環境にやさしい木工製品でベトナム国内外の市場に挑戦するスタートアップ企業/Kabi Decor社

 例年よりも今年は全地球的に自然災害、特に大雨による洪水、地滑り、鉄砲水が猛威をふるっている。これらが化石燃料を燃焼させることで発生する二酸化炭素などの温室効果ガスによる気候変動によるものだとすれば、石油・石炭などの化石燃料から作られた製品やエネルギーとして使用することも控えたいと消費者が考えるのは当然だろう。
 化石燃料から作り出されるプラスチック製品は、使用後にも半永久的に分解することなく、地球上にゴミとして海洋や地中に存在し、焼却処分すれば、大気中に二酸化炭素という温室効果ガスを発生させ、地球温暖化をもたらすやっかいものだ。
 ひるがえって、地球上に植物として大気中の二酸化炭素を取り込み、光合成によって自らの身体とエネルギーとを作り出している樹木を伐採して、エネルギーや日用品、家屋を作るのは、二酸化炭素=カーボンはもともと大気中にあったものを取り込んだもので、ニュートラル(差し引きゼロ)であるとして、木工製品はエコロジカル的によしとされている。
 かつて木工製品がプラスチック製品に置き換わってきた歴史を、逆にさかのぼるかのように、プラスチック製品が好まれず、木工製品が使用されるようになった。
 ホテルの石鹸や歯ブラシなどのアメニティを置くトレイやお盆なども木工製品が多く使われていることに気がつくだろう。アメニティそのものも、プラスチックから木工製品や生分解プラスチックなどが用いられるようになっている。
 環境にやさしい製品が市場で好まれるようになった現在、木工製品を製造する企業や工場も新しく生まれている。そのひとつが、今回ご紹介するKabi Decor社だ。
 同社のセールス・ダイレクター、ゴック・アイン氏らが2015年、若干26歳にして立ち上げたスタートアップ企業だ。正式社名はANH TU INTERNATIONAL TRADE AND TECHNOLOGY JOINT STOCK COMPANY。そしてKabi DecorとKabi Homeという二つのブランドで市場に挑戦をしている。Kabi Decorはトレイや飲食店のメニューなどの比較的小さな木工製品を、Kabi Homeでは主にホテルやレストラン、住宅などの木工内装を手がけている。
  現在35歳とまだ若いダイレクターのゴック・アインに同社について伺った。彼の工場はハノイ市ソンタイにあるが、今回もこのベトナム企業インタビュー恒例のリモート取材であることをお断りしておく。

 「わたしたちの工場はハノイ市郊外、ソンタイにあって、工場の広さは1000平米程度の小さな工場なんですよ」と謙遜するようにゴック・アインは語りはじめた。
 主な顧客は、ベトナム国内のレストラン、カフェ、ホテルチェーンなどで、輸出も行なっている。製品は木製トレー、ショップ看板、木製玩具、木製日用品などだ。なかでもベトナムで40のショップブランド、ベトナム全土500店舗を展開するレストラン・チェーン「ゴールデン・ゲート・グループ」は大口の顧客とのことだ。
 ホテル向けは主にアメニティをのせる木製トレーとのこと。4、5星ホテルはなるべくプラスチック製品を用いず、木工製品を好むようになっている。使い捨てをするアメニティそのものも、プラスチックから木材、生分解プラスチックを利用するなどエコロジカルな製品がホテルのユーザーからは求められている。そのアメニティを置くトレーも木材を使用し、高級感とエコロジカルであることをホテル側は顧客にアピールできる。
 欧米や日本では、消費者自身が環境に配慮した製品を好むようになっているので、木製や竹製の日用品が好まれるようになっている。ベトナムにもその流れがおきており、有名レストランチェーンやホテルチェーンは、そうした顧客のトレンドにも配慮されるようになっているようだ。

