縁の下の力持ち、産業の発展に欠かせない特殊鋼メーカー/タンロイ有限会社

 ベトナムの大都市に雨後のタケノコのごとく、次々と建設される高層ビル。ビル群はカラフルなイルミネーションに彩られ、ベトナムの大都市の発展を象徴している。ベトナムのこのすばらしい成長と発展を支えるのはセメント、鉄鋼、そして電力だ。

 ベトナムのインフラストラクチャーの開発、発展に欠かせない、これらセメント、鉄鉱、火力発電所になくてはならないのが、特殊鋼またの名は合金鋼だ。

 特殊鋼とは鉄にカーボン(炭素)、マンガン、クローム、ニッケルなどの元素を加え、その種類、量の違いによって、熱に対する強さや硬さ、強靭さを与えたり、サビに強い、あるいは摩擦、摩耗に強い「はがね」のことだ。

 生活する上で特殊鋼、合金鋼をわたしたちが直接目にすることはない。しかし私たちの生活を豊かにする上で欠かせない役割を果たしている。

 今回ご紹介するタンロイ有限会社は、この特殊鋼のメーカーだ。同社のマネージングダイレクターであるズオン・ヴァン・ミン氏に話を伺った。なお、このインタビューもZOOMを用いたリモート取材で実施した。

 ハノイから南に車で1時間半、ナムディン省アンサー工業団地に同社はある。ナムディンはフランス植民地時代から織布やシルクなどの繊維産業をはじめとする軽工業で発展した街だ。ベトナムでキリスト教の布教が最も古くから開始された場所として知られ、今も教会が数多く立ちならんでいる。また今や国民食となった麺「フォー」発祥の地だとも言われている。

 ミン氏によれば、同社は1998年、工場の広さは1500平米、工員も15名という、小さな町工場としてはじまった。2006年になってアンサー工業団地に工場を建設、現在は工場敷地面積2.4万平米、工員・従業員合わせて300名を擁する規模にまで拡大した。

 研究開発(R&D)部、技術部、試験センターを含む8部門、模型、砂型、鋳造、熱処理、加工、仕上げなど11の分工場にわかれている。

 主な製品は4種類あり、カーボン鋼、ハイマンガン鋼、ハイクローム鋼、ハイニッケル鋼である。産業用途、客先の要求に応じて様々な鋳物を製造している。

 主な国内の取引先はセメント製造、火力発電所、鉄鉱石採掘である。輸出にも積極的で、輸出先国は日本をはじめ、オーストラリア、ドイツ、カナダ、アメリカ、ヨルダンなどだ。2021年には年間6,700トンの製品を国内販売、輸出した。現在、国内販売が売上全体の70%を占め、輸出は30%だ。

 タンロイ社は特殊鋼原料を加熱・融解し、それを鋳型に流し込んで、冷却凝固させる鋳造によって、客先に応じた形状を作り出して納品する。セメント産業むけには石灰岩を破砕する破砕機用のハンマー、ミルボールなどを製造している。

 同社は主に3種類の鋳造法によって客先の要望に応えている。一つは、ワックス(ろう)で作った模型を砂で固め、ワックスを溶かし、それを鋳型にして鋳造する方法、ロストワックス法によるもの。その生産能力は年間6千トンだそうだ。二つ目は水平連続鋳造用モールド技術によるもの。その鋳造能力は年間1万トンだ。3番目にはアルファセット法といって砂型に有機性の粘結剤を用いた鋳型による鋳造で、年間3千トンの能力を有している。同社はこのアルファセット法による設備を年内に増設し、年間5千トンまで能力を引き上げる計画だそうだ。

 今後の目標としては2022年には10,500トンの製造販売、輸出を実現するとしている。同社は輸出比率を50%にまで高めることで、製造能力一杯まで売上を引き上げることを目指している。2023年には15,000トン、2025年には20,000トンの販売目標を掲げている。

 輸出比率を高めるためにも、アメリカ、日本、ドイツといった製品の品質要求の高い市場に挑戦したいとミン氏は語る。

 ただ悩みもある。高い品質を維持し、なおかつコストダウンにも挑戦しなければならないが、その決め手になるのは人材。しかしベトナムでも鋳造業界には優秀な人材が集まりにくくなっているという。

 そこで同社はハノイ工科大学と協力して、同大学の卒業生を優先的に同社に就職するように働きかけると同時に、積極的な採用と社内教育、研修を強めている。

 同社は長年、日本企業との連携、協力を進めてきた。2012年にはベトナム商工会議所の協力を得て、日本企業で一般化している「5S」を導入し、製造工程の「カイゼン」にも取り組んでいる。

 ミン氏は2019年、名古屋をはじめとする日本の鋳物工場4社を訪れた。日本の人々の他人への接し方や交通の便の良さ、規律正しさに感銘を受けたようだ。日本の経済の発展ぶりも素晴らしいが、日本人と日本の文化も好きだとミン氏。ありがたいことに彼は日本びいきだ。

 ミン氏は日本市場は大きく、共に日本市場での同社の製品の拡販に協力してくれる日本企業パートナーを探したいという。つまりは日本での輸入販売代理をしてくれるパートナーだ。特にセメント製造工場向けの特殊鋼部品や、日本の建設会社向けのビジネスを拡大したいそうだ。

 最後にミン氏に近い将来の夢はと問うと「特殊鋼メーカーとしてベトナムではナンバーワンの企業であることを目指したい」と答えてくれた。

 縁の下の力持ちともいうべき、特殊鋼のメーカーとして、タンロイ有限会社が社名の通り、ベトナムのみならず世界の市場で「タンロイ」すなわち勝利することを願わずにはいられない。

文=新妻東一

タンロイ有限会社

1998年ナムディンにて創業。15名の会社から発展、2006年にはナムディン省アンサー工業団地に工場を設立。300名規模の工場に発展。主な製品はセメント製造メーカー、火力発電所、鉄鉱石採掘への特殊鋼部品。2022年には1万トンの製造販売を目標とし、3年後には倍の2万トンの製造販売・輸出を計画している。

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