「好きを仕事に」困難は幼少時、自然の中で培った直感力で乗り越える!

More Production Vietnam/勝恵美インタビュー

 「◯◯さん、一時帰国した日本でマムシに噛まれたらしい、それも自宅の目の前の山道で!」ハノイの在留邦人の間でひとしきり話題になった人物がいる。いまどきマムシに噛まれるというのも珍しいが、彼女の実家がどれだけ田舎なのかともささやかれた。

 今回お話を伺うのは、そのマムシに噛まれたご当人、More Production Vietnam日本人代表の勝恵美だ。彼女は日本の絵本の読み聞かせ活動をしていたことから、2017年天皇皇后両陛下のベトナムご訪問の際に絵本に関心の高い美智子妃殿下と面会、それをきっかけに民間企業からの支援も受けて「MOGU絵本プロジェクト」を開始、日本文化の普及に貢献したことから2019年には外務大臣表彰を受けた。勝はハノイに暮らす在留邦人のいわばアイコン的存在だ。

 彼女は共同代表であるレ・ティ・トゥ・ヒエンと共にMore Production Vietnamを2013年に設立、主に雑誌の取材コーディネートやベトナム航空の日本語機内誌「ヘリテイジジャパン」や「日本」を紹介するベトナム語フリーペーパー「AJジャパン」を発行し、広告代理店事業も展開する。

 生まれは岐阜県瑞浪市。祖父母が林業に携わっていたので、山の奥に彼女の家があった。まだ子供の頃、家の前の林道はアスファルト舗装されていないジャリ道で、彼女の家は林道の一番はずれの家だった。小学校へは片道1時間の山道を歩いて通った。

 「夏休みはプール代わりに近くの川で泳いだり、弟と一緒にカブトムシやクワガタを捕まえたり、祖父母手製のお手玉や竹馬で遊んだりと、おそらく私より一世代上の人がおくった子ども時代のようでしたね」

 勉強は楽しかったという勝。小学校では学級委員を、中学では学習委員をつとめた。「最近知ったのですが、中学校で『合唱会』を発案してはじめたのは自分だったということ、今もその合唱会が続いているらしいんです、当人は全く忘れていますが」と笑う。「新しいことを考えて、みんなでやろうともちかけたりするの、今も変わってないです」

 「女の子が大学にいってどうするんだ」という考えがまだ強かった当時、勝は商業高校に入学、卒業後は就職することが期待されていた。彼女はしかし、自らの向学心と世界を知りたいという気持ちに応えてくれる先生との機会に恵まれた。高校三年生のとき、職業高校の学生をタイ、シンガポール、マレーシア、インドネシアの東南アジア4カ国を10日間で訪問させる県のプログラムがあった。担任の先生は勝に参加を勧めた。勝の目は世界に開かれた。

 東京の大学に進学するという道、それも昼間は働きながら夜間に勉強もできるという道があることも知った。勝は自己推薦という形で早稲田大学社会科学部に合格する。「私にとって大学合格は小さな成功体験でしたね。努力したら報われるんだ、という根拠のない自信も生まれました」

 大学時代、旅サークルに加わった。自然観察をしながら山登りをするといった、一風かわったサークルだった。グループでの国内旅行のほか、海外に一人旅をする人たちも多くいた。20歳の勝はアラスカの大自然や動物の写真で知られる写真家・星野道夫に憧れ、カメラ片手に真冬のアラスカにオーロラを観る旅に旅立った。その旅を皮切りにヨーロッパや東南アジアを訪れた。

 卒業後、「写真」を仕事にしたかった彼女は雑誌社への入社を希望したが果たせず、広告制作会社に入社する。就職後も旅を続けた。たまたま、まだ訪れたことのない近場の国を選んだ。それがベトナムだった。

 2000年、勝ははじめて訪れた「ベトナム」で手ひどい洗礼を受ける。「もう最悪の旅でした。国際空港は掘立て小屋のようだし、予約していたのとは違う宿に案内されるは、両替すれば騙され、カメラは盗まれ、おまけに病気になってしまって。他の国とレベルが違いすぎました」

