日本式経営でセラミック加工に強み/ニュアンティエン精密機器製造有限責任会社
- 2025/07/17
- ベトナム企業インタビュー

ベトナム党・政府は民間企業を重要な原動力に
ベトナムでは、昨年逝去したグエン・フー・チョン書記長が推進した党と政府の汚職撲滅と綱紀粛正が一段落し、続いてチョン書記長の後を継いだトー・ラム書記長は行政改革を次々と打ち出している。省庁と行政区画の統廃合はその大きなものだ。
同時にその改革の一つとして、共産党政治局が発表した決議第68号、民間企業の奨励策が注目されている。
ベトナムはベトナム建国100周年までに先進国入りをめざしているが、その発展の原動力のひとつとして民間企業に期待している。
1986年のドイモイ政策を打ち出し、ソ連型計画経済から社会主義的市場経済へと転換したベトナム。GDPの50%、国家予算の30%を民間企業がになっているが、さらなる発展のためには民間企業を重要な原動力とし、国際競争力を高めることが必要だと述べている。
具体的な施策としては、法制度の改善、中小企業支援、研究開発費の減税、スタートアップ企業への税優遇、起業家育成などだ。
日本は自動車産業、電子・電気産業を産業の柱にして、その経済を拡大してきたが、ベトナムはそれをデジタル化、情報技術、グリーン経済を柱として経済成長することを定め、法整備や促進策を次々と打ち出している。
外資系の製造企業を誘致しても、裾野産業が育たない。自国のブランドとなりうる世界的な企業も生まれていない。先進国となるためには産業の柱をうちたて、それをとりまくように自国内でのサプライチェーンをどう構築するか?輸入部品に頼ってばかりでは、いずれ中進国の罠にはまり、それ以上の経済の拡大も見込めない、そういう危機感を感じているように見受ける。
日本と日系企業に学び、セラミック部品加工が得意

今回ご紹介するニュアンティエン精密機器製造有限責任会社は、金属加工業でベトナムで起業し、着実に新しい製品を世にもたらし、外資系製造企業へも部品供給のできる工場のひとつとして成長してきた民間企業の一つだ。
インタビューに応じてくれたのは同社の営業部長であるヴォー・フン・ヴァン。
彼自身は技術師範大学を卒業後、経済・財政学を学び、その後夜間の人文社会科学大学の日本語コースとさくら日本語学校で日本語も学んだという。
「日本語はそれほどうまくありません」と謙遜するが、仕事でも十分使える日本語だ。
「26年間にわたって私は日系企業に勤めてきました。営業から仕入、製造部長や工場まで、日本の企業で働き、あらゆる部署の仕事を学んできました。日本人の友だちもたくさんいますよ」そう語るヴァン。
ニュアンティエン社の創業は2011年。創業者のグエン・ゴック・ニュアンが起した企業だ。工場はホーチミン市の南、自動車で30〜40分の距離にあるヒエップフック工業団地にある。
ヒェップフック工業団地は20年以上の歴史ある、ホーチミン市内最大級の工業団地だ。ベトナムの大手企業をはじめ、韓国、日本などの外資系企業も多数進出している工業団地である。
ニュアンは1982年生まれ。ホーチミン市工科大学を卒業後、日本に渡り、トヨタ自動車向けに金型を製造する企業で5年間働いたそうだ。
しかし2011年に東日本大震災に遭う。彼はベトナムに帰国することになり、その際に日本のエムケーセラ社から資本と技術の支援を受けながら、起業した。
同社の主要な商品サービスは、機械部品、自動車部品、セラミック部品、半導体部品の製造、生産工程で使用される完成部品の設計・加工・組立、自動機械の製造、CNC装置用工具の製造だとのこと。
特にセラミック部品・加工は得意分野だとヴァンは強調した。
セラミックスは、金属やプラスチック素材に比べて、熱に強く、硬く頑丈、電気を通さない、磁気の影響を受けない、軽量化が可能などの特徴があるが、脆い、加工しにくい、急激な温度変化に弱いといったデメリットがある。
そうした技術的な困難さを乗り越えて、セラミック部品の加工はなりたっている。セラミック部品の加工が得意だということから同社の技術レベルの高さが伺える。
ほかにも自動車用の金属部品なども多数供給している。自動車の部品ひとつ一つは運転者とその同乗者の生命にも関わるものであり、自動車メーカーは部品の仕入の際に、その信頼性を深く吟味している。自動車部品を供給できる企業はそれだけで勲章ものだといっても過言ではないだろう。
同社のもう一つの特徴は、CNCフライス盤で使用される機器、ツールの開発、製造も行っていることだ。
プラスチック、アルミ、鉄鋼などの表面加工にそれぞれ特化した切削工具に、精密クランプなどの治具、ゼロ設定ゲージ等、CNCフライス盤に必要な機具、工具の供給も行っている。
設立当初はたった2台のCNCフライス機から出発したが、現在は全部で15台のフライス機を所有し、加工にあたっている。
日系企業向け70%、日本式経営でベトナムへの投資拡大に期待

従業員数は36名、資本金22億ベトナムドン(87,000米ドル)、月の売上は10万米ドルだとのことだ。2019年には60名もの従業員があったが、コロナ禍にあって工場労働者が減っているのが悩ましいとのことだ。
ベトナム国内の日系企業向けが全体の70%を占めている。ほかに米国向けに30%を輸出しているが、トランプの相互関税政策により、将来どうなるかが見通せていない。
しかし中国企業が直接米国に輸出できないことから、各国が中国からベトナムへシフトし、投資を強め、ベトナムで生産するようになれば、同社の販売先も増えるとの期待もある。
ニュアンティエン社は、日系企業の指導、協力のもとに、日本で働いた経験のあるベトナム人の企業だけあって、日系企業とかわらないマネジメントを行っているとヴァンは胸をはった。
毎朝の朝礼は欠かさず、ホウレンソウ(報告、連絡、相談)、5Sの徹底は夕に及ばず、「品質管理がもっとも重要で、なおかつ、お客様からの不良品に関する連絡に対しては即時対応しています。ほとんどのベトナム企業は不良品の連絡があっても知らんふりしたりしますから。それはいけません」と苦笑するヴァン。
日本の協力企業からは、その日本人会長が退職したら、ベトナムに移り住み、営業部長として働くことが決まっているそうだ。ヴァンと二人でベトナム全国をめぐり、営業にあいつとめるのだという。なんと微笑ましいことか。
ベトナムの産業を裾野から支える中小企業。日本のパートナーを得て、さらに大きく発展するであろうことを期待したい。
文=新妻東一

ニュアンティエン精密機器製造有限責任会社
Nhuan Tien MPE Co., Ltd.
プロフィール
2011年、ホーチミン市ニャーベーのヒェップフック工業団地に創立。社長は創業者のグエン・ゴック・ニュアン。CNCフライス盤を15台備え、精密機械加工、セラミック加工、切削治具の供給などを行っている。日本・長野のエムケーセラ社の協力工場であり、技術的な指導や経営協力を受けている。日系企業向けが70%。