ロシア制裁がベトナムに影響を与えそうな分野~貿易とインバウンド(観光)~

ベトナムとロシアの国旗

2022年2月、ロシア軍のウクライナへの侵攻により始まった戦争は、4ヶ月以上たった6月末になってもまだ戦争が続き、ロシアには様々な経済制裁が科されています。

そんなロシアとベトナムとの関係ですが、フランスからの独立を目指したインドシナ戦争、アメリカや南ベトナムとのベトナム戦争、そして中国と戦った中越戦争でもソ連からの援助を受けており、ソ連を受け継いだロシアとも長年友好関係にあります。

しかし歴史を振り返れば、ソ連の経済的な混乱と崩壊が80年代後半~90年代前半のベトナム経済に大きな影響を与えたように、ロシアへの経済制裁により今後ベトナム経済にも影響を与える可能性が懸念されるでしょう。

そこでロシアと経済的な結びつきがどのくらい強いのかについて統計データなどを元に、貿易と日本であまり報道されていない側面であるインバウンド(ロシアからのベトナム観光)について紹介します。

1. 貿易面で見るロシアとベトナム

現在ベトナムは、原材料を輸入し加工/生産、それを国外へと輸出することが経済成長において重要なポイントとなっています。そこでロシアとの貿易を見ることで、どんな部分で影響が出そうかを確認しましょう。

なおデータは、OECのサイトで公開されている2020年時点での輸出入を使いました。

1-1. ベトナムの輸出先としてのロシア

ベトナムの輸出に占める各国の割合を示したのがこちらの図です。

アメリカ、中国、日本、韓国などが目立つものの、ロシアとは31.5億ドルであり輸出に占める割合は1.05%しかありません。そして輸出品が下記です。

そしてベトナムからロシアへの輸出額の内、金額ベースで上位10位の種類は下記になります。

順位商品の種類割合
1位放送/通信機器(携帯電話等)36.1%
2位放送/通信用アクセサリ8.74%
3位コーヒー3.21%
4位オフィス機器部品3.1%
5位繊維靴2.76%
6位コンピュータ2.39%
7位機械2.37%
8位革靴1.83%
9位魚の切り身1.47%
10位コーヒーとお茶の抽出物1.42%

以上の合計で63.39%ほどです。

上記商品は、ロシア以外の国にも輸出していますが、ロシア向けの輸出割合が大きいと影響が大きいと考えることもできます。そこで、それぞれの商品においてロシア向けがどのくらいを占めているのかを見てみます。

<ロシアへの輸出が占める割合>

順位商品の種類割合
1位放送/通信機器(携帯電話等)2.71%
2位放送/通信用アクセサリ4.76%
3位コーヒー4.5%
4位オフィス機器部品1.27%
5位繊維靴0.97%
6位コンピュータ1.33%
7位機械11.9%
8位革靴1.02%
9位魚の切り身2.05%
10位コーヒーとお茶の抽出物9.35%

全般的に低く、10%近いのは「機械(原文はMachinery Having Individual Function)」と「コーヒーとお茶の抽出物(原文はCoffee and Tea Extracts)」の2点ほど。機械は、様々な商品の生産に使用される個別機能を持つ機械ですので特定の会社には影響が出てくる可能性がありますが、以上のデータからベトナム全体としては、影響が小さいのではとも考えられます。

1-2. ベトナムの輸入元としてのロシア

次にベトナムの輸入に占める各国の割合を示したのがこちらの図です。

中国、韓国、日本、タイ、台湾、アメリカなどが目立つもののロシアとは17.8億ドルであり、輸入に占める割合は0.66%しかありません。そして輸入品が下記です。

そしてロシアからベトナムへの輸入額の内、金額ベースで上位10位の種類は下記になります。

順位商品の種類割合
1位原料炭26.7%
2位熱間圧延鋼板16.6%
3位豚肉6.71%
4位小麦5.99%
5位精製石油5.53%
6位とうもろこし5.06%
7位カリウム肥料2.18%
8位冷凍魚の切り身1.76%
9位コークス1.70%
10位原油1.44%