 同社は2015年にハノイで創業した。創業当時は主に木工製品の仕入れ販売のみだったそうだが、売れ行きが好調だったため、木工製品製造の技術のわかる人材を雇いいれ、工場への投資も行い、2017年から木工製品の製造・販売企業として現在に至っているそうだ。
 ゴック・アイン自身は学生時代に通信工学を学んだそうだが、卒業後、自分は技術者よりは経営や営業に適性があると気がついて、会社経営と営業販売の道へ進んだ。
 「木工の製品製造技術にはまったく疎いんですけどね」といって苦笑する。しかし、50歳の手前でサラリーマンを辞めて起業したわたしなどは、26歳にして独立、起業したゴック・アインの決断をうらやましく、また、まぶしく思う。
 「日本はすでに発展している国。何もないところから出発しているベトナムと比べてビジネスチャンスは少ない。ひるがえってベトナムはビジネスの種はたくさんころがっているので、若いひとが起業しやすいのでは」そう語るゴック・アイン。
 
 ただ、日本のように100年も続く企業と異なり、経験も技術もないところからはじめた事業で、スタートアップ企業は多くの失敗をし、時間もお金もたくさん失うことも多いのです、そう言って、ゴック・アインは謙虚な姿勢を変えない。いや、若い企業ゆえに失敗もあるだろう、でもその失敗の積み重ねこそが、企業もひとも強くするんですよ、とわたしは心の中でひとりごちた。

 直近の年間売上は250億ベトナムドン、日本円にして15億円にもなる。それでもゴック・アインは自分たちが想定している目標からはまだまだ小さい金額だという。
 内訳は輸出は40%程度、ただし、直接輸出は行なっていないという。なぜなら輸出市場における文化を自分たちは知らないし、マーケティングも十分行えるわけでもない、ブランド力のない市場に臨んでも買い叩かれるだけ、そう判断し、国内で輸出向けに企画、製造を行なっている企業に商品を納める形にしているそうだ。誠に賢明だ。
 大量の注文を低価格で受ける、中国やインドの木工製造企業と競争しても勝ち目はない。大量、低価格商品ではなく、自分たちは日本の木工製造企業のように中小であっても高品質でリーズナブルな価格帯で勝負する企業もある、自分たちの製品は中高級製品という位置付けで世界に売り出したい、そう意気込むゴック・アイン。

 そして日本の市場にもぜひ挑戦したいという。日本には文化があり、品質要求もたいへん高いし、輸入品に対する基準も高いものが求められる。だから、日本側のパートナーとしては小企業であっても、品質の高い商品を少量扱うような企業との提携を望んでいるとのことだ。
 中国政府は中小企業にまで、支援の手をのべているが、ベトナム政府はまだ大企業支援に留まっていて、支援の手は中小企業にまで及んでいない。小企業には経験も金融的にも限界がある。
 また、原材料ひとつとっても、南部ベトナムの企業はゴムの木やアカシヤなどの原材料も豊富だが、北部ベトナムでは木工製品の原料は輸入に頼らざるを得ない。その点でも北部ベトナムで木工製品を製造する上でのデメリットもある。しかし技術的、品質的には劣るものではない、むしろ彼らの上をいっているとの自負もある。
 これからの夢は、こうしたベトナムの工芸品をブランド力をつけて、世界に売り出したいとのことだ。一般に、ベトナムにおけるレストラン、カフェ、旅行業など、景気が落ち込んでいる。支払方法などもデジタル化を進めるなど、リスクも軽減しつつ、小さな企業であっても確実な発展を目指しているとゴック・アイン。
 最後に、生涯のパートナーはすでにいるのか?と尋ねると、「いや、企業と結婚してしまい、恋愛の方はまだ成就するにいたっていません」と照れくさそうな回答が帰ってきた。
 「ベトナムも日本と同様、晩婚化が進んでいまして」とゴック・アインは笑った。日本人のような仕事人間にならないようにね、そうアドバイスをして、インタビューを終えた。

セールス・ダイレクター ゴック・アイン

Kabi Decor
ANH TU INTERNATIONAL TRADE AND TECHNOLOGY JOINT STOCK COMPANY
アイントゥー国際商事技術有限会社

プロフィール

ゴック・アイン、レー・アイン・ビエット・トゥーが、2015年に起業。主な製品は木工製品、木製玩具、日用品。主に国内のレストラン、カフェ、ホテルなどに製品を納める。一部は輸出されている。日本への輸出のためにパートナーを探している。

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