タラ、ウナギの代替淡水魚パンガシウスでSDGsにも貢献する水産会社/フンフック・シーフード社

 「パンガシウス」という魚をご存知だろうか?最近、日本のスーパーでもスケトウダラの代替魚として、その切り身が売られている。近年イオンでは、これにウナギの蒲焼風の調理、味付けをして、ウナギの蒲焼の代替として販売し、話題となった。
 実はこのパンガシウス、ナマズの一種で、南インドから東南アジアに生息する淡水魚で、ベトナムではチャー、またはバサと呼ばれ、古くから食用となってきた、ポピュラーな食用魚だ。以前から南部メコンデルタ各省を中心に輸出のための養殖も行われてきた。
 北米でもナマズは養殖されており、これまたポピュラーな食用魚なのだが、ベトナムから北米へは従来大量に輸出されてきた。しかし、アメリカ政府は近年、自国の産業保護のために輸入規制に踏切り、暫定的な反ダンピング課税をベトナムのナマズ類に課した。それを不服だとしてベトナムがWTOに提訴するなど、米越の貿易摩擦にまで発展するに至っている。
 米国にかわり、中国・香港向けにパンガシウスの輸出が増加した。日本でもこのパンガシウスの白身魚のフライが、以前からフィッシュバーガーや弁当、給食などに使われてきたが、このところはスーパーでタラやウナギの代替魚として売られ、ポピュラーになりつつある。天然のタラ、ウナギは乱獲により激減している。絶滅危惧種に定められた魚を食べるよりは、養殖によって生産されている魚を食べる方が環境にも優しいはずだ。
 おまけにこのチャーまたはバサと呼ばれるナマズ類は、泥臭さもなく、淡白な風味で、どのような味付けにも応えてくれる。ベトナムでも甘辛煮にして食べることも多いので、蒲焼など濃い味付けの魚料理にはもってこいだ。

 今回ご紹介するフンフック有限会社は現在、主にチャーとよばれるパンガシウスを養殖し、加工輸出している会社だ。本社は南部メコンデルタ最大の都市、カントーにある。創業者はドー・フン・ロン氏だ。今回もZOOMによるリモート取材であることをお断りしておく。

 ロンは1968年、ハノイのタインチ県生まれ。なぜ、ハノイ生まれの彼がカントー市で水産加工輸出に関わっているのか、そう尋ねると、ロンは次のように答えた。
 「私の父の出身地や実は同じく南部メコンデルタのミト市出身なんです。1954年のタップケット(集結)でハノイにやってきて、そしてベトナム外務省に勤めていました」
 ジュネーブ協定でフランスとベトナムが和平協定を結び、同時にベトナムは北緯17度線で南北に分断されてしまった。その時に北ベトナムにシンパシーを感じていた人々は北ベトナムへと移住した。そのことを歴史的には「タップケット」と呼んでいる。ロンの父はその一人だったというのだ。インタビューに答えるロンの言葉も確かにハノイ弁だ。
 長じて父の故郷に近いカントー大学で教育学部に進学した。一時はカントー大学で教育学の教師として勤めていたことがあるというロン。
 しかし1993年には、国営水産会社に就職、以来30年間にわたり水産業に携わってきた。
 大学で教育学を修め、一度は教師になったロンがなぜ水産業に?と尋ねると
 「いや、ベトナムでは元教師で水産業をやっている人は他にいますよ」という。珍しいことではない、といいたいらしい。

 2008年、彼は満を持して自らの水産加工業の会社、フンフック社を設立する。2013年ごろまでは、タコやイカなどの取扱が多かったという。ただ、その頃からタコ、イカの水揚げが減ってしまったそうだ。
 そのため、現在は淡水魚、それもチャー魚、パンガシウスのフィレを中心に加工品の取扱をメインにしているという。チャー魚のフィレの他、20g程度のキューブ型にしたものも市場では人気があるそうだ。
 ほかにチャー魚の刺身、寿司用に加工したもの、寿司用のエビ、イカ、エビ、イカのつみれ団子なども加工、輸出できる。水産加工工場は5千平米の広さをもち、付加価値の高い製品を製造するための分工場を備え、従業員数は200名、2019年の売上は558万米ドルという企業だ。
 輸出がメインで生産量の90%が輸出されている。なかでも韓国向けだけで生産量の40%にのぼっている。韓国向けにこれだけ輸出できているのは、2016年に韓国国立農産物品質管理院(NAQS)から、当社商品の韓国への輸出が承認されたことによるものだとのことだ。
 商品はやはりパンガシウスのフィレ、ブロックが中心だ。かつてはベトナム産のパンガシウスには微生物が付着しているとの問題があったが、現在は製造行程での管理も行き届くようになり、輸出できるようになったそうだ。
 日本向けにパンガシウスは今年、2024年に入ってようやく3コンテナー、出荷できるようになった。今後は日本向けのパンガシウスの輸出には力をいれたいと語るロン。

 彼がもう一つ力を入れているのが、カエルだ。パンガシウスの加工輸出は、誰でもやっているので競争がはげしい。しかしカエル肉の輸出を手がける業者はまだ少ない。ブルーオーシャンだ。だからこそカエルの輸出に注力しているという。
 日本でも食用ガエルを好んで食べる地域もあるようだが、一般的ではない。カエル肉は、日本ではいまだ「ゲテモノ」扱いだ。しかし、ベトナム人はカエルを好んで食べる。フランスでもエスカルゴ同様、カエル料理が人気の料理だ。
 カエルの肉は、滋養もあり、カルシウムも大量に含まれている、高齢者や子どもにとっては優れた食品だとロンは力説する。
 実はすでに日本向けにもカエル肉は輸出しているという。ただ日本に住むベトナム人向けだそうだ。
 かつて日本で、パンガシウスは一般的ではなかった。しかし、現在は日本でもタラやウナギの代替魚としてパンガシウスが大量に輸入されるようになった。持続可能な開発目標=SDGsからしても、養殖カエルの肉は期待もされるだろう。5年後、10年後にはカエル食がもてはやされる時代があってもおかしくない、ロンはそのような期待を込めて、養殖カエル肉の輸出に取り組んでいる。少なくとも、昆虫食よりは人々の抵抗感も少ないのではなかろうか。

 ロンは残念ながらまだ日本に訪れたことがない。日本との取引を強めるためにもぜひ日本を訪れたいと語る。パンガシウス、そしてもしかしたらカエルの輸出のために、近い将来、ロンが日本を訪れる日がやってくるかもしれない。

文=新妻東一

フンフック一人有限会社
HUNG PHUC ONE MEMBER CO., LTD

プロフィール
2008年カントー市に創業。創業者はドー・フン・ロン。カントー大学で教育学を学び、卒業後は教員を経て、国営水産会社に勤務。水産関係の仕事では30年の経験がある。主にパンガシウスのフィレ、ブロックの輸出、付加価値加工品、カエル肉の輸出を手がける。日本向けの市場拡大を希望している。

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