ワーケーションにうってつけのベトナム中部の都市「ダナン」

ダナンの海(フォーシーズンズ・ナムハイ)

 ベトナム中部の都市、ダナン。人口110万人を超える都市ですが、ひきの長い白い砂浜が延々と続くビーチがあり、1500mを超える山もかかえています。今流行りのワーケーションにもうってつけの土地、それがダナンです。現在は運休していますが、成田空港からダナン行きの直行便であれば、東京から4時間50分で到着します。ダナンのビーチで楽しんだら、世界でもっとも高度差のあるロープウェイでバナヒルズの遊園地で遊ぶのもよし、またカトゥー族という少数民族の村を訪ねてもいいかもしれません。
 ホーチミン市などベトナム南部の雨季は5月から10月にかけてですが、ダナン周辺の雨季はなんと9月から1月。南部の雨季と異なり、長雨が続くこともあるので、ビーチで海水浴をしたいのなら、雨季や寒い冬は避けてください。
 ではみなさまをダナンの誌上観光案内にご案内いたします。

◯と◯を噴く橋⁈、ハン川にかかるドラゴンブリッジ

ドラゴン・ブリッジ
ドラゴン・ブリッジ

 ダナン市内を流れるハン川。この川には9つもの橋がかかっています。なかでもダナンのランドマークとしても人気なのがその名も「カウ・ゾン」ドラゴン・ブリッジ。全長666mのこの橋は2013年に完成しました。黄金色の竜が川の上を飛ぶようなデザインが施され、遠目にも目をひきます。ダナン空港からメインのビーチであるミーケビーチへと向かう際には必ずこの橋を通ることになり、黄金のドラゴンがビーチを訪れる観光客を出迎える趣向となっています。
 この「橋」はデザインが奇をてらっているだけではありません。なんと週末の土日、午後9時には二つの「あるもの」を吹き出すんです!そのためその時間になると、ドラゴンの勇姿を一眼見ようとダナン市内の市民に加えて国内外の観光客が橋の上やたもとに集まります。
 そう、ドラゴンブリッジは世界でも珍しい、「火」と「水」を噴き出す橋なんです。
 この橋はベトナム李朝時代の竜の形を参考にデザインされ、橋の設計そのものは米国Louis Berger社がコンペで選ばれました。ライトアップを担当したのはオランダ・フィリップス社でしたが、施主であるダナン市人民委員会からある難問をつきつけられます。それはドラゴンの口から火と水とを吹き出させ、観光の目玉にしたいというものでした。
 フィリップス社は当初、本物の火と水でなくレーザー光線を吐き出させようとの提案をしましたが、施主の長であるグエン・バー・タイン氏は首を縦にふりませんでした。「本物の火と水を吹き出さなければ観光客も喜ばない」というものでした。
 結局フィリップ社側が折れて、施主の言う通り前代未聞の火と水を噴くドラゴン・ブリッジが出現することになったのです。
 毎週週末の午後9時前になると、橋の上の交通が遮断され、橋の上を多くの市民や観光客が集まります。ドラゴンの口の真下で火と水が噴き出すのを眺めようという人たちです。もちろん迫力は満点ですが、水を噴き出す際には、その水が橋の上の人々の頭上に情け容赦なく降り注ぎ、人々はずぶ濡れになってしまいます。眺めるのであれば、少し離れた場所に陣取ってみるのが正解です。
 当時のダナン市人民委員会主席の狙い通り、ドラゴンブリッジはダナン市観光の目玉スポットになったのです。

バナヒルズの「神の手」に支えられたゴールデンブリッジ

ゴールデン・ブリッジ(バナヒルズ・サンワールド)
ゴールデン・ブリッジ(バナヒルズ・サンワールド)

 ダナン空港から車で40分、バナヒルズ・サンワールドのロープウェイのふもと駅に到着します。標高1,487mにあるバナヒルズへはふもと駅からロープウェイに乗車します。このロープウェイはその運行距離の長さにおいて世界一を誇り、ギネスブックにも公認されています。
 ふもと駅からロープウェイに乗車して20分、頂上駅に到着します。1500m近い高度差があるためダナン市内よりも気温は10−15度も異なるといわれ、夏場でも空気がひんやりと感じられるでしょう。山の頂上には西欧風のお城が立ち並び、まるでお伽噺の世界に迷い込んだような錯覚に陥ります。日本のハウステンボスやディズニーシーのようです。内部は屋内遊園地になっていて絶叫マシンや蝋人形館があり、レストランで食事を楽しむこともできます。
 このバナヒルズはフランスが熱帯植民地に暮らすフランス人のために設けた避暑地の一つでした。開発は今から約100年前の1919年に始まり、最盛期には200もの別荘や建築物が立ち並んだといいます。植民地に入植したフランス人やベトナム人高級官僚が避暑を楽しんだ場所です。
 ベトナム戦争中は米軍の基地となったため、フランス人の建てた別荘は荒れ果ててしまいました。2007年にベトナム資本の不動産デベロッパー、サングループがバナヒルズを譲り受け、今あるサンワールドというアミューズメント施設とロープウェイを完成させました。
 このバナヒルズで人気なのがゴールデンブリッジ。長さ150mの歩道橋で、山肌から突き出した大きな巨人の両手に支えられている橋です。英紙「デイリーメール」の特集では「世界新奇景(the New Wonder of the World)」の一つに数えられています。天気が良ければ雲海や山々,そしてダナンに続く平地をも一望のもとにすることができます。高度1,414mにある橋ですので、雲に覆われていて何も見えなくとも、巨大な両手に支えられた橋の上でセルフィーや写真を友人たちと撮影し、SNSにアップすれば「いいね」がもらえることは請け合いです。
 
