建設機械新台販売で上場、将来は産業用ロボット、飛行機の製造が夢/911グループ株式会社
- 2022/11/23
幼児番組「ひらけ!ポンキッキ」で紹介された歌に伊藤アキラ作詞の「はたらくくるま」がある。歌の3番にはフォークリフト、ブルドーザー、ショベルカー、ダンプカーが登場する。男の子は「はたらくくるま」が大好きだ。かくいう私も幼少のみぎりには流線型のスーパーカーより、無骨な「はたらくくるま」をうっとり眺めている男の子だった。
巨大な鉄骨を釣り上げたり、土砂を大量にすくいあげたり、人間の力を大きく上まわるパワーではたらく機械はたくましく、魅力的にうつった。「列島改造」という言葉にあおられて、日本の津々浦々で開発がすすみ、高速道路や高層ビルが次から次へと建設された時代でもあった。
長じて商社に勤めてからは中東向けにクレーン車やショベルカーや救急車などの特装車の輸出を担当した時期もあるので、一般の人よりは「はたらくくるま」には詳しいつもりだ。私が貿易商社に入社した1980年代、「コベルコ」や「コマツ」ブランドの建機の輸出書類を毎日のように作成していた。当時は日本の建設機械が世界に広く輸出されている時代だった。
今回ご紹介するベトナム企業は建設機械の輸入販売を行う「911グループ株式会社」。インタビューに応えてくれたのは社長のリュウ・ディン・トゥアン氏。創業社長でもある。今回もZOOMによるリモート取材だったが、「はたらくくるま好き」の私としてはショベルカーなどの建設機械を前にして取材をしたいところだった。
「社名を911と名付けた理由ですか?お客様に建設機械で困ったことがあったら、いつでも当社に緊急通報してほしい、そういうメッセージを込めているんです。一度聞いたら忘れられない社名でしょう?」
私の最初の質問に得意げにトゥアンはそう答えた。同社のホットラインの電話番号も下6桁が911911なのだ。これはちょっとしたアイディアだろう。
ちなみに911を緊急通報用の電話番号に採用しているのは合衆国やカナダ、南米各国に多い。日本は救急車や消防車への通報は119番だが、ベトナムでは113は警察、114は消防、115は救急となっている。ベトナムで911と電話をしても緊急通報にならないのでお間違いなく。
創業は2011年、今から11年前のことだ。創業社長であるトゥアンが興した企業は現在、建設機械とその部品の販売を主な目的としている。本社はハノイ市ザーラム県にある。
1979年ベトナム中部タインホア省に生まれたトゥアンはハノイ交通運輸大学を卒業後、10年間は中古建機の輸入販売に従事した。
「アイチ、コベルコ、コマツ、日立、日本のブランドの中古建機を買付けに日本には何度も足を運びました。東京はいうにおよばず、北海道や神戸など日本各地に行ったことがあります」というトゥアン。
中古建機の扱いはしかし困難が伴った。新品と違って必要な商品が常に手に入るわけではない。あるときはあるし、ないときはない。
起業当初は中古機械の輸入販売ではなく、建設機械のレンタルサービスを展開した。4、5年してから事業の中心を建設機械の新車販売へとシフトさせた。
2016年、911グループは中国の建機大手のXCMG社(徐工集団)と韓国のクレーン車メーカーであるZ-TONグループ社とそれぞれベトナムでの販売代理店契約を締結している。
中国XCMG社は1943年山東省の国民党軍の兵器廠を前身とし、1989年には徐工集団として国営建設機械メーカーとして活動を開始した。現在は米国キャタピラー社、日本の小松製作所に次ぐ世界第3位の建設機械メーカーである。道路建設機械、ローラー、コンクリートミキサー、ドリル機械などを製造、販売している。
韓国Z-TONグループは高所作業車、クレーン車に強みのある建機メーカーであり、すでにベトナムに工場も進出している。こちらも創業2003年の比較的新しい企業だ。
911グループ社は他に中国のTONLY社、LONKING社、韓国のコンクリートミキサー車に強みのあるKCP社など、いずれもこの1990年代、2000年代に創業した韓国、中国の企業ばかりだ。日本企業の姿はない。
「中国、韓国の建機メーカーはこのところ発展著しく、決して日本のブランドメーカーとも遜色のない力をつけています」とトゥアンはいう。「ロケットや衛星など宇宙分野の開発でも中国の発展ぶりはすばらしいものがありますね」とまで付け加えた。
日本ではこの30年、バブル経済がはじけて後、目立ったイノベーションもなければ、企業活動も消極的だった。建設機械の分野ではむしろ中国、韓国の追い上げはこの20、30年は私の想像を越えるいちじるしいものだった。
電子、電気の分野でも日本の企業の影が薄くなっているが、事態は建設機械分野でも同様だったのだ。
911グループ社のウェブサイトで紹介される企業や商品をみて時代の様変わりを感じざるを得なかった。
同社は新車の販売以外に修理保守サービス、部品供給というディーラーとしてのサービスのほか、建機のレンタル、旧車を新たによみがえらせるサービスも提供している。
2022年にはホーチミン市株式市場に上場することに成功した。売上も2022年は7千万米ドルを超えると予想しているそうだ。まさに右肩上がりの発展ぶりだ。
今年度にはホーチミン市証券取引所に新規公開株(IPO)として上場をはたし、その勢いはとどまることをしらない。
「元々技術者の自分はやはり建機の売買だけでなく、産業用ロボットや飛行機の製造へと事業を展開するつもりです。そのための人材はいる。あとは世界の中から適当なパートナーを見つけて、ベトナムに製造工場を立ち上げるのが夢なんです」
トゥアンはまるで「はたらくくるま」に目を輝かせる少年のような目つきで将来の夢を語ってくれた。
1979年生まれ、一男一女の父親でもあるトゥアン。創業社長にして今も次の時代への布石を打とうと会社の未来を展望する姿にうらやましささえ覚えた。
911グループ株式会社
911 GROUP JOINT STOCK COMPANY
プロフィール
2011年ハノイ市に創業。社長はリュウ・ディン・トゥアン。従業員数50人。主に建設機械の新台販売、修理保守、レンタルをサービスとしている。2022年の売上は7000万米ドルを超える。
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