日本向けオフショア開発で起業、成長をつづけるIT企業/ZENSテクノロジー

 ベトナムにFPTという会社がある。情報技術、通信、教育などを手がけるベトナムトップのICT企業だ。1988年にチュオン・ザー・ビン氏が設立した。当初はある研究所にコンピュータを納品するための企業だったという。社名はFood Processing Technology Company、略称FPT。なぜICT企業だったのに「食品加工技術会社」などという名称をつけたのか?当時はベトナム共産党第6回党大会でドイモイ(刷新)政策が承認され、ソ連型の計画経済から社会主義的市場経済へベトナムが舵をきった年から、まだ2年しか経っていなかった。当時もっとも許認可が取得しやすい企業とは「食品加工会社」だったから、というのがその理由だそうだ。日本の化粧品、サプリメント製造販売会社、DHCが「大学翻訳センター」という社名の略称からきている、という話を想い起こさせる。

 同社は2022年、売上44兆ドン(2,670億円)、従業員数は4万人弱、20社以上の子会社を有する一大グループ企業だ。FPT大学という教育機関も運営し、人材育成にも力を入れている。Play to Earn、ゲームをプレイすることで、暗号通貨を稼ぐことができる、Axie Infinityというゲームを開発し、世界的にも有名になったグエン・チュン氏もFPT大学の出身者だ。

 私もベトナムのICT企業を何社か取材したことがあるが、FPT大学やFPTに入社し、その後、独立して社長や技術責任者となっている人たちが一定数いることに気がついた。

 今回ご紹介するZENSテクノロジー社のマネージング・ダイレクター、ダン・クオック・ダットもFPT出身者だ。FPT社はいまやベトナムのICT企業の起業家たちのインキュベーターといっても過言ではない。それほど、FPT社はベトナムにおけるICT産業の発展、特に有能な人材の排出に寄与しているといってもいいだろう。

 ZENSテクノロジー社は、2021年創業のまだ新しい会社だ。従業員数は40名、主にアウトソーシング、オフショア開発を受けている。主な客先は日本で、続いてベトナム、マレーシア、そしてスウェーデンだという。

 得意はスマートフォーン向けのアプリ開発およびウェブ開発、そしてベトナムのある企業とはブロックチェーンを利用したアプリケーションの開発も手がけているという。

 同社の得意とするのは、やはりアプリ開発であり、Android、iOSのいずれにも対応している。開発言語はGoogle社のFlatter、Apple社のSwift、Javaなどであり、スマートフォン向けアプリ開発に特化している。もちろんAndroid、iOSそれぞれのネイティブ言語にも当然習熟した開発者を備えているのは当然のことだ。

 ウェブ開発では、Eコマースサイト、Eラーニングなどに力を入れている。PHP、Java、C#などの開発言語に対応している。EコマースではMgento、EC-CUBE、Shopifyに対応している。

 同社の得意分野は、ダットによれば全地球測位システム(GPS)を利用したトラッキングサービスだという。携帯電話番号からその位置情報を特定してマップ上に表示する形のトラッキングサービスだ。このサービスには色々な応用が可能だ。

 たとえば家族、友人の所在地を特定するといった使い方は初歩的な使用方法だが、ほかにも自らがいる場所から近くにある教会がどこか、その教会のミサや催しものがいつ行われるかなどの表示をするキリスト教会向けのアプリも手がけた。また、ベトナム国防省と協力して自宅でコロナ検査キットを受領し、検体を採取、それを再び最寄りの検査機関に送付し、その結果を知ることができる、自宅でのコロナ検査システムも開発したという。

 またUberやGrabなどだと、たとえばある店の商品を購入することしかできないが、ZENS社の開発したデリバリーアプリは、複数のお店の商品を一括して購入、デリバリー担当者が指定の場所まで届けてくれるサービスも開発した。これなどもGPSを利用し、複数の店を最短距離で移動し、発注者の指定する場所に配達するという地図サービスを応用したものだ。客先の要望に応えてニッチなサービスを提供できるアプリを開発しているという点でとてもユニークな会社であることが、これでわかるだろう。

 また同社はスマートフォン用アプリのみならず、ウェブ上のサービス開発も行なっており、日本のスタートアップ起業家向けに特化したマッチングサービスも行えるウェブサイトの開発も行なっている。

 同社には日本語・ベトナム語のできるブリッジSEが3名おり、専門の日本語ベトナム語通訳も2名常駐している。同社のマネージング・ダイレクターであるダット自身も2019年から2021年まで3年間、日本の千葉県市川市にある日本の会社で働いた実績もある。このインタビューは原則ベトナム語で行なっているが、時々「キホンセッケイ(基本設計)」「ジョウケンテイギ(条件定義)」などといった日本語が混じる。話す方は流暢ではないものの、日本語は聞き取って理解できるとのことだ。

 この日本滞在の3年間で、日本人の働き方、働くスタイルはとてもちゃんと、しっかりしていると感じたという。プロダクトに対して向かう態度や条件定義をまずきちんと行うなどを日本で学ぶことができた、とダットは語る。

 ただ、2019年の1年間は毎日会社に通う仕事だったが、コロナ感染が拡大した2020年以降の2年間は、自宅にいてリモートで働き、月1、2回は会社に出社するようなスタイルだったという。もちろんネットさえ繋がっていれば、ソフトウェア開発、システム開発は自宅でリモートワークも可能な業種ではあるものの、せっかく日本に働きにできたのに、2年間も自宅にこもりっきりで仕事をしなければならなかったのは、本当に残念だったろう。遊びにでかけることもできなかったようだ。

 今後、日本の企業との関係を強化したいとの同社の願いだが、具体的には、プロダクトベースでのオフショア開発を日本の企業から引き受けたいという。そしてその延長には、日本企業からの投資を受け、同社の株式を購入してもらい、経営にも参画してほしいというのがZen S社の望むところだそうだ。まだ若い会社で、技術には自身があるものの、こと会社の経営、マネジメントとなると、経験が未熟であり、日本企業の長年の経営、営業のノウハウを学びたいというのが本音にある。

 同社マネージング・ダイレクターのダットはベトナム中部ハティン省の海辺の街の出身。中部の田舎街からホーチミン市の国家大学に進学、そのままホーチミン市にある外資企業とFPTに勤め、その後日本で3年間、ソフトウェア開発に携わった。その経験を活かして、彼はZENSテクノロジー社に入社し、マネージング・ダイレクターという役目を担わされている。妻との間に6ヶ月の赤ん坊がいる。年齢はまだ30歳。彼とZENSテクノロジー社の5年、10年後の未来が楽しみだ。

新妻東一

ZENS TECHNOLOGY JOINT STOCK COMPANY
ZENSテクノロジー株式会社

プロフィール

2021年、ホーチミン市ゴーバップに創業。社長はホアン・カック・ホン。ウェブサービス、システム開発、モバイル開発(Android・iOS)、AI&ブロックチェーン、クラウド(構築・移行・開発)​​を行う。日本の企業からオフショア開発依頼を歓迎するとともに、資本提携、経営の参加も期待している。

 

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