脱サラして帰郷、ふるさとで有機農業、地味豊かなをふるさとを取り戻したい/ナムジャン農業・サービス協同組合

 今回ご紹介するのはベトナム中部高原地帯といわれるジャライ省のナムジャン村の農業協同組合だ。日本人にとってベトナムのジャライ省といっても馴染みのない方が多いだろう。 ジャライ省はもともとベトナムの少数民族であるエデ族やバナ族の住む土地であったが、開発は進んでいなかった。フランス植民地時代にはフランス人宣教師たちが盛んに少数民族の人々にキリスト教の布教に努めたぐらいだ。

 ベトナムとフランスとの戦い、第一次インドシナ戦争がジュネーブ協定に終結するも、ベトナムは南北に分断され、北緯17度線以南は米国の後押しでゴー・ディン・ジエムを大統領とする「ベトナム共和国」が成立した。

 そのジエム大統領が土地改革の一端として取り組んだのが「営田政策」=開拓移住政策だ。クアンナム省などベトナム中部の人々を中部高原、とくに現在のジャライ省やダクラク省に移住させ、農業を営ませた。1957年から63年にかけて実施された。目的は「民生の改善」「領土の実効支配強化」「無産農民の資産家化」いわば開拓民に土地を与え、民生を安定させ、反政府的な運動を抑えこもうとしたのだ。だが開拓民は強制的に移住させられた上に、彼らには農業の経験もなく、計画は失敗した。人々は故郷に帰るか、省都に移り住んだ。

 中部高原地帯には1975年の南部解放以後も、今度は北部ベトナムからの移住も進み、ジャライ省の住民の多くはベト(キン)族となっている。

 このような歴史的な背景のあるジャライ省。そこに1975年、1人の男の子が生まれた。名前をグエン・タン・コン。彼は長じてホーチミン市経済大学に経済を学び、卒業後はある大企業に勤めていた。彼は思うところあって勤めを辞め、故郷のジャライ省に戻る。2010年のことだ。そして2013年、思い立って農業をはじめたのだ。

 「私が幼かったころは、ジャライの土地は地味豊かな土地でした。しかし、ふるさとに舞い戻ってみると、土地は化学肥料と農薬の大量使用で豊かさを失っていました。私は農業に関する多くの書物を読み、自分の住み暮らすふるさとの土地に有機農業こそが相応しいと気づいたのです」とコンは語る。

 日本の農業協同組合、農協の活動のすばらしさにも学び、周辺の農民たちにともに有機農業を取り組めるように、株式会社や有限会社などの企業体ではなく農業協同組合を立ち上げることを企図した。2017年にナムジャン農業・サービス協同組合を設立、ジャライの土地に適していると言われているコーヒーとコショウを主に生産している。

 現在の協同組合員数は100名。構成員の農地総面積は200ヘクタール。加工工場の敷地面積は5000平米だそうだ。

 同協同組合の特徴は工場に梱包設備も備え、顧客向けの最終製品を生産することができ、自社の農産品の付加価値を高めて販売する努力をしていることだ。他ブランド生産、つまりOEM生産も請け負うことができる。

 「すべては私たちの暮らす環境と、生産者と消費者の利益のためにと営利を目的とする起業体ではなく、非営利の農業協同組合を立ち上げたのです」と胸をはるコン。

 昨年の実績はコーヒーは年間200トン、コショウは150トンという。主な売り先は国内が中心だ。もちろん輸出も希望しているが、ブランド力はなく、海外輸出の経験もないので、輸出の際にはブランド力のある企業の手助けが必要だという。

 もちろんすべての同社製品は有機農業ではなく、慣行栽培、つまり化学肥料や農薬を使って生産されているものも含まれている。技術的な障壁もあり、有機農業に踏み切れない農家もまだあるという。

 有機栽培農家では牛糞やコーヒー豆のカスなどを利用したコンポストを利用している。また植物防護剤にはニームオイルなどを自製することも検討課題にしている。現状では企業から有機栽培に適した植物由来の植物防護剤を外部から購入して使用しているそうだ。

 「ジャライの土地は化学肥料と除草剤の使いすぎで土地がやせてしまっているんです。人間にたとえれば、タバコの吸いすぎで冒された肺みたいなものです。それを改良するにはコンポストなどの有機肥料を用いて、2、3年かけて土地を改良しなければならないんです。そうした技術を専門家から学び、農民同士も知識、経験を交流し共有する努力もしています」

 有機農法でできたコーヒーやコショウは独特の甘さや、おいしさ、香りもよいものができると自負するコン。収穫できる年月も化学肥料の場合には5〜7年程度だが、有機農法の場合は10〜12年程度の期間、収穫ができるようになるともいう。

 ただ悩みもある。

 「当協同組合の商品は品質のよい製品であると自負しています。まだベトナムの市場においては有機農業や健康に関心をはらう層はまだそれほど多くなく、その価値の高さが評価されずに買手も限られていることです。コーヒー豆も完熟した実のみしか収穫していませんので、味の良さには自身をもっていますが、消費者に受け入れられるものになっていないことが悩みです。

 

 有機農業をはじめたことにより、ドンナイ省やダックラック省などベトナム各地に同じ志をもつ有機農法を取り入れた農家の人々との交流やつきあいが広がっていることがうれしいとコンは語る。自分たちの目指す農業への確信はゆるぎないものだと彼のくちぶりからは感じられた。

 「私は3人の子どもの親でもあります。子どもの1人はホーチミン市の農林大学で勉強をしています。子どもたちにも農業の楽しさを伝えたいですね」

 彼は信念を持ってベトナム、そして故郷であるジャライの農業を化学肥料や農薬によらない有機農法を取り入れるように願っている。そして自らの利益ではなく、環境と生産者、そして消費者にとっての利益を優先して考えているのだ。

 コンの試みがジャライ省ナムジャンで、そしてベトナムで成功し、多くの人に認められる日のあることを願わずにはいられない。

文=新妻東一

ナムジャン農業・サービス協同組合
NAM YANG AGRICULTURE AND SERVICES COOPERATIVE

ブロフィール

2017年ジャライ省ナムジャン村に設立。組合員100名。主にコショウ、コーヒーを生産。日本の農業協同組合(農協)に学び、利益のための企業体ではなく非営利目的の協同組合とした。化学肥料と農薬によって痩せてしまったジャライの農地をかつてのように蘇らせ、環境、生産者、消費者にとってよい有機農法の普及を進める。有機農法に関心のある日系企業との提携を希望。

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