韓国で13年働き、起業。日系企業との取引拡大を希望/KOV ヴィナ株式会社 ファム・ホイ

ベトナムでも韓流ブーム、韓国への出稼ぎも増加傾向

 日本でも近年、韓国のソフトパワーの威力はすさまじい。韓流ドラマにはじまって、BLACKPINKをはじめとするK-POP人気も健在だ。
 ベトナムでも、韓流ドラマ・映画、K-POPは引き続き大人気だ。
 BLACKPINKは一昨年、ワールドツアーの一環としてハノイでコンサートを開催したが、このときも2日で6万人を動員した。日本のアイドルグループAKB48の姉妹グループであるSGO48が2021年に解散したのと対称的だ。
 韓国は、そのソフトパワーを背景に、ベトナムへの直接投資でも積極的だ。2025年5月まで、韓国はベトナムに対する最大の外国直接投資国である。2023年に韓国は、シンガポールに次いで投資金額の認可ベースにして第2位となっている。中国を抑えて、この結果だから韓国のベトナムに対する期待が大きいことを示している。以前は投資総額においてトップだった時期もある日本は現在5位とふるわない。ベトナムにおいては日本のプレゼンスが低下し、韓国の存在感が高まっている。
 ベトナムの対外輸出金額のうち、「電話機とその部品」が輸出品目のうち第2位を占めているが、そのほとんどが韓国Samsungの主力スマホであるGalaxyだといわれている。SamsungはGalaxy製品の50%をベトナムで組み立てている。また、Samsung一社でベトナムの輸出総額の20%を稼ぎだすと言われており、ベトナムはまさに韓国、サムスンに足を向けて寝られない状況だ。
 ベトナム人は現在57万人が日本で働いている。それに比較すると数字が小さいようにも思えるが、韓国でもベトナム人が推定5〜7万人働いている。日本とは異なり韓国の場合は政府間の取り決めによってベトナム人を労働者として受け入れている。ベトナムの数倍稼げること、韓国のドラマ・映画、K-POP、そしてスマホ・家電などの先端技術的なイメージに魅せられて、昨今では働きにいきたい国として人気が集まっている。

韓国で働き、帰国後も韓国企業でキャリア積んだ社長

 今回紹介するのは、韓国で働きながら、造船、金型、機械加工を学び、ベトナムに帰国後に金属加工業で起業したファム・ホイの会社、KOV ヴィナ株式会社だ。創業は2022年と若い会社だが、ホイは韓国企業で合計22年間働いてきたという自負があり、韓国で学んだことを背景に自らの企業経営に活かしている。
 同社はホーチミン市のお隣のドンナイ省のビエンホアに設立された。ビエンホアには南ベトナムでもっとも古い工業団地があり、また、それ以外にも複数の工業団地が立地している、製造業が集積している地域だ。日系企業、それも進出から歴史の長い企業も多く進出している地域だろう。
 ホイは1983年生まれ。2002年に韓国にわたり、3年間造船企業に勤めたという。2005年にはベトナムに戻らずに、金型を製造する企業に勤め、金型製造、金属加工、半導体部品などを学んだ。その期間だけでも13年間、もちろんその間に韓国語もマスターした。
 ベトナムに帰国したのが2017年。帰国後も、Samsungの下請企業に勤めた。CNC加工と金型製造に携わった。彼の技術力と語学力、そして何より15年間も韓国で働いてきたという実績が活きたはずだ。

金属機械加工工場を立ち上げたのは3年前

 2021年にはその会社を退職し、2022年に自らの会社である、KOV ヴィナ社を立ち上げた。もちろんホイの得意分野とする金属の機械加工業である。
 KOV ヴィナ社では、プラスチック加工、半導体設備の供給、機械加工、金型の提供のほか、測定・検査サービス、工場への技術移転およびコンサルティング、労務・人事研修や技術移転なども行っている。
 コンサルティングサービスでは精密機械製造工場、構造機器製造工場、溶接技術、洗浄技術などの技術移転を得意としている。
 ゴム手袋の生産ラインも過去に手がけている。
 ベトナムはまた、火力発電所の新設をやめ、再生可能エネルギーへの転換をはかっている。なかでも風力、太陽光発電への期待は高い。再生可能エネルギーへの転換に対する奨励策のおかげで、ベトナムはすでに風力・太陽光など再生エネルギーによる発電量は全体の電源構成のなかで20%以上を占めるまでにいたった。
 KOV ヴィナ社はこのような中にあって、ベトナムの電力関連のゼネコンであるPTSC社と組んで、2023年、デンマーク企業による風力発電所建設にもかかわった。
 2025年10月、11月には同じデンマーク企業から受注をうけることがきまっているそうだ。温室効果をもたらす二酸化炭素を排出しないエネルギーへの転換は、将来、脱炭素の未来をめざすベトナムにとって、避けて通れない課題だ。風力、太陽光によって発電する産業への投資はこれからも進むだろう。同社もその潮流に乗り、会社の発展をめざしている。

韓国企業と日系企業の商取引文化の違い

 技術者はホイ自身はじめ、いずれも韓国企業などで学んできた人材を積極的に採用し、品質と信頼のためにも、法律を順守し、決してクラック、つまり海賊版や出所不明の技術や模倣品をしようしないよう努めている。外資系企業に商品を納める以上、そうした点にも配慮しなければならないとホイは語る。
 生産能力は、月産70〜80トンを処理可能、CNCを用いた金属加工製品であれば、月3、4000個は生産可能だ。
 日系企業との取引も過去経験がある。ただし、韓国企業と日本企業では商取引の文化が異なるので、とまどうこともあるという。
 日本企業と取引する場合には、まずお互い信頼関係を築くまでには長い期間を要する。たとえば、商談をはじめてから実際に受注するまでに、2年間かかったケースがある。
 韓国企業であれば、1、2週間の商談で、受注できることもある。韓国企業の方がスピードが早い。しかし、その後の変更が多いのも事実だ。日本企業であれば、発注をもらった以上、途中で取り消しになったり、変更になったりすることはない。これは企業文化にあらわれるお国柄だから仕方がないことだとホイは笑う。
 ホイ自身が韓国語に通じているため、やはり韓国企業との付き合いが多くなる。しかし、日本企業との取引を避けているわけではない。
 ぜひともホイが率いる金属加工会社、KOV ヴィナ社の扉をぜひ叩いてもらいたい。長年、韓国で働き、取引の経験ある同社であれば、満足のいく仕事をしてもらえるだろう。

文=新妻東一

社長のファム・ホイ

KOV ヴィナ株式会社
KOV VINA JSC

プロフィール

2022年ベトナム南部、ビエンホアに同社は創業した。設立者はファム・ホイ社長。13年韓国で働き、帰国後も韓国企業でキャリアを積み、3年前に金属加工業の工場を立ち上げた。プラスチック加工、半導体設備の供給、機械加工、金型の提供のほか、測定・検査サービス、工場への技術移転およびコンサルティング、労務・人事研修や技術移転まで行う。日系企業との取引を希望。

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新妻東一Sanshin Vietnam JSC マネージングダイレクター

投稿者プロフィール

1962年東京出身。東京外国語大学ベトナム語科卒。貿易商社勤務、繊維製品輸入を担当。2004年ベトナム駐在。2010年テレビ撮影コーディネートと旅行業で起業。

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