日本と世界に知られるベトナム企業となることを夢見るIT企業/株式会社エヌティキューソリューションCEO・ファム・タイ・ソン

 ベトナム企業の日本進出、といってもピンとこないひとが多いかもしれない。従来はベトナムに対して日本企業が直接または間接に投資するケースがほとんどだった。ベトナムの豊富で若い人材と相対的な人件費の安さから日本企業が製造業を中心に多く進出する時代があった。現在ではベトナム人の所得の向上にともなって、その消費市場に期待して飲食やサービス業が日本からベトナムに進出するケースも多い。いずれにしても日本からベトナムへの投資が今も主流だ。

 ベトナムの経済成長は著しく、国民の所得も上昇し、訪日するベトナム人は2019年 49.5万人にものぼり、日本への観光客も毎年増加の一途だった。残念なことにコロナ禍によってベトナム人の訪日者数はこの2年間著しく減少している。コロナが収束し、日本が積極的に外国人客を受け入れるようになれば、この数字も回復するだろう。

 今回ご紹介する株式会社エヌティキューソリューションは数はまだ少ないものの、2016年ベトナムから日本に進出したIT企業の一つだ。同社のCEO、ファム・タイ・ソンに彼自身のおいたちや会社設立の経緯、日本進出への動機などを伺った。

 ソンは1982年中越国境の省、クアンニンのドンチェウに生まれた。クアンニン省は、海に浮かぶ数千もの奇岩・奇景で知られるハロン湾を抱えている。ドンチェウは内陸にあり、陶器の産地としても知られている。ハノイから車で2時間の距離にある街だ。
 2000年にソンはベトナム国家大学・ハノイ自然科学大学に入学、数学科に進んだ。数学を選択した理由は経済、ものづくり、国防・安全保障などあらゆる分野で応用の効く学問だからとソンはその理由いう。

「ソフトウェア・システムの開発技術者になろうと思いいたったのは大学の先生たちが大学のソフトウェア開発プロジェクトに参加する機会を与えてくれたからです。そのことが情報技術ビジネスの潜在的な可能性を気づかせてくれました」

 2004年にソンは大学を卒業。就職したのはFPT社であった。同社はベトナムでドイモイ政策後の1988年民間企業として設立され、主にベトナムにおける情報通信技術ICTを主導する会社として発展してきた。ソフトウェア開発から、ニュースメディア、大学、携帯電話・パソコン販売、コンテンツプロバイダの子会社を有し、日本をはじめとする26カ国、従業員数3.7万人を抱えるベトナム随一の大企業だ。

 ソンはFPT社員としてマレーシアや日本に派遣され、相手先企業や同社の日本法人で働いた。勤務地は北海道、名古屋、東京など取引先に合わせて移動した。
 「2004年日本で仕事をはじめた頃、私はコミニュケーションをとるのに英語を使っていました。でもその後、英語だけでは伝えたいことがすべて相手に伝わらないと気づきました。2006年には日本語の勉強をはじめることにしました」
 
 日本での職場環境はベトナムとは大きく異なった。彼の仕事はソフトウェア開発のため、屋内でコンピュータの前に座ってプログラミングに取り組む仕事だが、部屋の室温が高く設定されているため、仕事をしているとすぐに眠たくなってしまうことだった。「日本で働きはじめた当初は睡魔と闘う日々でした」と笑うソン。
 彼が取り組む仕事の取引先はキヤノン、富士フィルム、野村など日本の最大手企業ばかりで仕事量も多かった。朝働きはじめて、毎日10時、12時終電まで仕事をすることなど当たり前、納期が求められるときは午前2時、3時までも働くことがあったという。
 ソフトウェア商品の詳細な仕様は定まっているものの、一方で自分自身の創意工夫が求められることも多かった。
「自分が作成したプログラムは、ベトナムだったらプログラムが一応出来上がれば仕事は完了したと見做されますが、日本ではそのプログラムが品質テストを受けて合格しなければ、仕事は完了したとみなされません。それが私たちベトナム人と日本人技術者の作業標準と、自らが製作したソフトウェア製品の品質基準に関する認識において大きく異なる点でした」
 また彼が外国人であったおかげで、日本の会社で働いていると同僚や上司から心遣いや助けてもらうことも多かった。

