不動産・建築業の勤め人から独立起業!中部高原ダクラク省で農産物輸出に取り組む/LMDタイグエン農業株式会社

 2024年はじめ、次ような記事が日本で報じられた。
「東南アジアから「果物の対中輸出」が急増の背景 ベトナム産ドリアンの輸出額は前年の16倍に​​」(東洋経済オンライン 2024/01/22)
 もちろんベトナムでも当然話題になっている。背景には中国の若者の間でのドリアンブームがある。日本人ではドリアンの匂いが苦手という人も多いが、東南アジアへ旅行した際にドリアンを口にして味を覚え、日本でも入手可能な冷凍ドリアンを購入して楽しむコアなファンも日本でも増えている。さすがは果物の王様だ。
 加えて昨年から今年にかけて中国に大量にドリアンを輸出していたタイにおける天候不順による不作で、ベトナム産の価格がタイより安いこともあって、輸出急増に繋がったものと推測されている。月によってはタイ産よりもベトナム産の輸出量が多い月もあったようだ。
 コーヒーからドリアンへ転作する農家も増えているようで、今度はコーヒー豆の供給量が減るのではないかとの懸念が国際市場でさささやかれているほどだ。

 ドリアン以外にも、ベトナムの農産物は国際市場でも注目されている。あまり知られていないが、コメは輸出量世界第2位、コーヒー、カシューナッツは生産量世界第2位、コショウにいたっては生産量世界第1位となっている。
 いずれもベトナムが市場経済化と全方位外交へと舵をきった1986年以降のドイモイ政策によって達成できた数字だといっても過言ではない。「計画経済」の時代には、行きすぎた生産と流通の統制によってコメの生産がうまくゆかず、コメを輸入するような国だったのだ。それを生産量の一部を国に納めれば、あとは自由市場での販売が許される請負制度を導入したことで、生産量が飛躍的に回復したのだ。
 2019年にベトナム政府は「ベトナムが2030年をめどに世界の農業大国15カ国の一つ​​」となるという決議を採択した。また、昨年2023年末に行われたベトナム農民協会第8回全国代表大会の開幕式で発言に立ったグエン・フー・チョン党書記長は「党と国家は農業をわが国のメリット、経済の柱とみなしている。農民、農村は工業化近代化と祖国の建設防衛事業において戦略的な地位を占め、社会経済開発を左右する主要な要素となっている」と確認​​している。
 2023年に農業部門の伸び率は、およそ3.83%、輸出額は530億ドルを超え、貿易黒字は約110億ドルと過去最高で、全国の輸出超過額の中で42.5%を占めている​​とも報じられた。
 まさにベトナムにおいて農業は基幹産業であるとの位置付けとなっている。将来の食糧危機が予測されるなか、日本は農業人口の高齢化がすすみ、その食料自給率は改善どころかさらに悪化することが懸念され、外国人労働者の手を借りなければ、すでに日本の農業は維持できなくなっている。そのような日本と比較するとき、余るほどのコメを生産し、輸出をしているベトナムは食料安全保障といった側面で考えれば 、日本とは比べられないほど優位にある。

 今回インタビューに応えてくれたのは、LMDタイグエン農業株式会社社長、チュオン・タインだ。創業2022年というまだ新しい企業だが、コーヒーの産地として有名な中部高原ダクラク省に立地し、マカダミアナッツ、カシューナッツ、コーヒー、ドリアン、コショウといったベトナムの花形農産品の収穫・輸出・販売を手がけている。
 本来であれば、ダクラク省の同社を訪れて、社長に対面しインタビューを行いたいところだが、それは次の機会に譲るとして、今回はZOOMを用いたリモート取材である。

