「ハイクオリティ・あつい信頼」日本が求める信頼性を武器に世界と繋がる/HARO VN社 社長グエン・ハイ・ナム

ベトナムの商都ホーチミン市のIT企業、HARO VN有限責任会社。設立から間もないながら、独自のパッケージ製品を次々とリリースし、日系企業とのシステムインテグレーションやオフショア開発において、「ハイクオリティ・高い信頼」を掲げ、邁進している。今回は、同社の創業者であり社長を務めるグエン・ハイ・ナムに、その経営と製品戦略、そして彼自身の半生と未来の夢について話をきいた。

新妻: ナム社長、本日はお忙しい中、ありがとうございます。まずは御社の会社概要をお聞かせください。
ナム社長(以下、ナム): こちらこそありがとうございます。当社は2023年1月27日に設立されました。本社はホーチミン市にあります。親会社は日本のHARO INCです。当初から日本市場との連携を念頭に置いて事業をスタートさせました。
新妻:御社の事業内容は具体的にどのようなものですか?
ナム: 当社の事業は主に3つです。一つ目は、お客様のニーズに合わせたシステムインテグレーションおよびコンサルティングです。二つ目は、独自パッケージ製品の開発・展開、そして三つ目が日本市場向けのソフトウェア受託開発、すなわちオフショア開発です。
特に価値(VALUE)として重視しているのは「高い品質、 高い効率、 高い信頼」。これは、私が長年日系企業と仕事をしてきた中で培ったもので、お客様の信頼が、事業を維持・発展させる唯一の道だと信じているからです。
新妻: なるほど。従業員数など、会社の規模について教えてください。
ナム: 現在、従業員数は22名です。IT企業特有のスタイルかもしれませんが、我々は主にリモートワークが基本です。会議や特定の作業で集まることはありますが、基本的な開発業務はオンラインで完結しています。これは、優秀な人材が場所にとらわれずに最高のパフォーマンスを発揮できる環境を作るためです。

独自製品の強み:製造業特化型人事システム「EST」と多言語対応「MeNuMO」

新妻: 独自製品について詳しくお伺いします。特に力を入れている製品は何でしょうか。
ナム: 最も注力しているのが、人事管理・給与計算システム「EST」です。このシステムは、採用から従業員記録、トレーニング、評価、勤怠管理、給与計算、さらには労働災害の履歴管理までを網羅しています。
新妻: 人事システムは競合も多いと思いますが、ESTの強みはどこにありますか?
ナム: 強みは、製造業特有の複雑なニーズに対応できる点です。ベトナムの製造業では、多岐にわたるシフトや交代勤務、そして複雑な手当が存在します。ESTはこれらに柔軟に対応できるように設計されています。また、多言語対応であるため、日本からの駐在員や海外の管理者がスムーズに利用できます。
導入形態についても特徴があります。サブスクリプション型のクラウド提供も可能ですが、特に日系のお客様は、機密性の高い人事データは外部に置きたくないという要望が多く、買い取り型のオンプレミス(自社サーバー設置)ソリューションを選択されるケースが非常に多いです。私たちは両方に対応できる体制を整えています。
新妻: ESTはいつ頃リリースされたのでしょうか。
ナム: ESTシステムは2025年3月16日に正式にリリースされ、その後、2025年4月1日には専用ウェブサイトも公開しました。現時点での当社の最新の活動記録となっています。
新妻: もう一つの独自製品、MeNuMOについてもお願いします。
ナム: MeNuMO(モバイルメニューシステム)は、外食産業(F&B)向けのモバイルアプリケーションです。観光地や都心部の飲食店では、多国籍のお客様が来店されます。MeNuMOを使えば、お客様はQRコードをスキャンするだけで、多言語でメニューや料理の説明を見ることができます。
新妻: これら二つの製品に加えて、電子文書管理システムe-Documentも開発されているそうですね。
ナム: はい。e-Documentシステムは、ISO文書や業務手順書、ポリシーといった組織内の重要な文書を一元管理し、共有するためのものです。ワークフロー機能を通じて、文書の承認プロセスを自動化したり、改訂期限の警告メールを自動送信したりできます。バージョン管理も徹底しており、企業の情報ガバナンスを強化する上で非常に便利です。

