ベトナムで開発・設計、製造を!日本に学びMake in Vietnamを体現する/アイデア・テクノロジー・コーポレーション

 ここ数年、ベトナムでは”Make in Vietnam”というスローガンをよく見かけるようになった。私は当初、”Made in Vietnam”とすべきところをスペルを間違ったのかな?と思っていたのだが、ベトナム情報通信省のいう”Make in Vietnam”は”Made in Vietnam”とは異なる概念だと説明している。
 ”Made in Vietnam”とは、原産地や現地調達率、関税、輸出入に関わる内包的な意味しか持たない。たとえば、ホンダがベトナムに工場をつくり、オートバイを製造しても、そのオートバイはブランドは日本のものであっても”Made in Vietnam”、すなわち「ベトナム製」になる。”Made in Vietnam”という言葉はその製品の技術がどこから輸入され、生産といえば組立なのか、研究・創造されたものなのか、そうした価値がベトナムで多く生まれたものであればよいとする点については関心を払っていない。
 一方、ベトナム当局のいう”Make in Vietnam”とは、組立、加工から創造、設計へと主動的に力強く移行し、そのことによりベトナムの技術製品生み出すことだと説明されている。
 「メイク・イン〜」といえば、2014年のインド・モディ首相が提唱した”Make in India”が想起される。インドは30年ほど前から主に欧米向けのITサービス輸出国として台頭した。そのためASEAN諸国と比べた場合、第二次産業である製造業より第三次産業であるサービス産業が主要産業となっている点に特徴がある。そのため貿易収支でITサービス業では黒字となっているものの、経済発展にともない、家電製品やパソコンといった耐久消費財は輸入で賄う構造となってしまった。
 そこでインドは関税を高くして国内産業保護政策をとる一方、国内製造のための外国企業への投資促進の優遇策をとっている。この”Make in India”政策のおかけで、iPhoneを製造する台湾EMS企業や、韓国・中国の携帯電話メーカーを誘致し、携帯電話の輸入代替には一定成功している。
 ベトナムは人件費が安く、その割には優秀なベトナム人IT技術者に支えられ、IT産業も一定の発展をみたが、所詮はオフショア開発、日米欧のIT企業の下請けに過ぎず、自社製品を研究開発をする海外の企業に利益の大半を持っていかれていることには気がついている。
 2045年、建国100年の年には先進国の仲間入りをめざすベトナムは、インドでの一定の成功を横目でみながら、自国で研究、開発、創造されたIT製品、Make in Vietnam製品でベトナム国内の需要を満たすみならず、世界に伍する国となることを目論んでいる。

 今回ご紹介するホーチミン市のアイデアテクノロジーコーポレーションはまさにこの”Make in Vietnam”を率先して体現する企業だといってよいだろう。同社は受託による機械設計から製造ラインまわりの自社ブランドのロボットや無人搬送社(AGV)設計・開発、製造を行う機械メーカーだ。お話しは同社の社長、ドー・ホアン・チュン氏に伺った。社長のチュンは日本に留学した経験があり、インタビューはすべて日本語で行った。同社の社長自らが日本語を操るといういことは、日系企業にとって安心感をもって仕事を依頼し、あるいはともに製品を開発しようとした際の大きな要素であることは間違いない。

 チュンはベトナム中部のタインホア省に生まれたが、5、6歳の時に両親とともにホーチミン市に移り住んだ。ホーチミン市工科大学機械学部を1999年に卒業した。
 「まだ当時のベトナムは貧しい農業国の一つでした。国を富ませるには農業国から工業国へと進む必要がありました。しかし生産設備はすべて輸入に頼っていました。自社で生産設備の研究・開発、製造をして、国の工業化に微力ながら貢献したい、そう願っていました」そう語るチュン。
 大卒ですぐに企業に就職するというコースもあったが、彼は外国、それも日本への留学という道を選んだ。日本語はベトナムで半年間、ドンズー日本語学校で学び、その後日本に渡って1年間日本語を学んだ。
 「当時は漢字2000字を読んで書くことができました。今はすっかり忘れてしまいましたけど」とチュンは苦笑する。日本の大学院に合格して機械工学を学び、ベトナムの発展に貢献したいという自らの使命を前に、チュンは必死になって勉強した。静岡大学大学院工学部で2年間学んだ。
 日本は当時、家電や生産設備で世界をリードしていた。またベトナムと同じアジアの国であり、ベトナムと日本の外交関係も良好だった。そしてなにより日本の製造業がこぞってベトナムに投資を進め、製造工場を設立していた時代だった。ベトナムへ帰国しても日本語を活かして、ビジネスができるとの期待があった。それがチュンをして日本を留学先に選んだ理由だった。
 2003年にベトナムに戻ったチュンは、日系製造企業の進出の支援、設計の手助けなどをしながら人脈を広げ、2010年には数人のパートナーとともにアイディアテクノロジーコーポレーションを立ち上げた。
 彼の起こした会社の目標はベトナム人によって設計、開発された製品をつくるメーカーであったが、機械加工工場をつくろうにも設備投資をしなければならない。先立つお金がなかった。そこで、まずは他の企業から図面作成を請け負うことにした。これならばパソコンとオペレーターさえ雇えば、お金を稼ぐことができる。

