グリーン・メカニカル・テクノロジー株式会社/グエン・テー・ビン執行役員
- 2025/08/21
- ベトナム企業インタビュー

日本に在留するベトナム人は2024年、60万人となり、中国84.4万人に次ぐ、国としては2位となっている。コンビニや居酒屋で働くベトナム人と接することも多いだろう。
多くは技能実習、技人国(技術・人文知識・国際業務)、留学などの資格で日本に長期在留している。
ベトナム人の多くが単純労働をさせられている、賃金の不払いや暴力をふるわれたなどして制度そのものへの批判や、ベトナム人をはじめとする外国人犯罪が報道されれるにつれ、外国人排斥などの政治的主張もまかり通るようになっている。
ただ、そんな側面ばかりではなく、ベトナム人の中には日本語と技術を学び、その知識と能力を活かして、ベトナムに戻って起業した若者たちも数多くいる。
そのことはこのベトナム企業インタビューによって何人か紹介してきた。
今回ご紹介する企業はグリーン・メカニカル・テクノロジー株式会社である。同社の創業メンバーのひとりで現在執行役員であるグエン・テー・ビンは日本で9年間、留学・就労の経験がある。滞在期間に学んだ日本語と技術をもって、彼は精密金属加工企業をハノイ市内に創業した。まさに日本の技能実習生制度、留学制度による成功例といってもよいだろう。
なおこのインタビューはZOOMによるリモート取材であることをお断りしておく。

日本で技術と経営を学んだビン
同社は2023年に株式会社として登記されたが、実はすでに小さな工場として2023年の時点で5、6年の生産経験を有していた企業だ。立地はハノイ市の郊外、ホアイドックにあり、ミーディン国立競技場から15分の距離にある。
創業者の一人、ビンは日本に留学し、就労した経験がある。
ビンの兄がはじめた企業で、日本語ができない兄が日系企業の顧客との交渉、対応に苦労しているのをみたのと、身近に日本で日本語を学び、働いた経験のある人物をみて、自ら日本に語学留学して、日本語を習得しようと思い立った。それが2014年だ。
その後、3年間大阪・阿倍野の日本語学校で日本語を学びつつ、自転車メーカーに部品を納めているステンレス精密加工企業で5年、農機メーカーに3年間働いたという。日本の企業では、5Sやカイゼンといった生産管理のシステム、業務の仕組み、経営手法も学ぶことができた。
2023年にベトナムに戻ってグリーン・メカニカル・テクノロジー社を株式会社にする際に同社の創業メンバーに加わったという。
同社の主な事業は精密機械加工で、フライス加工機は3%、旋盤加工では0.003mm〜0.001mmの公差に対応している。製品の品質管理には2D/3D測定器、硬度計など必要な測定器も完備しているので、高度な精密加工が可能だとビン。

同社の主な製品は携帯電話電子部品用ジグ&フィクスチャー
同社の主な製品を紹介しよう。
もっとも得意としているのは、携帯電話の電子部品用のジグ(治具)やフィクスチャー(固定具)だそうだ。SamsungやiPhone向けの部品を作っている企業が顧客だそうだ。主な加工材料は、携帯電話向けとあってアルミニウムや帯電防止プラスチックが中心となる。
また最近、バルブ・コック製造で有名な日系企業と手がけているのは、特殊ステンレス製品の加工だ。
日本の自動車・オートバイ関連企業向けには熱処理鋼などの自動車部品の加工も引き受けているという。精密加工なら様々な大きさ、素材の部品にも対応できそうだ。
精密部品加工のみならず、同社は工場のラインまわりには必須である、台車、コンベイヤー、作業台などの制作も行うことができる。顧客の要求にもとづいて、同社の技術チームが現場を調査し、設計図を作成し、ラインまわりに必要な設備を設置する。
ファクトリー・オートメーションのシンプルなものなら、自社で自動システムを構築することも可能だ。
主な顧客は、ベトナムに進出している外資系企業だ。特にビン自身が日本語ができることもあって、日系企業が中心となる。今後は日系企業以外に、韓国、欧州の企業とも接点があり、今後は米国企業との連携も視野に入れている。
現在、従業員数は正社員15名、パートタイムの従業員をあわせれば20〜25名体制が工場をきりもりしている。
設備はCNCミーリング、CNCカッティング、旋盤、エンジンミーリング、溶接機、表面研磨機など、マキノ、ファナックなどの日本製を中心に韓国、台湾製の金属加工設備を備えている。

日本にも工場を投資し、自社商品のフォローアップ狙う
今後の展望として、ビンは自動化分野、自動ロボットの開発と製造に取り組みたいとの意向をもっている。日本をはじめ、ベトナムも今後は高齢化、人手不足が顕在化するであろうと見越して、ロボットが過酷な環境や危険な作業において人間、労働者に代わって作業できるようにしたいと語る。
まだ自社工場は駆け出しだと謙遜するビンだが、しかし工場を大きく発展させて、現在は他社を通じて日本へ輸出しているが、今後は日本に直接輸出できるようにしたいと考えている。すでに大阪、名古屋の顧客に対してアルミニウムの輸出案件にも取り組んでいる。
そして直接輸出が可能となったら、日本国内にも小さくてよいので工場を設立し、トラブル発生時に迅速な対応ができるサポート拠点としてまず機能させることを目指している。
ビンは日本で9年間学び、働いてきた経験と技術、品質と日本文化への理解を強みにして、将来の日本の企業の直接取引と日本での工場設立の夢を描いている。
日本語を学ぶかたわら、ビンは日本のスーパーで働いた経験もある。関西と関東、それぞれ異なる日本人の性格の違いにも気付かされたという。特に関西の人々は親しみやすいが、関東の人間はよそよそしいなど、いわゆる「お国柄」があるという認識も得たという。これが日本企業との関係構築にも役立つだろうと考えているそうだ。
ひるがえってベトナム人はものごとを単純化しすぎて、必要な手順を踏まないで短絡的にものごとを進めてしまう傾向にあるという。どうしてこの手順が必要なのか、それは品質のだめだということをベトナムの若い技術者や工員たちに伝えるのが僕の仕事なんですよ、そう語るビン。仕事が楽しくて仕方がない、そうインタビューで感じた。
日本で同じく留学していたベトナム人のパートナーも見つけ結婚、長男は日本で生まれており、今年5歳になるという。ベトナムに戻ってきて生まれた子どもと4人家族だ。
日本に留学、技能実習生として訪れ、学び、そして日本からベトナムに戻り、企業して会社発展につくす、本来日本がベトナムなどの発展途上国にひらいた制度のあるべき姿をビンにみることができた。
文=新妻東一

グリーンメカニカルテクノロジー株式会社
GREEN MECHANICAL TECHNOLOGY JOINT STOCK COMPANY
プロフィール
5、6年の経験をもつ工場から2023年に株式会社化された精密部品加工企業。執行役員として実質的に企業を切り盛りするのはグエン・テー・ビン。9年間日本で日本語を学び、複数の精密部品企業に勤務した経験を活かし、2023年より事業に参加。今は零細であっても、日系企業で学んだ技術と経営手法で会社を発展させ、海外への直接輸出、日本への工場進出もと夢を描く。