日系企業が信頼する理由:徹底した品質管理とベトナム人技術者の特性にあわせた管理

新妻: 御社は、日系企業とのパートナーシップやオフショア開発に非常に強いという印象を受けます。実績についてお聞かせください。
ナム: 私たちのチームは、日本市場向けのオフショア開発において10年以上の経験を持っています。システムインテグレーションの実績としては、日本の大手企業へのERPシステムや、人事・勤怠・給与計算、設備保全のシステムも導入しています。オフショア開発でも、F&B向けのQRオーダーシステム、医療健康情報クラウドシステム、日本の顧客向けウェブサイト構築など、多岐にわたるプロジェクトを経験しています。
新妻: 日系企業が御社を選ぶ決め手は何だとお考えですか?
ナム: やはり、当社の企業価値である「ハイクオリティ、あつい信頼」を追求している点です。日系のお客様は、技術的な難易度よりも、納品物の品質と確実性を非常に重視されます。信頼がなければ、一度きりの取引で終わってしまいます。すべての収益と利益は、お客様の信頼から生まれると強く感じています。
新妻: ベトナムのITエンジニアの特性について、社長はどうお考えですか。
ナム: ベトナムのエンジニアは、非常に難しい問題に直面した際の調査能力や解決能力は非常に高いと思います。難しい課題を迅速に解決できます。しかし、逆に、単純な作業や、出来上がったものに対する細部にわたるチェックや丁寧さが欠ける側面があります。細かな確認作業を怠る傾向が見られます。
新妻: そこが日本人が重視する「きめ細かさ」との違いなのですね。
ナム: その通りです。日本のエンジニアは、開発段階から非常に几帳面で、完成した段階で既にかなりハイクオリティなものになっていることが多い。しかし、ベトナム人開発者の場合、納品前に多くの不具合が残っていることがよくあります。これは、日本の顧客とベトナムのオフショアチームの間でよく発生する摩擦点です。
この課題を克服するため、当社では、開発チームとは別に、品質保証(QC/QA)の専門チームを設けています。品質管理体制を二重にすることで、お客様に安心してご利用いただけるハイクオリティな製品を提供することを徹底しています。これは、日本のお客様の信頼を維持するための最も重要なポイントです。

ナム社長の生い立ち:中部クアンチ省からホーチミンへ、ITに魅せられて

新妻: ナム社長ご自身のキャリアについてお伺いさせてください。社長はITの世界に入られたきっかけは何だったのでしょうか。
ナム: 私は1983年に、ベトナム中部にあるクアンチ省で生まれました。私は子どもの頃から数学が得意で、コンピューター関連のものに強い関心を持っていました。その情熱に従い、ITの道を選びました。
新妻: 大学はどちらで学ばれたのですか。
ナム: ダナン工科大学のIT専攻で学びました。2007年に卒業しました。当時、私の住んでいた中部地域で最も近くて評判の良い工科大学でしたね。
新妻: 卒業後、すぐにホーチミン市へ?
ナム: はい。卒業した2007年にホーチミン市へ出て、そのまま就職しました。私のキャリアは、一貫して日系ソフトウェア企業と共にありました。これまでに3社の日系企業で勤務しました。
新妻: 3社もですか。どのようなお仕事をされていたのでしょうか。
ナム: 長くIT業界、特に日本向けのシステム開発に携わりました。最後の会社では、退職するまで副社長を務めていました。主に、対外的なビジネス開拓や、ベトナム国内市場向けの製品開発を担当していました。
新妻: 副社長という要職から、独立を決意されたのはなぜでしょうか。
ナム: 2013年のことでした。長年会社勤めをして多くの経験を積ませていただきましたが、「人生は一度きり。自分のやりたいことを、自分の理想とするやり方でやってみたい」という強い思いがありました
ただ、独立する際に重視したのが、前の会社や関係者との信頼関係を維持することでした。ベトナムでは、独立する際に前の会社の顧客を連れて行くケースが少なくありません。しかし、私はそうしたやり方は選びませんでした。信頼が途絶えてしまっては、長くビジネスを続けることはできないからです。幸いにも、私は前の会社と現在も非常に良好なパートナー関係を維持しており、今も大きなプロジェクトではコンサルティングやサポートを続けています。すべてにおいて「明確でオープン」であることを心がけています。
新妻: そのご経験が、御社の「高信頼」という企業価値に繋がっているのですね。

