民族、歴史、美術、女性、戦争がテーマ〜ベトナムのおすすめ博物館5つをご紹介

 その国、その国にある博物館、美術館を訪れるのは旅の楽しみのひとつです。映像やウェブ、テレビなどで目にすることもありますが、やはりリアルな現物を目の前にすると感慨もひとしおです。今回のベトナム観光旅行記では、旅行に訪れたらぜひ訪ねていただきたい博物館、美術館を5つご紹介いたします。

<ベトナム民族学博物館>

 ベトナムは54民族からなる他民族国家です。古くはキン族、現在はベト族と称される民族が多数派を占めていますが、人口の15%、つまり1500万人で53の民族が構成されています。少数民族という呼称もありますが、少数、というとマイナーな感じがつきまといますが、たとえばハザン省などの山岳地方にいくと、メジャーなのはザオ族などの民族で、キン族は逆に少数民族、マイナーな存在となります。ザオ族の人たちの前でうっかり「少数民族」などと言ってしまうと、「この地では私たちが多数民族です」ですよと諭されます。
 そんな54民族の衣装や民具、祭礼、宗教など文化、風俗を展示するのが、ハノイ市にあるベトナム民族学博物館です。
 1997年にグエン・ティ・ビン国家副主席と仏シラク大統領との立会いのもと、オープンしました。
 約4.5ヘクタールの土地に3つのエリアを備えた博物館です。
 ひとつ目は銅鼓をイメージした円形の建物の中にベトナム54民族に関連する文物が展示されているエリアです。
 二つ目はたてもの園と呼ばれ、約2ヘクタールの土地にベトナム10民族の民間の建物10種が立ち並んでいます。
 三つ目は凧(カイト)館と呼ばれている建物で、ここには外国、特に東南アジアの各民族の織物や民具、お面、影絵などが展示されています。
 この博物館の見どころは少数民族の作り出した織物の意匠や民具、そして屋外に立ち並ぶたてものの数々を楽しめます。
 併設されたカフェ、レストランの料理の味もよく、見学の後にたちよるとよいでしょう。
 
<ホーチミン市歴史博物館>

 ホーチミン市歴史博物館は、1929年、フランス税関に勤めていた薬剤師、ビクトル・トマス・オルべ氏の個人的なコレクションをコーチシナ総督府が買い取って陳列したのがはじまりです。
 収集品は、当時の金額で4.5万ピアストル、2160品目に及ぶ。インドシナ半島の工芸美術品から日本や中国の遺物に至る膨大なものでした。象牙、玉石などの美術品、仏像など多岐にわたります。美術館で陳列されるだけでなく、フランスの有名な場所での展示も行われたそうです。
 建物はインドシナ様式と呼ばれるスタイルで建設されています。建物自身は1926年から建設がはじまり、3年かけて建てられました。オープン当時は、コーチシナ総督の名前を冠した博物館となりました。
 現在の常設展示は、二つの部分に分かれています。一つはベトナムの歴史。原始時代から1945年までの歴史に関する展示です。もう一つはベトナム南部とアジア諸国の遺物の展示です。
 常設展示では、特にオケオ遺跡の遺物と、チャンパとクメール文化の遺物の展示に見どころがあります。
 オケオ遺跡とは一〜七世紀にかけてベトナム南部のアンザン省に存在した港湾市で、中国の史書にいう扶南国であると推定されています。インド商人たちの活躍を示す遺物が多数見つかっており、なかでもマルクス・アウレリウス金貨が見つかったことは、オケオとローマ帝国との間に交易のあったことが示されています。その金貨がこの博物館に展示されてます。
 ベトナム中部と南部にそれぞれあったチャンパとクメールの文明の遺物もヒンズーや仏教に関連した見事なレリーフや彫刻を目にすることができます。
 ベトナム動植物園の敷地内にあります。ホーチミン市を訪れた際にはぜひ見学ください。

