出したい、そうクオンは願っているという。
 クオンは「ベトナムや日本、世界のすべての人々がゆたかで、しあわせであってほしい、そう願っています」とてらいもせず、はっきりと語ってくれた。
 「フォー・ウイン=4 Win」、クオンの経営哲学そのものが、まずはその思い、願いの第一歩なのだろう。

文=新妻東一

HIKARI GROUP
(HIKARI VIETNAM PRODUCTION AND TRADING COMPANY LIMITED)
ヒカリ・グループ
(ヒカリベトナム貿易・製造有限会社)

プロフィール

2010年ハノイに創業。社長はグエン・ドゥック・クオン。タイグエン省の大学で機械工学を専攻、卒業後は国営企業、日系プラスチック成形会社に勤めたのち、独立。最初は保守修繕にはじまり、プラスチック成形関連の機械設備、化学品販売を行い、プラスチック成形メーカーを買収し、企業グループ傘下に備える。本社のほか、子会社3社を傘下にするグループ企業。日本・日系企業からのプラスチック成形製品、金型の注文を期待している。

>> この企業のプロフィール情報を見る

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

コメントは利用できません。

おすすめ記事

カテゴリー一覧

ビジネスに役立つベトナム情報サイト
ビズマッチ

ページ上部へ戻る