創業46年ベトナム最南端の省にあるエビ専門の冷凍加工・輸出業者/CAMIMEX
- 2023/09/22
- ベトナム企業インタビュー
ベトナムではエビ、カニの料理がポピュラーだ。ココナッツジュースでゆでたエビはシンプルな料理だが、おいしい。ゆであがり、赤く染まったエビがココナッツシェルのまわりに並べられて出てくる。ついひとつ、もうひとつと食べ出したらとまらない。
日本人もエビ好きだ。国民一人当たりの消費量はアメリカに次いで世界第2位。そのほとんどをベトナムやインドなど、アジアの国からの輸入に頼っている。
世界的な経済の発展に伴い、エビの需要に対して供給がおいつかなくなる。1970年〜1980年代には天然ものに加えて、クルマエビ科のブラックタイガーの養殖エビが供給されるようになる。最初は台湾の養殖エビが主流だった。しかし、病気による養殖エビの大量死によって台湾の養殖エビ産業は衰退してしまう。1990年代に今度はタイがエビの輸出で主導権を握る。しかしやはりタイでも高密度養殖、成長主義によって養殖エビ産業は衰退してしまう。
海水と淡水とが混じり合う汽水域がエビの生息、養殖に適しているということで、マングローブ林が伐採され、養殖池となった。おかげでマングローブに保たれていた汽水域の環境が破壊され、薬品に汚染された広大な養殖池の跡地だけが残された。
2000年代に入ると、ベトナムからのブラックタイガーが輸出のトップに踊りでる。ベトナムでは従来、粗放型、つまり天然のマングローブの水路に満潮時に稚エビを導入し、干潮時には水路を閉じて、天然の餌を食べて育てる低コストな養殖方法が主流だったが、90年代には外国資本による集約型養殖が導入され、エビの大量生産が可能となったことがベトナムがエビ輸出産業が拡大した背景にあった。
ベトナム産のエビが天ぷらや寿司ネタとして日本の食卓にも並ぶようになった。一時は日本に輸入されるエビの一位はベトナム産だった時代もある。
そのベトナムにも強敵が現れている。エクアドルとインド産のエビだ。特にエクアドル産、インド産のエビはコストが安い。たとえばキロあたり50〜60匹のエビでいえば、エクアドル産ならキロ2.30〜2.40米ドル、インド産3.40〜3.80米ドル、ベトナム産は4.80〜5.00米ドルと、ベトナム産はエクアドル産に比べてコストが倍になってしまっているという。
ベトナムのエビ輸出最大手のミンフー社会長のクアン会長が、2023年6月に行われた「ベトナム・エビ・フォーラム2023」での発言で、ベトナムは養殖成功率がエクアドルのそれと比べて半分以下であり、それがために高密度での養殖を強いられ、大量の飼料と抗生物質などの薬品を大量に投入しなければならず、コスト上昇の原因となっていると指摘した。
ベトナムにおけるエビ養殖産業を持続可能なものとするために、ベトナムでも新しい取り組みがはじまっている。
今回ご紹介するCAMIMEX Group社はエビ養殖の事業を持続可能な産業として育てるたに取り組んでいるベトナム企業の一つだ。
同社はベトナムの最南端の省カマウ省に位置している。エビの養殖と冷凍加工、付加価値加工を施し、全世界に輸出している企業だ。
同社が特徴的なのは、自然な環境をそのまま養殖に用いて、飼料も薬品も必要としない有機的なエビ養殖の取り組みを進めている点だ。
同グループの総社長、フイン・ヴァン・タン氏にお話を伺った。今回も取材はオンラインで行われたことをお断りしておく。
CAMIMEX社は、1977年カマウ省にベトナムの水産業界の企業として初めて設立された国営企業のひとつだった。2006年には株式会社化され、2011年には完全に民営化された。グループ内に6つの企業を抱え、米国にも関連会社を有する。
現在水産加工工場は4カ所あり、いずれもカマウ省内にある。年の売上は8千万米ドル、製品重量にして年間8千トンを製造、輸出している。
主な商品は、いずれもクルマエビ科のブラックタイガーとバナメイエビだ。生のエビを冷凍にしたものと、天ぷらやフライ、寿司用にボイル加工したエビを冷凍した付加価値の高い商品も提供できるという強みも持っている。
主な輸出先は、欧州、韓国、カナダだそうだ。かつて日本向けに大量に輸出していたが、現在の日本向け輸出は輸出量全体の5%に満たないという。欧州他向けの方が価格が高く販売できるというのが、その理由だ。
同社の特徴ある商品は、「有機エビ」である。カマウ省内に4万ヘクタールの養殖場を設けている。その面積の半分はマングローブ林として残し、残りの半分の面積でエビを養殖している。マングローブ林を残しておけば、エビの生育環境としては十分であり、特別な餌をやる必要もなく、自然の餌で十分育つのだという。ただし、平米あたりの養殖密度は半分から2/3程度だそうだ。養殖エビの個体の大きさは集約養殖によるものより大きくなるという。
同社は「有機エビ」生産を2000年から開始し、ドイツのオーガニック認証団体であるNaturland社や国際海事機関(IMO)の有機認証も受けており、エビの養殖においてオーガニック認証を受けた企業としては世界的にもはじめてであり、ベトナムでは唯一の企業であるとタン社長は胸をはる。
現在の主な顧客は、スイス、ドイツ、オーストリアなどの欧州各国だ。同社は、認証を受けた「有機エビ」は年間2千トンを輸出可能だとしており、持続可能かつ環境にも優しい有機エビの生産を選択する消費者にとっては魅力的な商品になりうると思うがいかがだろうか。
社長のタンは大学で経済学を学び、当時まだ国営企業だったCAMIMEX社に入社して以来、22年の水産業界の経験を有するベテランだ。
日本にも2回、訪れたことがあるという。日本は経済的に発展した国で、街は清潔だし、文化・歴史的にも優れた国だという認識だ。ただ、エビを高く買ってもらえない、また、有機エビに対しても関心が寄せられないのは残念だと思っているようだ。
コロナ禍でも売上に大きな影響を受けたとタンはいうが、さらにコロナ後の世界的な景気交代による影響の方がさらに大きいという。
カマウ省を含むメコンデルタ地域は気候変動とメコン河上流のダムによって土砂が下流に流れてこなくなり、このままではあと数十年後には海の下に沈んでしまうと警告されている。CAMIMEX社の総社長のタンは自らの出身地であるメコンデルタ・カマウ省の未来と、エビの持続的な開発と気候変動対策、低カーボンな経済への関心は高いようだ。有機エビ生産の成功で、地元カマウ省に貢献したいとの夢を語り、タン社長はこのインタビューを終えた。
CAMIMEX GROUP株式会社
CAMIMEX GROUP JOINT STOCK COMPANY
プロフィール
1977年、ベトナム最南端、カマウ省に水産加工国営企業として出発、2011年には完全民営化。主な製品はクルマエビ科のブラックタイガー、バナメイエビの冷凍加工、天ぷら、寿司ネタに加工された冷凍エビ。主に欧州、韓国、カナダに輸出。日本企業との資本提携、業務提携を希望。