以上の合計で73.67%ほどです。輸出の場合より+10%ほど高く、ロシアからの輸入は特定の商品ジャンルの割合が高いことがわかりますね。

上記商品は、ロシア以外の国からも輸出していますが、ロシアからの輸入割合が大きいと影響が大きいと考えることもできます。そこで、それぞれの商品においてロシアからがどのくらいを占めているのかを見てみます。

<ロシアからの輸入が占める割合>

順位商品の種類割合
1位原料炭12.4%
2位熱間圧延鋼板9.09%
3位豚肉33.3%
4位小麦15.2%
5位精製石油2.49%
6位とうもろこし4.26%
7位カリウム肥料15.2%
8位冷凍魚の切り身4.11%
9位コークス14.2%
10位原油0.75%

まず目につくのは豚肉輸入において、3分の1をロシアからが占めていることです。しかしこの背景には、2020年にベトナムで豚コレラ流行による大量の処分が行われたための一時的な特殊要因と考えられます。実際2019年のデータでは豚肉が上位に入っていませんでした。

よって豚肉の影響はそこまで大きくないとも考えられます。

他の商品で割合が大きいのは、14~15%ある原料炭やコークスなどが、それよりも注目すべき商品があります。それが7位の「カリウム肥料」です。

順位国名割合
1位ベラルーシ17.9%
2位カナダ17.9%
3位イスラエル17.6%
4位ラオス16.8%
5位ロシア15.2%
6位ドイツ4.1%

上記は「カリウム肥料」の輸入元国ですが、ベラルーシ17.9%、ロシア15.2%と、この2か国で輸入の3分の1となります。ベラルーシも今回のウクライナ戦争における当事国の1つとなっており、何かの理由で両国からの輸入が止まるとベトナムの農業への影響が大きいことになります。しかも「カリウム肥料」の輸入は、6ヵ国で89.5%なっており調達先が一部の国に集中しているという特徴があります。

以下は2019年の記事「知られざるカリウム大国「ベラルーシ」とロシア ~我が国へのネガティブ・インパクトとは~」からですが、
・カナダ、ロシア、ベラルーシ、中国、ドイツで世界の全生産量の80パーセントを占める
・絶対的な生産量が多いのにもかかわらず、肥料として必須であるため生産国の価格交渉力が強いという特徴がある
とあり、今回のウクライナ戦争で世界的に資源の奪い合いとなりやすい点も懸念材料です。

もう1つ懸念商品挙げるなら日本でも注目されている「小麦」でしょうか。

「小麦」の輸入元国ですがロシア15.2%に加えてウクライナ7.65%とあり、両国で22.86%にもなります。ベトナムはフランスの食文化を受けて、サンドイッチ「バインミー」などが国民食となっており、パン類の価格上昇は庶民への影響も大きいと考えられます。

1-3. ベトナムのエネルギー資源(石油、ガス)輸入元について

せっかくなので現在、石油、天然ガスなどの価格が大きく上がっていることから、ベトナムがどこからエネルギーを輸入しているのかを念のため見てみます。

まず日本でも話題の液化天然ガス(LNG)はベトナムの場合、全量を中国から輸入しており金額も低いので影響が少なそうです。

では輸入額で5位に入っている精製石油はどうでしょうか?

順位国名割合
1位韓国29.4%
2位マレーシア22%
3位シンガポール16.8%
4位タイ12.4%
5位中国12.1%
6位ロシア2.5%

ロシアは6位で2.5%と割合も小さいです。それよりも韓国と中国の割合が高く将来、朝鮮半島有事や台湾海峡危機が起きた場合、ベトナムにとって大きな影響が出るのではとも考えられます。

輸入額で10位に入っていた、原油、石油類、瀝青炭鉱物からの油の輸入元はどうでしょうか。

順位国名割合
1位クウェート80.4%
2位アメリカ7.7%
3位アゼルバイジャン5.11%
4位ナイジェリア3.13%
5位ブルネイ2.53%
6位ロシア0.75%

