より良いパートナーシップを築くために〜ベトナム人経営者から見た日系企業とベトナム人の働き方

取引先と付き合う上で、相手のことを知るということは、とても大切なことです。文化や習慣も違う海外の取引先であればなおさら。いざその国に進出するとなれば、その国の企業が日本の企業をどう見ているのか、一緒に働くベトナム人はどんな人たちなのか、気にならずにはいられないでしょう。
長年、日系企業で経験をお持ちで、今は経営者として活躍されているビンさんとドーさんに、ベトナム人から見た日系企業と同じベトナム人から見た自社のベトナム人スタッフの働き方や考え方について、お話を伺いました。

0.インタビュイーの紹介

TRAN VU INDUSTRIAL JOINT STOCK COMPANY
チャン・ゴック・ドーさん

ハノイ市ホアイドゥック県にある金属加工工場の創業者。ハノイ工業大学機械科に学び、日系企業に就職。5年働いた後、機械メーカー、包装会社を経て、2015年同社を設立。主な顧客は日系自動車・オートバイメーカー、韓国系家電メーカー大手。今後は海外輸出にも注力したいと意欲に燃える。
「ベトナム企業インタビュー」(2024年11月掲載)
https://vn-bizmatch.com/vietnamese-59/

GREEN MECHANICAL TECHNOLOGY
JOINT STOCK COMPANY
グエン・テ・ビンさん

ハノイ市を拠点とする2023年設立の精密金属加工の会社の執行役員。2014年より日本へ語学留学。9年間日本語を学び、その傍ら、ステンレス精密加工企業で5年、農機メーカーに3年勤務。将来的には、日本へ直接輸出販売できるようになり、自動ロボットの開発と製造にも取り組むことが目標。
「ベトナム企業インタビュー」(2025年8月掲載)
https://vn-bizmatch.com/vietnamese-76/

1.日系企業への憧れ〜なぜ日系企業に就職したのか?

土佐谷:お二人とも、日系企業での勤務経験をお持ちと伺っています。なぜ日本の会社に就職しようと思ったのですか?
ビン:兄は自分で会社を始めたのですが、日本語ができなかったため、日系企業との交渉や対応に苦労しているのを間近で見ていました。身近に日本で日本語を学び、働いた経験のある人がいましたので、自分も日本語を話せるようになりたいと思い、日本語を勉強しに日本に行きました。
土佐谷:逆にお兄さんのご苦労を間近で見ていて、日本以外で学びたいとは思いませんでしたか?
ビン:兄の友人が技能実習生として日本に行った経験があって、そこで、いろいろな経験を積んだり、日本人からアドバイスをもらっていたことを知っていました。私にとって日本は、身近な存在でしたし、何よりも兄の手助けをしたいと思っていました。
土佐谷:ドーさんは、大学を卒業した後、ハノイの日系企業に就職されました。ハノイにはローカル企業、日本以外の外国の企業など様々な選択肢がある中、なぜ日系企業を選ばれたのですか?
ドー:私が新卒で勤めた日本の会社はちょうどベトナムで事業を広げるタイミングでした。すでに大学の先輩も多くいて、評判もとても良かったです。それと、自分が大学で学んできたことが、生かせるというのも魅力的でした。
土佐谷:お二人とも、日系企業に、夢や希望を持って入社された訳ですね。実際に入社されて、どうでしたか?思っていた通りの会社でしたか?
ビン:だいたいイメージと同じでしたけど、朝のラジオ体操は、なぜ毎日やるのかわかりませんでした(笑)。
ドー:ずいぶん昔のことになるので、詳しくは覚えていませんが、みんながプロフェッショナルな気持ちを持って仕事をしていたこと、会社の体制もしっかりしていたことは記憶に残っています。たくさん残業もしましたよ(笑)。1日12時間シフトでした。
土佐谷:毎日、大変でしたね。

2.ベトナム人にとって、働く意義とは?