 その最悪の旅先ベトナムに彼女は魅せられてしまう。「ベトナムに負けた、ベトナム人のパワーに負けたと思ったんです。騙されはしましたけど、同時に窮地にあって助けてくれたのもベトナム人でした。なんて人間臭い、人間らしい国なんだろうと思いましたね」と勝。

 2年我慢したが、「好きを仕事に」したかった勝は広告制作会社を退職、写真専門学校に入学した。そして写真の作品づくりのために手強いはずのベトナムへ旅立ったのが2002年。「半年の滞在のつもりでしたが、それから今までずっとベトナムに住むことになるとは思ってもいませんでした」勝自身さえ予想していなかった長旅となった。

More Production Vietnam共同代表のレ・ティ・トゥ・ヒエンと勝恵美

 ハノイでミニホテル暮らしだった勝をルームメイトに誘ったのが、現在ビジネスでパートナーシップを組んでいるヒエンだった。「ある日越の交流会で出会いました。彼女は日本語を勉強したいし、私はベトナム語の勉強がしたかった。一緒に住めば言葉も教えあえるというメリットがありました」

 持参金が底をつきかけたところへ旅行会社にアルバイト先をみつけ、その後、その旅行会社が経営する日本語フリーペーパーの会社に編集者として入社した。ここで勝は自分の好きな写真の仕事もするようになる。彼女はチャンスの前髪をつかんだ。

 2013年、フリーペーパーを発行する会社の経営方針が変更になり、仕事を辞めざるを得なかったとき、勝はヒエンとともに起業の道を選び、More Production Vietnamを設立した。「好きを仕事にしつづけるためには起業するのが一番だと思ったからです」

 ヒエンとともに日本を訪れた際、日本の「絵本」に出会い感動したヒエン。彼女は日本の絵本をベトナム語に翻訳して出版したいといいだした。日本でいう「絵本」にあたるジャンルの子ども向けの本がベトナムにはまだ少ない。作家も限られていた。パートナー、ヒエンの夢をかなえたいと勝は日本の出版社に飛び込みでかけあい、出版を開始する。普及が目的なので一冊25,000ドン(約125円)と低価格にした。

ベトナム語に翻訳・出版された日本の絵本

 美智子妃殿下との面会を期に注目を集め、企業からの支援も受けられるようになった。彼女には幸運の女神がついているのかと思うほどだが、「自分のできること、持っているツールを使って、今自分のやりたいこと、やるべきことをこなしていくうちに、その点と点がいつしか線になっているんです」と勝は思い返す。

 「ある絵本作家の方に『あなたには直感力があるわよね、自然の中で育った子どもたちが身につけていることが多い』といわれたんです。そういえば困ったときに相談相手を直感で選ぶとそれが正解だったりする」という勝。今もマムシの出るような山の中で自然を相手に遊んだ幼少期、それが今の勝をはぐくんだのだろうか。

 「英国では『ブックスタート』という、子どもを産んだばかりのお母さんに絵本を贈るプログラムがあるんです。そのプログラムを絵本の普及のためにベトナムで取り組むつもりです」さらにその直感を力に新しい挑戦に意欲をみせる勝だった。

文=新妻東一

More Production Vietnam/勝恵美(かつめぐみ)

勝恵美(かつめぐみ)
More Production/日本人代表

プロフィール
1976年岐阜県瑞浪市生まれ。1999年早稲田大学社会科学部卒。卒業後、広告制作会社に勤める。2002年渡越し、日本語フリーペーパー「ベトナムスケッチ」に勤務、ハノイ編集部責任者となる。2013年、More Production Vietnamをベトナム人パートナーと共同設立。2014年「サクラコレクション・ベトナム」主催。2017年、美智子妃殿下と面会、「MOGU絵本プロジェクト」始動。2018年、美智子皇后著「橋をかける」ベトナム語版出版、「読書の話を広げる会」創設、2019年、外務大臣表彰を受ける。
個人ウェブサイト:http://katsumegumi.com/
More Production Vietnam:http://morevietnam.com/
橋をかける基金:https://baccau.org.vn

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下記よりお問い合わせください。


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