持続可能な観光開発の取組み・カトゥー族の村訪問

カトゥー族の人たち
カトゥー族の人たちが村の入口でお出迎え

 ダナン市内から車で1時間半、少数民族・カトゥー族の村があります。カトゥー族はベトナム54民族のうちのひとつ、中部トゥアティエン・フエ省とクアンナム省に多くが住む少数民族です。人口は6万人強にのぼります。
 クアンナム省ナムザン郡のカトゥー族を支援しているのが日本の国際開発救援財団(FIDR)です。同団体は都市と農村の経済格差を是正し、農村の自律的な発展を支援しようと、今から20年前の2001年から生活基盤改善のための地域総合開発プロジェクトを開始しました。2008年からはカトゥー族の優れた伝統織物を用いた「少数民族手工芸支援プロジェクト」を、2012年からは「少数民族カトゥー族地域活性化のための観光開発支援プロジェクト」をはじめたのです。
 FIDRのプロジェクトは、プロジェクト終了後も少数民族の人たちが自立的に運営し発展させることが特徴であり、プロジェクト終了後もカトゥー族の人たち自身でツアーを行い、今では年間600名もの観光客を受け入れるまでになっています。
 ツアー内容は「村祭りコース」と「村探索コース」と二つあります。それぞれ最小催行人員が決まっており、「村祭り」は6名以上、「村探索」は2名以上からの催行となっています。「村祭りコース」では3、4の村をめぐり、伝統的な踊りや料理をはじめカトゥー族の文化を知ることができます。「村探索コース」では一つの村をじっくりと探索、家々を訪ねてはカトゥー族の生活を体験します。
 とかく観光客が訪れることが多くなると、村落の経済が破壊され、村人たちが商売やビジネスに夢中になって、文化そのものも破壊されてしまうことがあります。写真を撮影すればチップを要求されることもあります。それでは少数民族の文化という「観光資源」そのものが破壊されてしまいます。
 このカトゥー族の村訪問ツアーではそうした弊害を生まない、持続可能な少数民族の村観光を可能とする仕組みが作られています。
 コロナ禍にあって観光客が激減に対応し、オンラインツアーなども企画運営されています。詳しくはウェブサイト「ベトナム少数民族カトゥー族コミュニティ・ベースド・ツーリズム」https://cotucbt.jimdofree.com/ を参照ください。

五稜郭ならぬ「四稜郭」に建つダナン博物館

ダナン博物館の屋外に展示された大砲
ダナン博物館の屋外に展示された大砲

 エジプトのピラミッド、日本の巨大古墳、カンボジアのアンコール遺跡。いずれもGoogle Mapsの衛星写真でも確認できる巨大な遺跡群です。ベトナムにも実は衛星写真によって初めてその形を確認できる巨大遺跡が残されています。それがベトナム最後の王朝である19世紀末に興った阮(グエン)朝がベトナム全土に建設したヴォーバン様式稜堡城郭、別名「星形要塞」です。現存するものだけでも20カ所近くあります。この様式で19世紀半ばに建設された日本の城郭では函館の「五稜郭」があります。
 ハノイ近郊ではバクニンやソンタイ、中部ではダナンの他にヴィンやタインホア、南部ではニャチャンにもこの星形要塞があります。特にバクニンやヴィンの城郭は六角形をしていていわば五稜郭ならぬ「六稜郭」です。ホーチミン市にもかつてはこのヴォーバン式稜堡城郭が存在しました。
 この星形要塞は15世紀のヨーロッパで誕生し、17世紀にはフランスのヴォーバンによってその体系が確立したと言われています。火砲が発明されたヨーロッパでは従来の築城法では城塞の壁を容易に打ち壊されるようになり、壁を堅固に作り、攻撃、守備ともに死角を作らないため、稜堡と呼ばれる城から突き出した部分を設けるようになりました。それが発達し星形を形成するようになり、星形をした要塞が欧州各地に作られました。
 フランス人宣教師らの支援を受けて興った阮朝はこの星形要塞の築城術を学び、19世紀前半にベトナム全土にこの星形要塞を設けたのです。
 その一つがダナンにあるディエンハイ城で、現在はダナン博物館になっています。このディエンハイ城は1813年明命(ミンマン)帝時代に建設され、1847年には周囲556m、南と東に城門を有する堅固な城に拡大されます。形状は4つの稜堡を持つ、いわば「四稜郭」です。
 キリスト教の弾圧と宣教師の殺害を理由にフランスとスペイン連合軍はダナンに侵攻し、5ヶ月間にわたってダナンを占領します。ただ連合軍の兵は赤痢やコレラに悩まされたため、ダナンに僅かな兵を残し、今度はサイゴンのザーディン城に攻め込んで、これを占領します。そのダナンでの守りの象徴というべきものが、このディエンハイ城でした。
 現在、この城はその城壁も堀も元あったように修復され、往時の姿を偲ぶことができます。博物館を訪れた際にはぜひこの4つの稜堡を持つ城にもご注目ください。

文=新妻東一

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