 2022年に自らの会社を設立されたタインに、起業する前にはどんな職業をされていたのですか、そう尋ねると、日にやけて多少色黒な彼は「実はハノイで長年不動産会社や建設会社に勤めていたんです」というのだ。これには驚いた。
 彼は有数の外資系の不動産、建設会社で管理職として勤めてきたのだそうだ。給与も悪くはなかった。
 でも結局は雇われ仕事であり、自分の人生の時間も膨大に費やし、健康も蝕まれる。結局不動産の仕事を辞めて起業の道を選んだのだそうだ。
 農業を選んだのは、自然の中で暮らすことが好きだったからだという。
 私のベトナム人の友人もメディア会社の広報に勤めていた。朝も夜もなく働き詰めで、報酬がいくらよくても、仕事に疲れてしまい、自分の人生を見失いそうになった。彼女は会社の仕事を辞めてインドにわたり、そこでヨガを学び、帰国してヨガインストラクターをやっている。
 ワークライフバランスを考えた時に、潔く仕事でなく自らの人生と生活を選ぶエリートも一定数ベトナムにはいるのだ。過労で倒れてしまうよりよほど賢明な生き方だろう。

 同社の主な商品は、マカダミアナッツ、カシューナッツ、コーヒー、ドリアン、コショウの5品目だ。
 他にナッツ入りのチョコレートやドライフルーツなど扱い商品は多岐にわたる。
 現在の売上の7割は国内向けで、3割がフランス、ドイツ、韓国などへの輸出だそうだ。
 タインとしては、今後この比率を輸出7割、国内3割へと逆転させたいとの希望を語る。
 ISO22000をはじめ、米国FDAやOCOP(一村一品基準)、中国への公式輸出コード、各省特産品証明書、あるいは農産品のトレーサビリティを見える化するQRコード認証を受けるなど、各種認証も苦労して取得したという。
 特にOCOPは日本のJICAが進めてきた認証で取得は大変難しいものの、認証を得ることで、消費者にアピールする力は強いとタインは強調した。特にOCOPの認証では少数民族の生活向上に寄与する商品であることが必要だとのこと。LMD社の周辺は少数民族のエデ族が多く住む地域で、貧しい状態に置かれている彼ら農民の暮らし向きが少しでも改善できたらとの思いではじめた事業なのだとも彼は語ってくれた。
 世界を襲ったコロナ禍と新たにはじまった戦争によって世界経済は衰退を余儀なくされているが、そのために工場の稼働率もフル稼働とまではいかないという。
 またベトナム国内も不況の影響で、内容量を誤魔化した粗悪品が市場を席巻しており、真面目に商売すると負ける事態も発生している。消費者は価格を重視するが、品質は二の次になっている現状をタインは嘆いてもいる。
 何とか売り上げを伸ばし、利益を確保して、自社直営の農場を経営して、商品の品質を安定させたいとの希望を語る。そのためにも日本向けに農産品の輸出を拡大したいと意欲を燃やす。マカダミアナッツをまず日本市場に紹介できればとのことだが、読者の中で希望するものがあれば同社にコンタクトしてほしい。
 韓国を訪れたことはあるが、日本はまだだという。しかし、日本人の志の高さや、災害に際しても、われがちに支援物資に群がるのではなく、列をなしておとなしく自分の順番が来るのを待つ民族である日本人について、ベトナム人が学ぶべき点は多いともいうタイン。
 現在はハノイに妻と次男を残して、16歳になる長男と一緒にダクラク省での新事業に意欲を燃やす。
 「長男はもう母親の言うことは聞かないし、父親が必要な年頃だからね」
 ダクラク省にきてもらったら、農場や工場を案内するよとタインは約束してくれた。機会があれば直接訪問し、彼のつくった商品を味わってみたいものだ。

文=新妻東一

LMDタイグエン農業株式会社
LMD CENTRAL HIGHLANDS AGRICULTURAL JOINT STOCK COMPANY

プロフィール

2022年ダクラク省に創業。創業者はチュオン・タイン。ハノイの不動産会社のサラリーマンからダクラク省に移住して、マカダミアナッツ、カシューナッツなど輸出用農産物の輸出・販売会社を起業。さらに農地を確保して量・質ともに安定的な輸出・販売をめざす。現在はフランス、ドイツ、韓国への輸出が中心だが、日本へマカダミアナッツの輸出を希望、輸入元を探している。

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