コショウ、コーヒーに続け!ベトナムのヘチマ繊維を世界へ輸出/株式会社ローファー
- 2025/02/06
- ベトナム企業インタビュー

小学生の頃、ヘチマを校庭のわきで育てて、育った実を水につけて、その繊維を取り出す作業を行ったことがあった。水につけて果肉を腐らせるのだが、その臭いが強烈だったことを思い出す。できたヘチマの繊維はスポンジにして身体を洗ったり、食器洗いに使った。
よもやそのヘチマが食材だとは思っていなかった。だが、ベトナムではまだ小さいうちにヘチマを収穫し、茹でてスープにしたり、炒め物にしたりして食卓にのぼることが多い。大陸からの食文化の影響を強くうけている沖縄や九州の一部ではヘチマを食用とすることも多いようだ。ヘチマの実は調理すると独特のぬめりが生じて、ヘチマの実そのものに強い味はしないが食感が楽しく、我が家でもベトナム人の妻がよくスープにして食べている。
本州では明治期にヘチマ繊維を輸出するためにつくられていたので、食用とする習慣は根付かなかったのだろうか。
その後食器洗いのスポンジはプラスチック製品がヘチマ繊維に代替するようになって、ヘチマは市場から消えていった。日本の小学校ではもうヘチマを育てるような実習もなくなってしまっただろう。
ここへきて、ヘチマ繊維は再び脚光を浴びている。プラスチック製品が化石燃料から作られていることから、燃やせば温室効果ガスとなる二酸化炭素が発生するし、海洋に流出すればプラごみとなって半永久的に海を汚す。そのためにプラスチック製品が忌避され、食器洗いや垢すりとして古くから使われていたヘチマ繊維が注目されはじめているのだ。
ヘチマ繊維であれば、植物から作られたものなので、焼却しても、元々空気中にあった二酸化炭素が放出されるだけであり、土中に埋められれば土に還るだけだ。SDGsに気を配るエシカルな消費者であれば、ヘチマ繊維の製品を選ぶようになるだろう。

ローファー社の創業者、グエン・フー・トゥンはこう語る。
「ベトナムで小さいヘチマは食用とし、大きく育ってしまったものは繊維を取り出して、食器洗いのスポンジに用いていました。母や祖母はヘチマを育てて活用していたんです。それはベトナムの長い歴史の中で育まれたものなんです」
ヘチマ繊維がベトナムでも海外でも再び注目されるようになったことをみてとって、ヘチマ生産を思いついた。彼は勤めていた農業省農業促進センターを辞め、ローファー社を自分の住む中部高原、ダクラク省バンメトートで起業した。2023年のことだ。
社名はローファーとした。ローファーとはLoofaa、英語でヘチマの意味だ。創業時は農民を含めて5人だった。ヘチマの栽培面積も2ヘクタールのみ。主にネットでの販売からスタートした。
現在では、栽培面積を30ヘクタールに拡大した。7ヘクタールは直接栽培、残りは農家との契約栽培だ。年に2回収穫できるので、年間6万個の実を収穫することができる。現在、従業員数は16名。工場は300平米、倉庫は500平米の広さがある。
農薬を用いても製品のヘチマに直接散布することはない。食用ではないといっても直接手に触れる商品だからと農薬の影響をなるべく減らしたいからだという。肥料も化学肥料は用いず、牛糞や鶏糞を使用している。
できたヘチマは水につけて繊維を取り出し、それを加工することで、同社では約50種類もの製品を生産している。台所や風呂場で使うスポンジの他、帽子やランプシェード、ヘチマ繊維をもちいた絵画なども開発した。
「ヘチマ繊維をファッション製品まで作れることを示したいんです。デザインはほかの従業員にまかせていますが、ヘチマ繊維で『これを作りたい』と考えたのは私です」
そう語ってくれたトゥン。
同社のウェブサイトでは、ホテル、浴室向けとして垢すりやスリッパ、ボディブラシなどのシリーズのほか、ファッションのラインでは帽子、バッグ、台所用品として鍋つかみなどが提案されている。

同社はもちろん原料としてのヘチマ繊維も販売、輸出している。製品化されたものの6割がヘチマ繊維原料としてだそうだ。
加工業者を通じて米国・ロサンゼルスの客先にも風呂用品として同社の繊維原料が使われているそうだ。米国のほか、フランス、イタリア、スペインといった欧州各国、香港にも輸出されている。
同社はこうしたヘチマ繊維原料と製品の輸出販路拡大にも努めている。日本の市場も環境に優しい製品を好んで消費すると知っている。すでに日本の需要家に対してもメールを送ってアプローチを開始した。彼らからはすぐにはヘチマ原料を必要としていないが、必要な時には連絡するとの返事をもらったとのことだ。
彼は14歳の時に両親とともに中部高原ダクラク省に移住した。1989年のことだ。両親は中部高原特産のコショウとコーヒーの生産に取り組んだという。そうした両親の姿をみて自らも農業の道に進み、そしてヘチマ繊維生産という新しい事業に取り組んでいる。
中部高原は主に先住民族であるエデ族やムノン、ジャライ族といった少数民族が住んでいた土地で、いわゆるベト族が住み着くようになったのはごく最近のこと、長期間開発が進んでいなかった。その土地へ北部から移住者が来るようになったのは、ベトナムが南北統一された1975年以降である。
そしてベトナムの農産物の主要輸出商品であるコショウやコーヒーの産地として栄えるようになったのはここ十数年のことだ。この発展が彼ら移住者の努力に支えられているといっても過言ではないだろう。
現在、ベトナムをはじめ世界中で環境破壊と汚染が進み、それが人間を含む生態系を脅かすようになって、小さい力ながらも、環境にやさしい製品をベトナムと世界に供給することで、環境の保護に努めたい、そう願っているとトゥンはインタビューの最後に語ってくれた。
14歳の息子と11歳の娘がいる。妻は教員として働いている。トゥンは「今年4月にはパリの展示会に参加してヘチマ製品を売ってくるんだ」そういって張り切ってみせた。
農業促進センターの職員だった時代に日本にはなんども訪れたそうだ。日本は美しい国だ、そういって出張の合間に自らが訪れた浅草寺やスカイツリー、皇居、お台場などのことを話してくれた。
日本にも彼のヘチマ製品が販売される日を楽しみにしたい。
文=新妻東一

株式会社ローファー
LOOFAA JOINT STOCK COMPANY
プロフィール
2023年ダクラク省バンメトートにて創業。代表はグエン・フー・トゥン。30haの土地でヘチマを生産し、年間6万個のヘチマをヘチマ繊維として原料、製品に加工、ベトナムのみならず世界各国に輸出している。製品は50種類を数え、日本向けの輸出を目指している。