クウェートへの依存が非常に高いですね。

似た種類の商品として「鉱物性燃料、鉱物性油及びその蒸留製品」の輸入元も調べてみました。

順位国名割合
1位クウェート21.5%
2位オーストラリア15.5%
3位韓国9.5%
4位中国8.8%
5位マレーシア7.4%
6位シンガポール5.9%
7位インドネシア5.4%
8位南アフリカ5.4%
9位ロシア4.9%

ここではロシアの割合が4.91%と比較的高いですが、調達先は多くの国に分散されているので、そこまでリスクは大きくないとも考えられます。

以上、金額ベースで見た限りでは、一部商品(カリウム肥料、小麦)などを除いて、そこまでインパクトは無いようにも見えます。しかしながら

◆ロシアから安く購入できているので比率は低いが、実際は量が多くて影響が出る可能性

◆輸出入額は低いが、個別にロシアの割合が高い商品がある可能性

◆他国でロシアの割合が高くて今後商品の奪い合いや価格高騰による影響

◆国際的なサプライチェーンが影響を受け、連鎖的に部品や商品が手に入らなくなるリスク

などがあげられるため、中・長期的にベトナム経済にとっては、リスク要因の1つとも考えられます。

1-4. 戦争開始後にベトナムとロシアの貿易はどうなったのか?

ちなみにロシアとベトナム間の貿易総額(輸出+輸入)は、近年大きく増加する傾向にあり、例えば2021年1~10月だけで輸出が22%増の40.4億ドル、輸入が同じく25%増の15.8億ドル(両方とも2020年の同期間10ヶ月間との比較)と増加基調にありました。

2021年に輸出で特に伸びていたのは、ゴム323.75%増、機械、設備、工具、スペアパーツ80.54%増、カシューナッツ69.73%増、コショウ49.63%増などです。

では2022年2月の戦争開始でどうなったのでしょうか?

上記グラフは、青い線がベトナムからロシアへの輸出、赤い線がベトナムのロシアからの輸入です。数字の単位は100万ドルですので、「325」なら3.25億ドルとなります。2022年3月(表のTh3/22)に急減しているものの、4月の輸出は7900万ドルで前月から68%の急増となっています。

報道によると3月の停滞の反動もあって、コーヒーが211.4%増の1840万ドル、シーフードが188.3%増の750万ドル、野菜が97.3%増加、コショウが10倍近く増加とあり、ゴムも金額で6倍以上増加とあります。しかし靴、お茶、電話などは引き続き減少するなど、商品によって明暗が分かれる形でした。2022年1~4月の期間合計でみると、前年同期比で43.9%減少した6億2,190万ドルとあります。

またロシアからの輸入も4月は、前月比69%増加の2億6,720万ドルに増え、特に増えたのは、原料炭(石炭)の287.4%増でした。また化学薬品、プラスチック、鉱石およびその他の鉱物も急増したものの、肥料、木材および木材製品、金属、機械設備、小麦、鉄鋼などで急減したとあります。2022年1~4月の期間合計でみると輸入は堅調で、前年同期比で48.2%増加した9億7,100万米ドルとなります。

推測ですが、欧米からの批難を受けにくい食品は輸出しやすく、スマホなどの電子機器は輸出しにくい。エネルギー価格高騰で苦しんでいるため、石炭など安く調達したといったところでしょうか。

では貿易以外の面として、最後にインバウンド(ロシア人観光客の訪越)も見てみましょう。

2. 観光産業がロシアへの経済制裁の影響を受ける可能性

約2年ほど続いた入国制限を緩和し、2022年中に約600万人の外国人観光客を期待しているベトナムは、コロナ以前も実施していたビザなし入国制度をこの3月に復活させました。

ベトナムへビザ免除で入国できる国のリストには、日本や欧州先進国に加えてロシアやベラルーシといった国も入っています。一方で現在、経済的に結びつきの強いはずのアメリカや中国などはビザ免除国に入っていないことから、ロシアとの友好度合いがわかります。