<クアンサン・アート・ミュージアム>

 2023年7月、富裕層や欧米人が多く住むエリアであるホーチミン市2区にベトナム初の私設美術館「Quang San Art Museum」がオープンしました。
 邸宅のような建物の入口に美術館の表示があります。入場券はおとな20万ベトナムドン、約1200円です。3階建ての美術館の一階は、1925年〜1945年、インドシナ美術学校の先生と卒業生の作品を中心に展示されています。インドシナ近代美術の重鎮ともいうべき、グエン・ザー・チー、トー・ゴック・ヴァン、ブイ・スアン・ファイや、フランスに渡って活躍したレー・フォーやマイ・トゥーの絵も飾られています。
 二階は1945年から1975年に活躍した作家の作品が並んでいます。特にベトナム戦争期に描かれた戦争をテーマにした作品が展示されています。そのいずれもが絵画蒐集家としての趣味が現れるよい作品ばかりです。グエン・カン、ヴァン・カオら、美術学校の卒業生たちの作品も見応えがあります。
 三階は1975年以降から現代の作品までが陳列されています。戦後すぐからドイモイ期の作品を中心に、北、中、南部の作家の作品を満遍なく取り揃えていのが特徴です。抽象画にもみるべきものがあって、コレクターの絵画に対する趣味の広さを感ずることができます。
 この美術館はベトナム人絵画蒐集家、グエン・テュー・クアン氏が創設者した美術館です。彼は2000年ごろから絵画収集をはじめ、約1000点にもおよぶ自らのコレクションを展示しました。テクコムバンクという民間銀行の副会長で、ウクライナで建築学を学び、美術にも明るい彼は、有名無名問わず、自分の気に入ったベトナム人作家の作品を収集しています。こと近代美術に関してならば国立の美術館よりも見応えのある作品群をまとめて鑑賞できる、新観光スポットです。

<ベトナム女性博物館>

 世界的にみても珍しい博物館がベトナム、ハノイにあります。その名も女性博物館です。「過去から現在までの生活の中でのベトナム女性の歴史、文化遺産に関する公衆の見識と理解を高め」、「男女平等と女性の進歩発展という目標の実現に寄与する」ことが掲げられています。元はベトナム女性連合会付属の博物館として発足し、一般に広く知られるようになったのが、2010年のリニューアル以後です。
 博物館内は、家族の中の女性、歴史の中の女性、そして女性の衣装という3つのテーマで収集品が展示されています。
 「家族の中の女性」では、結婚、出産、家庭生活をテーマに展示品が並べられています。安産のためのお守りや、農業、手工芸、小商い、子供の養育など、ベトナムの女性たちの伝統的な家庭内の役割についての展示がなされています。
 「歴史の中の女性」をテーマにした展示物では、中国からの侵略と戦った伝説的な女性の英雄たち、抗仏戦争、ベトナム戦争で兵士として闘った女性たち、統一に力を尽くした女性、現代にも政治経済社会で活躍するベトナムの女性たちの姿が展示されています。いかにベトナム女性が男性と肩を並べるほどの勇敢さを発揮したかを知ることができます。
 圧巻なのは「ベトナム女性の衣装」です。54の各民族の民族衣装がコレクションされています。その意匠の素晴らしさ、彩りの美しさには目をみはるものがあります。
 もう一つの見どころは、聖母道信仰の展示です。聖母道は革命の直後には禁止された時代もありましたが、2016年にはユネスコの無形文化遺産に指定され、ベトナムで広く行われている民間信仰です。祭壇や霊媒がまとう衣装などが展示され、ベトナムの人々の心の奥底にある信仰のいったんに触れることができます。
 
<ホーチミン市戦争証跡博物館>

 ベトナムといえば、私のような年配者にとっては、戦争や戦場だったときの悲惨な記憶がつきまといます。1960年代から75年のサイゴン「解放」までの10数年間戦われたベトナム戦争を記憶にとどめてようと建設されたのが、この戦争証跡博物館です。
 この博物館の前身は、今から50年も前にサイゴン解放の年、1975年9月に開設された米国・かいらい軍戦争犯罪展示場と呼ばれ、アメリカの戦争犯罪を暴くための展示場でした。その後、名称は何度か改められて、現在に至っています。
 ベトナムへの侵略勢力による戦争による犯罪の証跡と被害実態の資料、画像、遺物の研究、収集、収蔵、保管および展示を目的とする博物館であり、民衆とくに若者たちに、祖国の独立と自由を守ってたたかう精神、侵略戦争に反対し、平和を守り意識、世界の民族との友好と団結の精神について教育することを目的にしている、と同博物館のホームページにはうたわれています。
 屋外にはベトナム戦争当時に使用された兵器、爆弾、戦闘機などが展示されています。
 屋内の展示は、「歴史の事実」でフランス、アメリカとの戦いの歴史、「記憶」と題された展示では275点ものインドシナ、ベトナム戦争の当時に撮影された写真で綴られる戦争の実態が明らかにされています。特に沢田教一ほか、日本人カメラマンの報道写真が目をひきます。
 日本人ならば見逃せないのが、石川文洋と中村梧郎、二人の日本人写真家の作品群です。石川は戦場写真と、ベトナム戦後のあゆみが、中村の作品は主に枯葉剤被害の実態を告発する内容になっており、観るものの心に迫ります。
 ほかにも枯葉剤被害の実態、世界の反戦運動の様子なども伝える展示室もあり、ベトナム戦争が戦場だけで戦われたものではないことが示されています。
 アウシュビッツや広島の原爆博物館のような平和博物館に訪れ、再び戦争の惨禍にさらされない世界を考えるのも、ベトナムの旅に求めても悪くはないと思います。

文=新妻東一

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