少数民族に遭い、特産サーモンを味わい、最高峰ファンシパンに登る旅「サパ」

 私がサパをはじめて訪れたのは1998年、今から四半世紀前。当時、サパの観光開発ははじまったばかりでした。ハノイから寝台列車で10時間でラオカイに行き、駅から旧ソ連製の頑丈そうな四輪駆動車に乗ってサパまでの山道をのぼりました。
 サパの街にはホテルもまだそうたくさんは建っておらず、観光客といえば欧米の外国人ぐらいでした。ベトナム人が観光に訪れるような場所でもありませんでした。ホテルに到着すると冷房装置はなく、スチームの暖房設備だけでした。なにしろ標高1500mの土地です。夏なお涼しく、紅河デルタの暑熱からの避暑にはうってつけの場所でした。冬には雪が降り、樹氷ができることさえあります。
 ハノイから中国との国境の街、ラオカイまでは2014年に高速道路が開通しました。時速120 kmで走行が可能です。ハノイ中心部からラオカイまでは4時間半、ラオカイからサパまで山道をのぼって1時間、ハノイからサパは約5時間30分で到着します。
 サパ開発の歴史はいまから110年近く前の1909年にはじめてフランスがつくった地図にその名前が掲載されました。1920年にはハノイからラオカイまでの鉄道が開通し、その前後にサパに別荘が建てられ、ベトナム北部の避暑地の一つとして発展しました。長く続いた戦争の時期にサパは荒廃しましたが、1990年代から再び開発がはじまります。
 サパは大都市からのアクセスも改善し、現地の観光開発もすすみ、ベトナム人観光客も多く訪れる様になりました。サパは今や「秘境」というよりは「山のリゾート地」というべきでしょう。今回はその「山のリゾート地」サパを誌上にてご紹介します。

人口の85%はモン族、ザオ族などの「少数民族」、サパはマイノリティがメジャー

 ベトナムという国は全部で54からなる「民族」で構成されています。ベトナム全国では主に平地に居住するベト族(キン族)が85%を占めています。山岳地帯となると事情は異なります。むしろ少数民族、マイノリティが大勢を占めています。
 サパ観光の魅力はこうしたマイノリティたちの風俗、習慣に触れることができることでしょう。
 サパ市内の教会前広場にはモン族やザオ族の人々がお土産を並べて売っている姿がみられます。少し足を伸ばせばカットカット観光村があります。ここは観光用の少数民族村として、住民であるモン族の人たちは伝統衣装を着用してお土産を売っていたり、観光客が民族衣装をきてスマホ撮影ができる場所や滝などをめぐり散策できます。。
 女性たちが赤い頭巾をかぶっていることで特徴的な赤ザオ族の村を訪ねたいのなら、少し足を伸ばしてタフィン村を訪れることをお勧めします。カットカット観光村ほど村は整備されていません。村の入口で赤ザオ族の女性たちに囲まれ、お土産を買ってくれとせがまれるのはご愛嬌ですが、のどかな村の様子を眺めながら、散策するのも一興でしょう。
 赤ザオ族の人たちはホスピタリティにあふれているので、ホームステイができる宿も村の中に多くあります。彼らは薬草のはいったお湯につかる習慣もあり、薬草風呂を提供する宿もあります。一泊すれば赤ザオ族の人たちの家庭料理を楽しむこともできます。料金もリーズナブルなので、時間が許すのであればぜひタフィン村を訪ねましょう。
 少数民族の人たちを多く目にすることができるのは市場です。特に毎週日曜日に催されるバックハーのサンデーマーケットには売り手も買い手も主に花モン族の女性たちが集い、活気にあふれます。彼女たちの民族衣装のあでやかさには目をみはります。
 バックハーまではサパから車で2時間半ほどかかります。日曜日早めにサパを出発してバックハーに向かいます。日曜日だけでなく、他の地域では火曜日や木曜日に開催される市場もありますので、サパ観光の旅程を計画する際には曜日に注意しましょう。