 日本で生活し、長く働いていることでソンには多くの日本人の友人ができた。仕事の忙しさとのバランスをとるために、彼は友人たちとキャンプや民宿に泊まりにでかけた。彼のお気に入りは北海道や青森、秋田など、日本の東北地方を旅するのが楽しかったという。
 「リンゴやカニなどの海産物もおいしいですし、東北には友だちもいっぱいいましたから」
 残業も多いプログラミングの仕事のストレスも日本の地方のローカルさとその伝統的な文化に癒されることも多かったとソンはいう。
 「最初、納豆の匂いには違和感を感じてましたけど、その栄養価が高いことや食べ慣れると病みつきになり、今は大好きな日本の料理の一つで、おいしく食べられます」

 2011年にソンは株式会社エヌティキューソリューションをたった5名の従業員で立ち上げた。社名のエヌティキュー(NTQ)とは”New Top Quality”の頭文字をとったものだ。
 ソンによれば世界の先進国には二つの種類の国々があるのだ、と説明する。米国や欧州のようにイノベーションによって価値を創造して豊かになった国、そして日本や韓国のように商品・サービスのクオリティ(品質)の良さによって価値を生み、豊かになった国だ。
 自分にとってイノベーションを実現するには困難が伴うが、クオリティのある商品を世界に提供することで会社を発展させ、国を豊かにすることはベトナム人の我々にもできるのではないか、そう考えたソン。イノベーションよりクオリティを目指す自らの立ち位置を示す社名がその決意を語っている。

 現在、日本をはじめ韓国、香港に法人を設立、近々欧州と米国にも拠点を設ける予定だという。取引先国は20カ国、従業員はグループ全体で800名を超える。
 日本にエヌティキュージャパンを設立したのは2016年。オフショア開発といえば聞こえは良いが、実態は下請けだ。しかしエヌティキューソリューション社はさらに一歩進めて、日系企業との対等な立場でのシステム共同開発の経験がエヌティキュージャパン設立のきっかけになった。日系企業との取引が増えるに従い、フェイス・トゥ・フェイス、顧客との顔を突き合わせた対応が必要になったことも理由の大きな一つだ。IT技術者が不足する日本市場はビジネスチャンスも大きいと期待をかける。
 日本進出にあたってはJETROと地方自治体である神奈川県・横浜市のサポートも受けた。日本からベトナムへの投資だけが注目されるが、今後はこうした海外、ベトナムから日本への投資に対する誘致策も日本や地方自治体にとっては重要な施策になるに違いない。

 オフショア開発、常駐開発に始まった同社だが、自社プロダクト開発にも積極的に取り組んでいる。例えばDental Flowという歯科医院向けのソフトウェアだ。患者の診療予約、カルテ、顧客、人事、物資・財政管理などを一貫して管理することができる。傘下にスタートアップ企業も複数立ち上げ、RFID、ブロックチェーン、人工知能(AI)などのハイテク技術の研究促進にくわえ、現地での販売活動も強化している。
 10年間ものソフトウェア開発における経験の蓄積から、同社が得意としているのは銀行・保険・証券などの金融関連、ヘルスケア関連、営業管理、生産管理などで、それぞれに専門家を備えているそうだ。
 最後にソンに将来の夢を尋ねた。
 「日本で働き生活していたとき、私が驚いたのは多くの日本人がベトナムについてなにも知らないということでした。知っていても情報が古いか、アップデートされていない。例えば『ベトナム戦争はもう終わったのか?』と尋ねられたり、いまだに貧困で、貧しいというイメージです。私たちの願いはベトナムがより多くの人に知られるように当社がソフトウェア業界における『ベトナム大使』となることです。世界、とくに日本の人たちにはベトナムのことをもっと知ってもらいたいですね。ベトナムと日本両国の関係は現在とても素晴らしいものですから。この夢を叶えるために、創立15周年を迎える2026年には従業員3000名を目指します」
 ファム・タイ・ソン、40歳。のびしろはまだまだある企業を率いるCEOとして、ベトナムを代表する企業の一つとなる日を楽しみにしよう。

文=新妻東一

株式会社エヌティキューソリューション
NTQ Solution
CEO
ファム・タイ・ソン

プロフィール

1982年クアンニン省ドンチュウ生まれ。2000年ベトナム国家大学・ハノイ自然科学大学・数学科に入学。2004年、ベトナムのICT大手企業・FPT社に入社。マレーシア、日本で勤務。2011年株式会社エヌティキューソリューションを設立。現在は従業員800名、20カ国と取引があり、日本をはじめ4か国に現地法人。

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