江戸初期に珍重された「安南焼」の産地バッチャンに生まれ、陶器製造販売業を起業した女性社長/アンドー有限会社

 日本では「安南焼」と呼ばれる骨董品のあることをご存知だろうか。尾張徳川家に伝わる宝物を収集、展示した徳川美術館、東武鉄道社長で骨董収集で有名な根津嘉一郎氏の根津博物館などには安南焼の茶碗や水差しが陳列、保存されている。
 安南焼とは室町時代から徳川幕府時代初期にベトナムの北部の陶器産地から輸入されたもので、特に茶碗、水差しなどは茶器として珍重された。模様はトンボやエビといった独特の図柄だ。
 この安南焼、実はハノイ郊外のバッチャンが産地の一つとされている。中国が明の時代、密貿易を取り締まるために当時の明王朝は14世紀に海禁政策をとり、中国人の交易と海外出国を禁じた。そのため中国の陶磁器の輸出が制限されたため、代わりにタイ、ベトナムなど東南アジアの陶磁器の生産地が注目を集め、欧州や日本に盛んに輸出された。バッチャンはそうした陶磁器の産地の一つだった。
 日本に輸出されたトンボやエビなどの図柄の陶磁器は産地であるベトナムではほとんど発見されないことから、日本からの注文によって生産されたものであると推測されている。時代は16、17世紀、今から400〜500年も前のことだ。ベトナムの安南陶器と日本の関係は実に古い。
 今回紹介するアンドー有限会社はハノイ郊外の陶磁器の産地、バッチャンに位置するバッチャン焼きの生産および販売を行なっている会社だ。
 代表者であるブー・ティ・カム・トゥーさんにお話を伺った。なお、この取材はZOOMを利用してオンラインで行っていることをお断りしておく。

 カム・トゥーは1972年、ハノイ郊外のここバッチャン村に生まれた。両親はもちろんバッチャン陶器の製造を家業として行っていた。子供の頃から陶器製造をする両親のもとで家業の手伝いもし、陶器生産の最初の工程から最後までも実地で覚えた。
 「子どもの頃からバッチャン陶器のことがとても好きでした」というカム・トゥー。
 大学はハノイの国民経済大学に進み、経営や外国語も学び、ハノイ貿易大学のコースで貿易実務についても学習した。1999年に同大学を卒業し、ある輸出商社にも勤めた。
 2005年、カム・トゥーはアンドー有限会社を設立する。当時、バッチャン村の陶器が世界的にも注目され、輸出取引もはじまっていたが、村には貿易実務に精通し、英語などの語学ができるものもいなかった。そこで、彼女は輸出をも視野にいれたバッチャン陶器の製造・販売・輸出会社を設立したのだ。
 
 現在同社の工員は20名、営業その他事務員は10名程度で、2021年の年間の売上は約50万米ドルだ。同社はいわゆるバッチャン焼きのポットとカップのセットのほか、インテリア用の花びんなどを得意とする陶器メーカーである。ウェブサイトをみても花びん、アロマポット、植木鉢、お線香たてなどの仏具など幅広く生産しているのがわかる。
 
 同社は日本貿易振興機構(JETRO)の招待で2012年、東京ビッグサイトで行われた展示会にも参加したことがあるそうだ。
 「数日の滞在でしたけど、東京を観光する時間はほとんどありませんでしたが、皇居にはおとずれました。東京は大都市なのに、きれいですし、清潔だったのが印象的でした」
 ただ、ほかの客が間違えて彼女のスーツケースをもっていってしまったために、東京滞在期間中は同じ洋服で過ごしたのよ、と笑うカム・トゥー。

 日本企業との取引は仕事のやり方やデザインの好みなど、ベトナムとの文化的な差異が少ないので、仕事はやりやすいという。日本の企業はお金の支払いに不安がないのも日本企業と取引することのメリットだという。
 このコロナ禍で工場は数ヶ月の稼働停止も経験した。コロナによるベトナム政府の渡航禁止措置のため、営業のために海外を訪れることも、外国の企業の責任者がベトナムを訪れ、工場で商談することもできなくなった。営業はすべてオンラインに切り替えた。
 「日本の企業のみなさんはオンラインでの仕事はあまり好まれません。対面での商談、取引を望まれるので、コロナ禍では苦労しました」
 
 同社は日本への輸出拡大を希望している。従来は商事会社や貿易商社、卸売会社との取引が多かったが、今後は日用雑貨品などを扱う大規模小売店やチェーン店との取引を希望している。日本側が希望する商品でもサンプルを送ってもらえれば、そのサンプル通りの商品を提供することも可能だという。日本の品質基準が厳しいことも折り込みずみ、価格的にも中国製品との競合は意識しているとカム・トゥーは語る。


 コロナが拡大をはじめた2020年4月から今年の3月までは海外からベトナムへの渡航が制限されていたが、今年の3月15日からはベトナムへの渡航も陰性証明やワクチン接種証明、あるいは旅行保険の加入有無などの確認などまったくなしに可能となり、日本のパスポートを所有し、15日以内の滞在であれば、商用、観光目的でもビザなしでの渡航も再開されている。ぜひベトナムに訪れて同社を見学、商談をしていただきたい。

 カム・トゥーには3人の子どもがいて、ひとりは彼女が卒業したハノイ国民経済大学を卒業したという。将来は彼女の片腕としてアンドー有限会社を背負ってたってほしいと期待をかけているそうだ。

 家業をついでアンドー有限会社を設立し、日本をはじめ世界への輸出をももくろむカム・トゥー、50歳。かつて日本へ輸出され、珍重された「安南焼」のように、同社の製品もコロナにもうちかって、さらなる自社の経営の発展に邁進してもらいたい。

文=新妻東一

ブー・ティ・カム・トゥー社長

アンドー有限会社
An Do Company., Ltd.

プロフィール

2005年創立。代表者はハノイ国民経済大学卒、ブー・ティ・カム・トゥー。家業を継承し、バッチャン陶器の製造、販売、輸出を目的とする会社。工場敷地面積は1400平米、

年間生産能力は食器1万点、花びん等1.2万点を製造可能。2021年の年商は50万米ドル。日本向けの陶器注文生産を希望、日本側パートナーを探している。

>> この企業のプロフィール情報を見る

さらに詳細な情報を知りたい場合は
下記よりお問い合わせください。


  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

マッチング企業リストを見る

Bizmatchでは、日本企業との資本提携や業務提携を希望するベトナム企業の情報をデータベース化し、一部公開しております。特定業種の企業を絞り込んで検索することなどもできますので、ベトナム企業についてお調べの方はぜひご活用ください。


サービスメニューのご案内

Bizmatchでは、ベトナムにおける戦略的なビジネスパートナーを見つけていただくための各種支援サービスをご提供しております。『ベトナムの市場を開拓したい』『ベトナム企業と商談をしてみたい』『ベトナムに取引先を見つけたい』『ベトナムの企業を買収したい』『ベトナム進出のサポートを手伝ってもらいたい』等、ベトナム企業とのマッチング実績が豊富なBizmatchに是非お気軽にご相談ください。



ベトナム企業インタビュー記事一覧へ戻る

おすすめ記事

カテゴリー一覧

ビジネスに役立つベトナム情報サイト
ビズマッチ

ページ上部へ戻る