函館トラピスチヌ修道院の修道女たちが第二次世界大戦中に暮らした修道院の廃墟

 赤ザオ族の村、タフィン村を訪れる際にぜひ立ち寄っていただきたいのがタフィン修道院跡です。ここは80年前に建てられた女子修道院の廃墟。欧風のレンガ造りの壁が所々のこっています。ファッション雑誌のロケ地となり、若い女の子たちがスマホ自撮りに興じている姿を見ることができます。
 ベトナムのこんな山奥にある修道院ですが、実は日本と因縁がある修道院なのです。
 ラオカイ商業観光局発行のラオカイ観光ガイドブック(2004年・英語版)によれば、1941年改革シトー会派12名の外国人修道女は日本からの立退きを命ぜられ、そのうち9名は引き続きアジアでの宣教を希望しました。
 1942年2月、在日フランス大使はフランス領インドシナ西北部(現ラオカイ省を含む)担当の司教に手紙を送り、彼らが現地での宗教活動を行えるよう依頼しました。トンキン総督府はタフィン果樹研究所に隣接した土地を年600ドンで貸し出しました。1942年6月に修道女はラオカイにやってきて生活をはじめましたが、持ち物といえば着ている衣服と200円だけだったといいます。ラオカイのフランス省長は彼女らに家畜や農具を彼らにあたえ、サパの畜産業の振興と牛乳やバター、チーズを観光客向けに提供するようにしました。修道女たちはソバ、大麦、果物各種、ジャガイモ、野菜各種およびブドウなどの食料用の苗の研究、技術の普及にも積極的に参加しました。リンゴやピーチなど各種果物のジャムを製造し、サパやハノイからも注文があったそうです。
 1942年10月には修道院の建設が開始されました。当初は100名が収容可能な設計でしたが、一部が完成しただけでした。1947年には治安状況が思わしくなくなり、修道女は解散してハノイに戻り、修道院そのものは火災にあい荒れ果ててしまいました。
 「函館市史」によれば、昭和17(1942)年トラピスチヌ修道院のフランス人、スイス人、ドイツ人からなる修道尼12名が住んでいましたが、戦時下にあって函館要塞に近いこともあり外国人の居住が許されず、「仏印海防」(現ベトナム・ハイフォン)方面に新修道院を設けて転出させた、その内3名は高齢を理由に日本に残留したとの記述があります。現在函館の観光名所である修道院から彼女たち9名がこのタフィン修道院に転出したのは間違いないと思われます。
 修道女たちの献身的な姿を修道院の跡に想い描きながら訪ねてはいかがでしょうか。

サパ特産は養殖サーモン?!フィンランドとベトナム水産省の支援と研究で実現

 サパのレストランにいくと、サパ特産のサーモン料理を勧められます。ホイル焼きやサーモン鍋、刺身を食べさせてくれるところもあります。
 ベトナムで輸入ではなくベトナム産サーモン?と驚く方もおられるかもしれませんが、サパでは2004年からフインランド政府とベトナム水産省の支援と協力で第一水産養殖研究所の試験生産が開始されました。標高1700mにある滝壺のそばに養殖池を設け、滝から養殖池まで約1kmもの管を引いて取水しました。2005年には5万個ものサーモンの卵を輸入、孵化に成功しました。研究者たちはそれこそ寝ても覚めてもサーモンのことを考えていたといいます。サーモンは水質のよい環境で、水温は15度を超えてはならず、水は常に循環させ、水中の酸素量も許容量通りでなければならないということで、担当者は気が気でなかったようです。2006年には無事サーモンの養殖に成功し、以来サパではサーモンの養殖が盛んに行われるようになりました。
 近年ではチョウザメの養殖も導入され、サーモンとチョウザメはサパの特産となりました。ただし、豊富にとれるはずのイクラもキャビアも高く売れるとみえて輸出されてしまい、ベトナム国内では流通せず、いまだベトナム産イクラ、キャビアを口にすることはありません。
 サパにこられたらぜひ養殖サーモンとチョウザメをお試しください。脂がのっていておいしいですよ。

「インドシナ半島の屋根」ファンシパン山、いまやロープウェイに乗り15分間で頂上へ

 日本の富士山は3443m。それより約300メートルほど低い山がベトナムにあります。ファンシパンというのがその名称です。ベトナムの最高峰であるのみならず、ラオス、カンボジアを含むインドシナ半島でもっとも高い山であることから「インドシナの屋根」と呼ばれています。
 ながらくその標高は3143mであると伝えられてきましたが、これは1909年にフランス人が測量した値でした。しかし2019年、ベトナム測量・地図・地理情報局が最新の衛星測位システム(GNSS)を用いて正確に計測したところ、3147.3mであったと報道されています。ベトナム最高峰は従来いわれているより4mも標高が高かったのです。
 ファンシパン登頂は従来登山口から1泊2日かかりました。私の知人のベトナム人男性は80歳代にして徒歩でファンシパンに登頂したことがあり、自らの健康と健脚を自慢していました。
 2016年にはベトナムの観光地にアミューズメント施設を建設、運営しているサンワールド社はファンシパン山に麓から頂上までのロープウェイを建設しました。このロープウェイは二つの世界記録を持っています。一つは麓駅から頂上駅までの高度差が1410mあり、3ケーブルのロープウェイとしては世界最大高度差です。もう一つはそのロープウェイの長さ。距離にして 6292.5mあり、これも3ケーブル・ロープウェイとしては世界最長です。
 2日がかりだったファンシパン登頂もこのロープウェイに乗車すればたったの15分で到着するようになりました。2022年2月現在、大人の乗車料金は 75万ベトナムドン(約3750円)です。
 麓の駅にはサンプラザショッピングセンターやレストランも併設しています。また駅に隣接してホテル・ドゥ・ラ・クーポール Mギャラリー​​という高級ホテルもあります。山のリゾートとして楽しむ便利が備わっています。

 さまざまな楽しみ方のできる山のリゾート地、サパをぜひ一度訪れてみてはいかがでしょう。

文=新妻東一

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