日本への想いと、ITで世界を変える夢

新妻: 長年日系企業と関わられてきた中で、日本語も習得されたそうですね
ナム: はい。最初の会社に入った時に学びました。今は技術的なコミュニケーションであれば、ある程度対応できます。お客様との意思疎通が必要なレベルであれば、問題なく対応できると思います。読み書きもできますが、時々漢字を確認しないといけないこともありますね(笑)。
新妻: 日本へは何度か行かれたことはありますか?
ナム: これまでに3回ほど、すべて出張で訪問しました。東京、横浜、名古屋などに行きました。
新妻: 日本に対してどのような印象をお持ちでしょうか。
ナム: まず、すべてが非常に清潔で、整理され、丁寧ですね。そして、日本人は非常に勤勉で、常に学ぶべき模範だと感じています。彼らの働きぶりは本当に素晴らしいです。
それから、個人的な話になりますが、私は日本の食事が大好きです。私にとって一番のごちそうは日本のカレーライスです!多くの日本の関係者の方々も、私がカレー好きだということを覚えてくださっています。日本のカレーは味が格別で、本当に美味しいですね。
新妻: (笑)社長がそこまで日本の文化や仕事ぶりに敬意を持たれていることが、御社のサービス品質の高さに直結しているのですね。最後に、御社の今後の夢、そして目標についてお聞かせください。
ナム: 私には妻と二人の息子がいます。家族の支えもありますし、何よりもこのITという仕事に情熱を持っています。技術を通じて、より良い社会の構築に貢献できることに大きな喜びを感じています。
創業した人間として、目先の目標は、現在の強固な基盤を活かして、会社を大きく成長させることです。具体的には、売上を現在の数十倍に拡大させることが、現時点での最大の夢であり目標です。もちろん、その道には数多くの困難が待ち受けていることは理解しています。しかし、ハイクオリティを維持するという原則を決して曲げず、お客様からの信頼を積み重ねながら、この目標に向けて粘り強く邁進していきたいと思っています。
ITの世界は今や国境の壁がありません。当社の技術、製品、そして品質へのこだわりを持って、ベトナムから世界、特に日本のお客様に対して貢献し続けることが、私たちの大きな夢です。
新妻: ナム社長、本日は貴重なお話をありがとうございました。「ハイクオリティ・あつい信頼」で、御社がベトナムIT業界、そして日越間のビジネスにおける重要な架け橋となることを期待しています。

取材を終えて

ナム社長は、落ち着いた物腰ながら、ITと品質に対する確固たる信念をもっている方。ベトナム中部の田舎からホーチミンでキャリアを積み上げ、困難な道を選んで独立した彼の半生は、まさにベトナムのダイナミズムそのもの!
彼が強調する「ハイクオリティ、あつい信頼」は、単なるスローガンではなく、日系企業での長年の経験から学んだ生きた知恵。ベトナムのエンジニアの強みと弱みを深く理解し、その上でQC/QA体制を徹底することで、日本市場が求める水準をクリアしている。
独自製品の開発を進めつつ、日本向けオフショア開発で安定した実績を積み上げるHARO VN社。彼らの未来への視線は、明確に「世界」に向けられており、ハイクオリティなITソリューションを通じて、ベトナムと日本、そして世界を結びつける重要な役割を担うことになるだろう。

文=新妻東一

社長 グエン・ハイ・ナム

HARO VN CO., LTD.
ハローベトナム有限責任会社

プロフィール

2023年1月に設立されたホーチミン市のIT企業。日本のHARO INC.が親会社。社長はグエン・ハイ・ナム。ITを通じて世界とつながることをめざし、「ハイクオリティ・あつい信頼」を企業価値に掲げ、システムインテグレーション、独自製品開発、および10年以上の経験を持つチームによる日本市場向けオフショア開発が主な事業。

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新妻東一Sanshin Vietnam JSC マネージングダイレクター

投稿者プロフィール

1962年東京出身。東京外国語大学ベトナム語科卒。貿易商社勤務、繊維製品輸入を担当。2004年ベトナム駐在。2010年テレビ撮影コーディネートと旅行業で起業。

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