日系企業での学びと縁あって高い精度の部品、治具を供給する会社を設立/PMTTグループ

 ベトナムの経済発展は著しい。ベトナム統計総局が発表した2022年の実質GDP成長率は前年比8.02%増、2009年以降最も高い数字となっている。背景にはコロナ禍による行動制限が解除され、個人消費が回復したことが大きく影響しているという。低成長が恒常化している日本からすればうらやましいほどだ。
 2022年の輸出総額も前年比11%増、3710億米ドルと過去最高を記録している。
 ただその内訳をみると手放しでは喜べない現実もある。特に輸出商品の2割を占めるのはスマートフォンとその付属品だが、メーカーはSamsungをはじめとするベトナムに進出した外資系企業だ。そして部品のほとんどは中国、台湾など海外から輸入されたものであり、ベトナムは低賃金の労働力と工場用地の提供にとどまっている。
 スマホや自動車・オートバイなどの組立産業が海外から進出しても、その組立部品を製造する裾野産業が一向に育たないというジレンマがベトナムにはある。
 日本は戦後復興のなかで欧米から技術を導入しながらも、後半な裾野産業が勃興し、零細でありながらも高い技術力のある町工場に支えられて、自動車産業や電子産業などの組立産業が繁栄をみたのだ。
 ひるがえってベトナムは自動車産業をみても、その8割の部品を輸入に頼っているのが現状だ。その2割のベトナム国内の調達先も外資系企業からだ。純粋なベトナム企業からの部品調達は微々たるものだという。
 このままでは賃金の上昇に伴ってベトナムの労働市場の魅力が失われれば、外国企業は再びより低賃金の国へと移っていくだけで、さらなる成長は見込めなくなり、いわゆる「中進国の罠」にベトナムもとらわれてしまうのではないかとベトナム政府当局は危惧し、次々と裾野産業への優遇策を打ち出してはいる。

 日系のオートバイメーカーにアシスタントマネージャーとして働きながら、ベトナム企業からの精度の高い部品調達の困難さを知り、日系企業に日本並みの精度のある治具や部品製造・供給、工場のオートメーション、自動化を支援する会社を立ち上げた男がいた。名前をレー・フイ・トゥック、今回ご紹介するPMTT社の会長だ。
 ベトナムではコロナの感染者はすでにほとんどないため、直接対面の取材も可能なのだが、本企画ではリモート取材を基本としていることをお断りしておきたい。
 
 「私がこの事業をはじめたのも『縁』あってのことなんですよね」そう語るトゥック。ベトナム語にも日本語の「縁」にあたる言葉がある。Duyên(ズエン)だ。ベトナム女性の名前としてもポピュラーだ。彼はインタビューの間に何度もこの「縁」という言葉を口にした。
 トゥックはハノイから車で2時間の距離にあるベトナム北部ニンビン市に1975年に生まれた。
 ニンビン省は中国から千年の支配を受けた後10世紀にはじめてベトナムの独立国家を打ち立てたディン朝の都ホアルーがその近郊にある街だ。チャンアンやタムコックといったトラスト地形の景勝地のある場所としても有名だ。
 トゥックはハノイの大学に進学して電気通信工学を学んだ。卒業後就職したのはベトナムに進出したばかりの日系オートバイメーカーだった。1999年のことだ。配属されたのは計画部。その後は組立部に配属された。
 組立部ではアシスタントマネージャーとして部品、部材、工場用設備の調達に奔走した。入社した当時はベトナム企業で自社のオートバイに使用できる高品質の部品、部材を供給できる企業はほとんどなかった。
 「日本企業の企業文化をベトナム企業は理解してくれないんです。日本の企業は部品メーカーに対して、精度を求め、要求は細かい、なのに発注量は少ない。ベトナム企業はそれを理解できず、品質要求基準が低く、大量生産でき、売上の上がるオーダーに傾きがちでした」
 彼の元には800名の工員がいる。彼の上司には日本人が一名いるだけだ。彼は年1回の1週間から10日間の日本での研修を受け、日系のオートバイ工場で働くなかで日本の企業文化を学ぶことができた。日本企業には、規律正しさがあり、何事においても科学的、何よりもたゆまぬ「カイゼン」に取り組んでいることに、日本の製造業の持つ良い文化を学ぶことができたのだという。「これもまさしく『縁』ですね」とトゥック。
 彼は日系企業に6年間勤めた。そして2006年ハノイにPMTT社を立ちあげた。同社は工場で使用される治具を生産する企業としてスタートした。
 治具とは英語のJigに由来する当て字で、生産工場での加工、組立にあたり部品や工具の作業位置を指示、誘導するのに用いる器具のことだ。
 この治具の精度によって、その生産工場で生産する部品や組立の精度が決まってしまう。だから治具そのものにも高い精度が求められる。まだ日系企業の文化を理解しない企業には供給することのできない精度の製品を、日系企業の考え方、文化をよく理解する同社にあってはじめて供給することができたのだ。

 同社は創業17年を経て230名の工員を抱え、工場の総面積は1.1万平米と拡大している。
 治具や工場のコンベイヤー部品などのほか、工場作業の自動化を実現するハードとソフトウェアの提供も行っている。顧客からの要請に基づき、機械と作業者のデータから自動化を実現するソリューションを提供している。
 たとえば1日の間に4時間しか稼働していない設備があれば、どうすれば稼働時間を増やすことができるかを考え、それに適した解決策を提案する。
 主な顧客はベトナムに進出した日系企業で、売上の90%はそこから稼ぎ出しているという。韓国企業は8%、その他が2%だ。なお日系企業はコロナ禍から完全に立ち直っておらず、今後の回復に期待したいとトゥックはいう。

 同社の2022年の売上は2,065億ベトナムドン(約10億325万円相当)と前年比で68%も増加している。コロナでいまだ苦しんでいる企業が多いなかで、脅威的な売上増を同社は勝ち取っている。理由を尋ねたところ、ベトナムの電気自動車メーカーが全国に充電所を設置したが、その部品の一部を供給したことで、売上が増加したのだという。同社の技術が認められたことの証左であろう。
 現在は主にベトナム国内に進出した日系企業向けに商品を提供しているが、輸出にも対応しているとのこと、いくら円安といっても部品、部材によってはベトナムの低廉な労働力を背景に安く部品供給が可能なので、ぜひ日本からの要請にも応えたいとトゥックは語る。
 インタビューの最後にトゥックの夢は何か聞いた。 
「ベトナムの裾野産業の発展は道半ばです。特にベトナムは自動車についてはいまだタイ、マレーシア、インドといった海外から輸入された部品を組み立てているに過ぎません。タイは日本のODAで工場団地をつくり、外資系の部品メーカーを誘致し、現地調達率を高めています。ベトナムも政策的な措置をすることで、部品メーカーを誘致、設立して、自動車や電子製品の裾野産業を広げて、国内価値を高めることに貢献する、それが私の夢です」
 トゥックはあくまでもベトナムで自国の裾野産業の発展を願い、自らも実践と挑戦を続ける決意ののようだ。
 トゥックは工学を学びながらも「縁」あって日系企業につとめ、そこから治具の製造、販売を思いついた。トゥックはこれからもよい縁に恵まれて、ベトナム企業として新しい地平をめざしてほしい。

レー・フイ・トゥック会長

PMTT Group
精密機械・技術移転株式会社
プロフィール

2006年ハノイに設立。主に機械部品、精密部品の製造、工場設備製造、自動化ソリューションの提供を行う。従業員数230名。顧客先の90%は日系企業。輸出にも対応している。

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