土佐谷:私もライターになる前、日系企業とローカル企業で働いていた経験があります。ベトナム人のスタッフたちは、家族が病気だからと、急にしばらく休みを取ることもよくあり、みんな休みすぎなのでは?と思っていました。でも次第に、ベトナム人は仕事よりも家族を大切にすることをわかり、理解できるようになりました。お二人自身にとって、働くとは何でしょうか?
ビン:今、私は日本で経験して来たことを、他の人たちに伝えたいと思っています。もちろん、家族のためが優先ですが、立場も変わり、徐々に人のためにという気持ちが芽生えてきました。
土佐谷:私が知っているベトナム人でも、人のために何かをしたいと言える人は、今はまだそう多くはないと感じているのですが、ビンさんのご両親もそのような考えですか?
ビン:はい、私と同じですね。
土佐谷:ドーさんはいかがでしょう?
ドー:私は自分のため、家族のために働き、会社を大きくすることが目標です。
土佐谷:では、お二人が経営者として見たベトナム人スタッフの仕事に対する考え方はどうでしょうか?
ビン:私の会社には、家族を持ったスタッフが多く、あまり若い人がいません。入社しても自由な時間がほしいと、離職する人が多いのです。今はインターネットで簡単に稼げるような仕事に興味がある若者が多く、きつい仕事や自由度が少ない仕事は人気がありません。安い給料で割に合わない仕事であれば、辞めて実家に帰ります。実家に帰れば、給料がなくても暮らせるという考え方が、まだベトナムには存在し、離職率の高い要因だと考えています。
ドー:私の会社は若い人材が多いです。ベトナム人はプライドが高く、3年後、5年後といった長期的な視点で昇格や昇給の話をしても納得しないので、半年、1年といった短いスパンで話をするようにしています。そのため、他社に比べ、離職率は低いと思います。
土佐谷:ドーさんの会社でのどのようなリクルート活動を行っているのですか?
ドー:専門技術を学び、エンジニアを目指している学生に声を掛けたり、ウェブサイトで募集をしたり、知人友人にも声を掛けてもらっています。スタッフたちが、自ら「自分が働いている会社はいい会社だよ」と宣伝をしてくれ、自分の友人を紹介してくれることもあります。
土佐谷:それは良い循環ですね。ドーさんの会社の若い人たちは、昇進することに意欲的ですか?
ドー入社3年目くらいまでは、今の生活ができればそれでいい、と思っていると思います。ただ入社3年目以上になると、もう少し上の立場に立って、お金を稼ぎたいという、良い意味で“欲”が出てきます。
土佐谷:ドーさんの会社には、将来独立したいという若者はいますか?もしそういう人が現れた場合、ドーさんは、嬉しいですか?困ったな、と思いますか?
ドー:独立については、スタッフも口に出さないので、どのくらいそういうスタッフがいるのか、わかりません。ただ、経営者としては、長く働いてくれる人を育てたいと思っていますので、長く働ける人材かどうか、早めに見極める必要があります。独立したいと思っている人は、上司が何を言おうと独立するでしょう。以前、私の会社で1年働き、その後独立したスタッフがいます。彼が独立をしたいと言った時、私は素直に嬉しかったですし、応援しようと思いました。今、彼は会社を経営していますが、私たちの取引先でもあります。会社に辞めても良い関係が続けていられているのは、お互いにとても嬉しいことです。

3.理解できないことを理解するために

土佐谷:お二人はたくさんの経験をお持ちなので、日本人や日本の会社が何を望んでいるのか、容易に理解できます。しかし、文化も習慣も違う外国の人とお付き合いする訳ですから、最初は理解できなかったことも、たくさんあったと思います。例えば、5Sや報・連・相は、日本の会社に入って初めて知った言葉ではないかな、と思います。理解できないことを、理解するために、どのように学んでいったのか、教えて頂けますか?
ビン:私の勤めていた農機メーカーは、お客様からの要求が多い会社でしたので、品質守るために手順通りに実行することがとても大切でした。しかし、最初私は、なぜ手順がそれほどまで大切なのか、理解できませんでした。ベトナム人は物事を短絡的に捉えがちで、めんどくさい、不要な手順だ、と自分で判断し、省略してしまうことがよくあります。ただ、日本人と一緒に仕事をしていく中で、手順通りにやることは時間がかかりますが、安定的に良い品質を作ることができ、手順通りにやらないと品質が不安定になることを身を持って体験することで、徐々に手順の大切さがわかってきました。
土佐谷:ドーさんは、日系企業でQCリーダーにもなったことがあると伺いました。理解するだけでも大変なのに、それを人に教えるということはもっと大変だと思います。人にわかりやすく教える秘訣はありますか?
ドー:私は必要な手順を細かく分けて説明するようにしていました。わからないものを1度に説明してもわからないですし、ベトナム人は仕事が嫌ならすぐに辞めてしまいます。ですから、これができたら次はこれ、段階を踏みながら、少しずつ理解させるやり方が、ベトナム人の性分にはあっているんです。