 「がんばって、がんばって、客先を1社、1社増やし、オペレーターも2、3人、50人と増やして、現在は150名もの機械設計を行えるCADオペレーターを雇うまでになりました」
”がんばって、がんばって”と日本語で2度繰り返したチュンの語気に、彼の当時の努力がにじみでるようだった。
 そしてそこで得られた資金は7年間貯金をし、キーパーソンとなる人材の育成にもつとめ、まず数台の工作機械を導入して、念願の機械加工工場を設立した。
 ベトナムに進出した外資系の製造メーカーにおいてなにが必要かをリサーチした。工場の自動化=オートメーションにニーズありと見定め、無人搬送車や自動検査装置、ラインを自動化する設備に焦点をあてて自社で開発を進めた。
 2018年にはサイゴンプレシジョン社に自動検査装置を納入したことを手はじめに、日本電産、マブチモーターなど、日系企業20社に自社製品を納入することに成功した。
 創業13年目にして同社は従業員数225名、取引実績のある企業数は205社、機械設計の件数は500件以上、国内向けに自動機各種300台を納入したという。
 現在は子会社4社、日本と米国にも営業所を構えるまでになった。自社の商品としてはAGVから自動販売機まで製造する。
 「日本にはどこにでもある自動販売機。当社ではジュースなどを販売する自動販売機もつくっていますが、街にある販売機の多くは中国製。やはり中国製のコストの安さにはかないませんね」とチュンは苦笑する。
 数年前のコロナ禍では対面で仕事ができないために生産にも支障がでた。従業員の半分は工場・会社に泊まり込みさせ、半分は自宅で仕事をした。おかげで売上が大きく減ることはなかったものの、自宅勤務を実現したり、従業員に支援金を至急したりしてお金を用意せざざるを得ず、資金繰りも苦しかったとチュンは正直に語った。
 「コロナよりも30%もの円安で、円建てでの契約ではほとんど利益がなくなってしまう。これではいけないと社内で検討し、リストラクチャリングを行って10%の利益は確保できるように努力しました」
 そう語るチュンは、その一方でこれからさらに円安がすすめば、経費増や給与アップの圧力にも応えることができなくなると、危機感を強めている。

 「日本の従来顧客の単価をあげることはできないが、新しいお客様には新しい価格で取引をする、日本市場以外の、たとえば米国など日本より価格を高く買ってくれる市場に挑戦する、そしてなによりも自社の商品開発を進めて新しい付加価値を創造することが何よりも大切ですね」
 円安の時代、日本に関わるすべての企業が試練に直面し、それを乗り越えたものだけが、新しい発展を手にすることができますね、そう私が話をむけると、チュンは「ベトナムでは企業の寿命は10年程度が普通です。日本では創業から100年以上も続いてきた企業は珍しくない。私の会社は100年続く企業でありたいです」
 チュンは現在の円安を自分にとっての新しいチャレンジだと前向きにとらえているようだ。
 チュンは16歳と19歳の男の子の父親でもある。長男は工科大学に通い、情報工学を専攻し、英語と日本語も勉強しているという。「お父さんの跡継ぎになってくれればいいですね」と私がいうと、「そう願っていますが、しかしこればかりは本人次第ですね」とチュンは笑う。
 まさにMake in Vietnam、自社で設計、開発、製造を行う企業として100年続く企業に育て、ベトナムの工業化、先進国入りに貢献したいと願うチュン。
 日系企業にとっても頼もしいパートナーとしてともに手を携えて成長していきたいものだ。

文=新妻東一

アイデアテクノロジーコーポレーション
IDEA TECHNOLOGY CORPORATION

プロフィール

2010年、ホーチミン市にて5名にて創業。当初は機械製図支援、受託事業をトレースを手始めに、その後機械設計支援業務、部品バラシ、設計業務支援まで発展、CADオペレーターや設計スタッフを備える。2017年には工作機械を導入し、機械加工、治工具の製造、検査自動機やAGV、ロボットの開発製造で「メイク・イン・ベトナム」企業のひとつ。 

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