困難を乗り越え、若き活力を原動力に日本との連携を深化へ/MTSベトナム 副社長チャン・ティ・トゥ・フエ

 ベトナムの精密機械加工企業MTSベトナムは、2017年の創業以来、わずか8年で国内外の顧客から厚い信頼を勝ち得、急速な発展を遂げている。パンデミックや経済危機を乗り越え、若さと革新を原動力に成長を続ける同社の軌跡、そして日本企業との連携を通じたさらなる発展への展望について、チャン・ティ・トゥ・フエ副社長に話を聞いた。

MTSベトナムの概要と成長の軌跡

 2017年、MTSベトナムは当初、一部の支援産業向け小規模加工工場として設立された。しかし、国内供給が限られていた半導体、医療機器、産業機械などの精密機械製品需要の高まりを受け、本格的な企業設立を決断。「お客様の成功を支援する (support for your services)」を企業ミッションに掲げ、ロゴにもその理念を反映させている。
創業当初の3年間は、企業としての存続をかけた厳しい時期であったという。その後、2020年から2022年にかけての新型コロナウイルス感染症のパンデミック、そして2022年から2023年にかけての世界経済危機、その余波が2024年まで続く中で、同社は大きな試練に直面した。フエ副社長は当時、「資本、技術、人材という3つの大きな課題があった」と振り返る。しかし逆境にも屈せず、粘り強い努力と弛まぬ挑戦を続けることで、現在の地位を確立できたことに誇りを感じていると語った。

 同社が困難を乗り越え、持続的な成長を遂げた背景には、明確な3つの戦略がある。
 ひとつは、技術への投資: 設立当初から、最新の機械設備と生産能力への大胆な投資を方針として掲げた。CNC機械などの現代的な技術に注力することで、高品質な製品供給の基盤を築いた。
 2番目は、信頼の構築: 品質と納期厳守を常に最優先し、顧客からの信頼を積み重ねた。特に、品質と価格のバランスを取ることは、若手企業にとって大きな課題であったが、これを両立させることで競争力を高めた。
 3つめは、人材育成: 技術者や作業員の育成に継続的に注力し、産業規律と改善意識を常に高める努力を続けた。これにより、顧客に最適なソリューションと合理的なコストを提供し、信頼と市場拡大に繋げた。
 これらの努力が実を結び、設立当初10〜12人規模の600平米ほどの小さな作業場だったMTSベトナムは、現在では100名以上の従業員を擁し、工場規模も4000平米を超えるまでに成長した。本社と工場はホーチミン市(旧ビンズオン省)に位置する。製品は半導体、医療、産業機械向けなど多岐にわたり、顧客の図面要求に応じた精密機械加工(CNCフライス、旋盤、板金、自動旋盤など)を提供し、アセンブリサービスも可能である。生産量の50%以上を日本、韓国、アメリカ、欧州、オーストラリアなどへ輸出している。

若き副社長、トラン・ティ・トゥ・フエ

 MTSベトナムの副社長を務めるチャン・ティ・トゥ・フエは、1986年生まれ、38歳という若さで同社の創業期から現在に至るまで、成長の屋台骨を支えてきた。
 フエはザライ省出身で、ホーチミン市師範工科大学を卒業。その後、米国向け衣料品を製造する縫製会社で5年以上、生産工場管理の経験を積んだ。
 その後、MTSベトナムのディレクターであるホアンとの出会いをきっかけに、同社の創業メンバーとして参画。現在は、会社のシステム構築と企業財務の管理を担っており、ホアンが生産と営業を統括している。
 縫製業から精密機械加工業という全く異なる分野への転身について、フエ氏は「どのような業種でも共通の運営原則、特に作業プロセスの構築という点では共通点が多い」と語る。 小規模な作業場から100人規模の企業へと拡大する過程で、前職での工場管理経験が大いに役立ったという。

MTSベトナムの競争力と日本企業との連携

 MTSベトナムの大きな特徴は、その若さと活気にある。ホアン社長は1985年生まれ、フエ副社長は1986年生まれであり、多くの従業員も彼らよりさらに若い世代が中心となっている。同社は「社員の成功が企業の持続可能な発展の源である」との考えに基づき、「社員の成長を後押しし、企業価値を高める」という企業理念を掲げ、若手社員が常に向上心を持って働けるような創造的で活気ある職場環境を築いている。また、内部管理システムは既にデジタル化・標準化されており、効率的な経営を可能にしている。
 国内外の取引先からの信頼を獲得するため、同社は積極的に展示会や貿易促進イベントにも参加している。直近では、日本の大阪や、米国シカゴで開催される展示会にも参加する予定だ。また、ウェブサイトを通じた情報発信に加え、既存顧客からの紹介が新たな顧客獲得に繋がる重要なチャネルとなっているとフエ氏は語る。
 日本企業との連携において、MTSベトナムには強力な強みがある。ホアン社長は2013年以前に3年間日本での勤務経験があり、日本語に堪能で日本の文化も深く理解している。また、営業担当者の中にも日本語を話せる者がおり、言語の壁を越えた円滑なコミュニケーションを可能にしている。
 フエ副社長は、日本企業との取引経験について、「日本の企業は非常に熱心で温かく、親しみやすい。小さなお菓子などの贈り物を欠かさない日本の文化には親しみがある」と好印象を語った。ビジネスにおいては、日本企業が明確な基準と要件を提示するため、作業を進めやすいと感じているという。厳格さよりも明確なルールを遵守することで、困難なく協力関係を築けていると述べた。

未来への展望:日本とのさらなる協業深化を目指して

 MTSベトナムの今後の展望について、フエ副社長は「夢というよりも、近い将来に実現したい具体的な目標だ」と強調した。
それは、特に日本との協力関係を3つの主要な分野でさらに深めていくことである。
 まずは技術移転である。日本の先進的な生産技術や管理プロセスを学び、自社に導入したいという強い意欲を持っている。
 もう一つは生産協力だ。 精密機械加工分野における日本のグローバルサプライチェーンにMTSベトナムがより深く参画し、生産協力関係を強化したいと考えている。
 最後に人材育成。日本企業との交流を通じて、特に管理能力の向上を含む人材育成の機会を求めている。
 フエ副社長は「MTSベトナムはベトナムと日本の企業間の信頼できる架け橋となることを願っている」と述べた。若さと情熱を武器に、MTSベトナムはこれからも進化を続け、日本との強固なパートナーシップを通じて、グローバルな舞台での存在感を高めていくだろう。

文=新妻東一

フエ副社長(左)、ホアン社長(右)

MTSベトナムサービス商事製造有限会社
MTS VIET NAM SERVICE TRADING MANUFACTURING COMPANY LIMITED

プロフィール

MTSベトナムは2017年に設立された精密機械加工会社。半導体、医療、産業機械向け製品の製造を専門とし、「お客様の成功をサポートする」を使命とする。当初は小規模な工場だったが、現在は従業員100名以上、工場面積4000m²超に成長。製品の50%以上を日本、韓国、米国、欧州、オーストラリアに輸出。デジタル化された管理システムと若く創造的な職場環境が特徴。

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新妻東一Sanshin Vietnam JSC マネージングダイレクター

投稿者プロフィール

1962年東京出身。東京外国語大学ベトナム語科卒。貿易商社勤務、繊維製品輸入を担当。2004年ベトナム駐在。2010年テレビ撮影コーディネートと旅行業で起業。

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