農産物の輸出で農民を助けるために起業した元IT技術者社長/ナムヴァンロン有限会社

 ベトナムはトロピカルフルーツの宝庫だ。日本でもお馴染みののバナナやパイナップルはいうに及ばず、マンゴーやパパイヤもおいしい。最近ではベトナムのリュウガンやライチも生鮮ものの輸入が許可され、日本で食べた方もおられるであろう。

 これだけおいしいトロピカルフルーツがあれば、日本もどんどん輸入すれば良いのにと思うのだが、ことはそう簡単ではない。

 生鮮くだものは日本の厳しい植物検疫法や食品衛生法に阻まれて、容易に輸入できない。ベトナムから日本への輸入許可が比較的容易に所得できるようになったのは、ドラゴンフルーツやライチ、リュウガンなど、ごくわずかしかない。その他の生鮮トロピカルフルーツは、輸入そのものが許可されていないのだ。もちろん手荷物としても持ち込みは禁止されている。非常に残念なことだ。

 農産物はその年の天候や各種条件によって生産量が異なる。不作であれば売る商品の数が減り、価格は上昇する。逆に豊作であれば商品の数は増え、価格は下落する。だから農産物は国内市場だけであれば、価格を調整するのは難しい。そこで多くの先進農業国では輸出が奨励されている。不思議なことに日本は作り過ぎたら価格調整のために減反やせっかく作った農産物を廃棄することをやってきた。一方で肉を生産するために豚や牛の穀物飼料は輸入する。おかげで農産物の自給率は著しく低下してしまった。

 日本のくだものを世界に輸出しようという動きがある。私もかつて日本のリンゴをベトナムに輸出するべく、まだ輸入許可が出る前に試験販売をしようと試みたことがある。

 その時にわかったことだが、ベトナムは自国のくだものを買ってくれたら、その見返りに相手国のくだものを輸入しましょうという立場だとわかった。いわばくだもの輸出入の相互主義だ。

 その後、日本はベトナムからドラゴンフルーツ、ライチ、リュウガンの輸入を決め、見返りにベトナムはリンゴ、ナシ、ミカンの日本からの輸入を決めたかたちだ。

 ただ冷凍フルーツは、出荷から輸入するまでの保管温度をが管理されていれば、たとえ生鮮での輸入が許可されていなくとも、輸入は可能だ。

 今回紹介するのは、南部ビンズオン省にあるナムヴァンロン有限会社である。同社は主に生鮮と冷凍の野菜とくだもの、コメなどの農産物を輸出、国内販売している会社である。

 社長の名前はグエン・キム・ニャット。1979年、ビンズオン省生まれの44歳。同社を創業したのが2013年、今から10年前だ。

 需要より供給が上回れば農産物の価格は下落し、売りたくても売れない。逆に需要が供給を下回れば農産物の価格は上昇するものの、売り物はなくなってしまう。国内の価格を安定させ、生産を持続可能なものにする上で、農業国にとって農産物輸出は欠かせない。

 彼はまだ若い頃は、情報技術を学んだ。しかし農業を愛し、農業を営む農民たちを助け、ベトナムの農業の発展に少しでも役に立ちたいと、農産物の輸出販売会社を設立した。

 国内ではスーパー向けに生鮮野菜くだものを扱い、輸出では米国、欧州、日本や韓国、東南アジア各国など、およそ15ヶ国に、生鮮のくだものと冷凍野菜、くだものを輸出している。

 主な商品は、コメ、トウガラシ、レモングラス、ドリアン、マンゴー、ドラゴンフルーツ、ザボン、レモン、ライチなど、各種を生鮮または冷凍で輸出、販売している。

 ドリアンを例にすると、買い入れたものは外観検査を行い、A品は生鮮品として出荷、みかけが悪いものの、実にはなんらの問題がないものは処理、冷凍をして冷凍し、冷凍ドリアンとして出荷する。加工処理はもちろんISO9001やHACCPによる管理を施した工場でのみ行っているという。

 ただニャットには悩みもある。それは自社の工場を持っていないことだという。

 協力工場は中部高原のダクラク省に立地しており、消費地であり、輸出港のあるホーチミン市から車でも12時間はかかる。加工から出荷までのリードタイムが長くなる上、運送料もかさみ、他社との競争上も望ましくはない。

 また、主力商品はドリアンを例にとると、最盛期の6ヶ月間は工場を稼働させることはできても、残りの閑散期にはどうしても工場が空いてしまう。他の農産品を扱うにしても、今度は産地から工場までの輸送費もバカにならない。だからどうしても、サイゴン港など南部の輸出港に2〜4時間で輸送できる距離に加工冷凍工場が欲しいのだという。具体的にはホーチミン市近郊のロンアン、ティエンザン、ドンナイ、ビンズオン省などのいずれかだ。

 新しい工場を建設するには資本が必要となる。

 まずは、商品の顧客を増やしたい。原料である野菜くだものを購入するにも資本は必要だ。売上を増やすことができれば、工場を持つための資本を稼ぐこともできるだろう。

 もう一つは海外から投資を受けることだ。ニャットはだから日本のビジネスパートナーをもとめたいという。

 コロナで外国との往来が閉ざされたため、思うように顧客を増やすことができなかったというニャット。日本の大阪や東京を顧客を訪ねてなんども訪問したことがあるという。

 彼の夢は自社工場を持つことで、労働者に十分な仕事を与えてやりたいのだと殊勝なところをみせる。

 妻と子供二人の父親でもあるニャット。一人はまだ妻のお腹のなかにいるんだ、少し照れくさそうにいう。将来生まれてくる子どものためにも、ホーチミン市にほど近い工場を建設し、新しい展望を切り開きたいのだろう、そう思わずにいられなかった。

文=新妻東一

Nam Van Long Co.Ltd
ナムヴァンロン有限会社

プロフィール

2013年創業。創業社長はグエン・キム・ニャット。本社はビンズオン。協力工場はダクラクにある。主に冷凍のパラミツ、ドリアン、マンゴー、唐辛子などの農産物の輸出・国内販売を行っている。米国、欧州、日本をはじめ15ヶ国に輸出。新たな工場を建設し、売上をのばす計画。日本のバイヤー、投資家を求めている。​​

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