2-1. ロシア人に人気のベトナム、ベトナムにとってお得意様のロシア

そのため以前からロシア人観光客にとってベトナムは気候が温かくビザ不要で行きやすい場所という特徴がありました。文化スポーツ観光省の統計によると、ベトナムへの観光客が多い国は、中国、韓国、日本、台湾、アメリカに次ぐ6番目にロシアが入るとあります。

実際ロシア人観光客の数も増えており、2014年の365,000人が、2019年には646,524人となり5年でほぼ2倍となる増加です。

ロシアが冬の時期でも常夏のベトナムは人気の観光地(ベトナムメディアの報道より

またロシアからの観光客は、ベトナムで平均して約1,500~1,600米ドル/人を使うため、他国からの約1,100米ドル/人よりもお金をベトナムへ落としてくれる存在でもあります。ちなみにこれは中国人客の4倍にもなります。

その背景として休暇期間が長いことがあり、ロシア人観光客は約11〜15日をベトナムで過ごし、これは中国人観光客の3倍にもなるためという理由があります。参考ページ(ベトナム語)

2021年末に1年数ヶ月ぶりにロシアからの観光客を受け入れたニャチャン。ベトナムメディアの記事より引用

特にロシア人観光客への人気が高い場所が南部のビーチリゾート、カインホア省のニャチャンであり、2019年のロシア人観光客は、前年比4.5%増加した約463,000人であり、ベトナム全土へのロシア人観光客の71.6%がニャチャンを訪れたことになります。参考記事(ベトナム語)

2-2. ロシア人はベトナムでどのように支払いをするのか?

ベトナム政府は、特にロシアに対して入国制限といった制裁を科してはいませんが、世界的な経済制裁により、ロシア人観光客はVISAやMaster、JCBといった国際ブランドのクレジットカードを使えないことになりました。今後、ロシア人観光客はどのようにベトナムでお金を使う(決済を行う)のでしょうか?

実は、その仕組みがコロナ禍前から始まっていました。ベトナムにおけるロシア製の決済システムMIRへの対応です。MIRブランドのカードは9,500万発行されているとありますので、ロシア国内ではメジャーなシステムとなります。参考記事(ベトナム語)

ロシアのMIRカード(こちらの記事より引用

2019年10月29日にベトナムの銀行決済システム(NAPAS)は、ロシアの銀行カード決済システム(NSPK)と提携し、ベトナム国内で「MIR」ブランドのカードを使って決済できるようにしました。

具体的には、ベトナムの大手国営銀行BIDVのATM(2,000箇所)やPOS(7万箇所)で、ロシアのMIRカードを使えるようにするという内容です。

現在ベトナム国立銀行の話としてBIDV銀行及び、ベトナムとロシアの合弁銀行であるBietnam Russia Bank(VRB)は、MIRカード所有者がBIDVのPOSネットワークで支払いを行い、VRBのATMネットワークで現金を引き出すことができるサービスを提供しているとあります。

両国の国旗が掲げられたVRB銀行の店舗。VRBのWEBより引用

そういった事情もあるので、2022年3月ウクライナ政府からベトナム政府へは、ベトナム国内でのMIRカードを使った決済を取りやめるようにという要請が報じられています。参考記事(ベトナム語)

これについての結果は出ていませんが、MIRカードの利用可否の有無よりも影響が大きいことがあります。それは、今回ロシアへの経済制裁によって一番影響を受けるのが、ベトナムへ観光できるようなロシアの中間~高所得層と考えられることです。

それゆえ今後、経済的な理由でベトナムへ観光するロシア人が減り、ベトナムの観光産業に影響が出てくるとも考えられます。

こういった状況の為、ビーチリゾートであるカインホア省のニャチャンでは、2022年6月15日に初めてウズベキスタンからのチャーター便客を受け入れたり、インド市場の開拓を強化しているとも報じられています。

ウズベキスタンからの初フライト記念写真。ベトナム語メディアの記事より引用

ベトナムの人々にとっても、影響が出ているこの戦争の、一刻も早い終結を願ってやみません。

筆者:石黒健太郎 ベトナムでのオフショア開発を行う(株)バイタリフィにて現地ビジネス情報を日々調査しています。

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