4.取引先と良い関係を築くために

土佐谷:現在、お二人の会社ともに、日系企業との取引があると伺いました。製造業ですので、当然お客様の要望を経営者であるお二人だけが理解できていても、良いものは作れません。日頃のスタッフ教育も大切になってくると思いますが、外国企業との取引にあたり、自社で取り組まれていることはありますか?
ビン:私たちの会社は、まだ新しい会社ですので、今、組織作りをしているところです。5Sや報・連・相を十分な時間を使って、スタッフ1人1人に教えるのは、次のステップかな、と思っています。
ドー:受注に関して、私の会社では、自分たちの能力に見合い、受注を受けられるかどうか、エンジニアと相談してから、注文を受けるようにしています。ベトナムでは、自分たちの生産技術や能力を顧みず、依頼が来た注文を全て受けてしまう会社もあります。ただそれは、とてもリスクが高い。私たちは、確実にお客様の期待に応えられるものであれば引き受けますし、そうでなければ、一旦エンジニアと相談します。自分たちにとって挑戦になるものについては、みんなで目標や目的を共有し、なぜこの課題に取り組まなくてはならないのか、きちんと話し合った上で、お客様に回答をします。そうすることで、大きなリスクを避け、責任感と使命感を持って、モノづくりができますし、お客様の信頼に繋がると考えています。
土佐谷:経営者として、ご活躍されている今、日系企業での経験が生きていると感じることはありますか?
ビン:報・連・相が大切ということです。ベトナムでは、不良が発生した場合、他人に責任を転嫁することがよくあります。しかし、きちんと報・連・相を行っていれば、不良を未然に防ぐことができますし、万が一、不良が発生した場合でも、なぜそうなったか、客観的に原因を突き止めることができ、単純に誰のミスと責任を押し付けあう必要がなくなります。
ドー:時間を守る、5S、約束を守る、プロフェッショナルであり続けること。日本の会社で学んだこと全てが、良い経験となっています。
土佐谷:最後に日系企業への要望がありましたら、教えてください。
ビン日本のお客様は材料への要求がとても厳しく、毎回全く同じ材料を使用して欲しいと依頼があります。ベトナムで全く同じ材料を安定的に仕入れるというのは難しく、お客様の要望に応えるために輸入材を使用するとなるとコストがかかります。製造側からすると、同等または同等以上の材料の使用についても、検討してもらえたらと思います。
ドー:材料の要求については、私もビンさんの意見に同感です。また見積交渉に、とても時間がかかり、なかなか取引に繋がらない、のも残念です。私たちは、手続きを円滑に進め、より多くの日系企業とパートナーシップを築いていきたいと考えています。

5.インタビューを終えて

今回のドーさん、ビンさんのお話から得られた、日系企業がベトナム人やローカル企業とうまく付き合うためのポイントは、
① ベトナムの若者は、自由と短期的な目標を大切にしていることを理解する
② 日本の優れたシステムを教える時は、焦らず一歩ずつ
③ 材料の調達など、両社にとっての課題に対しては、柔軟に対応することで、本当の意味でのパートナーシップを築くことができる
です。駐在員の任期は予め決められていることも多く、現地のことがわかった頃に帰任となったという話は珍しくありません。現地に来て初めて知ったことや自身の体験を、いかに後任者や日本の本社にも共有できるかということが、対会社として、より良いパートナーシップを築く鍵になると感じました。

インタビュー・文=土佐谷 由美
通訳=ハー・ティ・フエン(Wons Vietnam Joint Stock Company)

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土佐谷由美

投稿者プロフィール

千葉県出身。國學院大学文学部史学科卒。設計事務所を経て、(株)ニトリに入社。2019年自社家具工場への出向が初ベトナム。2025年春よりフリーランスに転向。

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