都会からUターン、地元ラムドン省のコーヒーを世界に広めたいと意欲/ビアッジオコーヒー有限会社
- 2022/08/25
ベトナムはその生産量、輸出量ともにブラジルに次ぐ世界第2位のコーヒー大国だ。でもなぜかブラジルやコロンビア、インドネシアなどに比べてベトナムにコーヒーのイメージはない。
ベトナムでコーヒーの栽培が開始されたのは19世紀の半ば、フランス人がもたらしたもの。世界で栽培されているコーヒーには大まかにいって2種類あり、アラビカ種とカネフォラ種ロブスタ(一般にはロブスタ種と呼ばれている)である。フランス人が当初もちこんだ品種はアラビカ種で、ベトナム北部から北中部の平地に植えたのだ。
しかしそれは大失敗だった。実はアラビカ種は標高500mから800m以上の熱帯高地にしか育たなかったのだ。
19世紀末にアフリカのコンゴで発見されたコーヒーの新品種がロブスタ種だった。アラビカ種とは異なり、低地で湿潤した場所でも栽培でき、強健で病虫害に強いという特性があった。20世紀にはいってフランス人たちはこのロブスタ種をベトナムに導入することで、ベトナムでのコーヒー生産も拡大した。ただし、その後フランスとアメリカとの戦争でベトナムのコーヒーの生産、輸出は大きく拡大することはなかった。
コーヒーの生産が飛躍的に拡大したのは1980年代、ドイモイ政策が開始され、コーヒー産業への投資が進んでからだ。だからベトナムにおけるコーヒー豆栽培の歴史は比較的新しい。
実はベトナムで主に生産されているロブスタ種は苦味が強く、ストレートでの引用には適さないとされている。そのためブレンドコーヒーにパンチやコクを与えるために加えたり、インスタントコーヒーや缶コーヒーに主に使用されている。ベトナムのコーヒーはだから単体のコーヒーとしてのブランディングに成功していない。
今回ご紹介するビアッジオコーヒー有限会社はそんなベトナムコーヒーの素晴らしさを世界に広めようとしている企業だ。社長のマイ・ゴック・ディン氏にお話を伺った。なお、今回の取材もZOOMによって行なった。ディン社長は多忙のため、同社の本社があるラムドン省からバンメトートまでの車中からインタビューに応じてくれた。多忙にもかかわらず取材に応じてくれたディン社長に感謝したい。
ビアッジオコーヒー有限会社はホーチミン市から飛行機で55分、中部高原と言われるラムドン省にある。省都はダラットといってベトナム南部の避暑地として有名な場所だ。
ラムドン省には、標高2000mを超えるランビアン山があり、海抜900〜1100mにある高原地帯だ。夏でもホーチミン市に比べると清涼な気候で平地と比べて10度は違う。そうした気候の利点を活かし、お茶、野菜、花卉の生産が盛んだ。コーヒーの生産ではダクラク省に次いでベトナム第2位の生産量を誇る。
同社の社長ディンの両親はコーヒーの栽培を1995年にはじめた。いわば家業がコーヒー農園だった。ディンはホーチミン市経済大学で金融を学び、卒業後は鉄鋼や食品の輸出入を行う貿易商社に勤めた。米国やオーストラリア、インドなどとも取引があった。ディンはしかし、そのキャリアを捨てて、ふるさとであるラムドン省に戻り、コーヒーの輸出会社、ビアッジオコーヒー有限会社を設立した。2014年のことだ。
彼の事業は8年を経て大きく成長した。現在取引のあるコーヒー農家は三千世帯、主にロブスタ種を栽培する農家だ。33世帯のみだがアラビカ種を生産する農家もあるという。コーヒーの取扱数量のうち90%が輸出で、取引先はネスレをはじめとする世界各国の大手インスタントコーヒーのメーカーだという。輸出先国は米国、欧州、フィリピンなどだ。残りの10%はベトナム国内のCoffeeHouseやKing Coffeeなど、コーヒーチェーンやインスタントコーヒーメーカーだそうだ。三千世帯から年間約1万トンものコーヒーを扱うだけあって、取引先はやはり大手企業、それも生豆での輸出に限られるようだ。
コーヒーを焙煎し、粉の状態での販売もはじめた。こちらは相手先ブランドでの販売も可能だ。生豆のみならず付加価値の高いコーヒー商品への転換にも努力を惜しまない。
同社はコーヒー農園見学も積極的に受け入れている。収穫から焙煎までの工程を実地で見学し、コーヒーノキから集められたコーヒー豆がどのような工程を経て、おいしいコーヒーとして消費者の手元に届けられるのかを知ることができる。実際に農園でできたコーヒーを飲むことも可能だ。ファーム・トゥ・テーブル、農園のコーヒーをその場で飲むことができる。同農園はダラット市内から26kmと自動車でも1時間はかからない距離にあるので、ダラット観光のついでに立ち寄ってみるのも良いだろう。
ディンには夢がある。ベトナムの農産物はとかく品質が悪いと評価され、安く買い叩かれる。コーヒーを輸出しているディンとしてはより品質の高いベトナム産コーヒーを世界市場に届けたいと、栽培方法から環境への影響についても農家に対する指導や情報の提供をすすめたいと話してくれた。
ディンは残念ながら日本を訪れたことはないそうだが、コーヒーの品質において消費者の目が肥えている日本市場にも挑戦したいと語る。そのためにも彼自身、より良く、おいしいコーヒーに関する勉強もしているとのこと、近々修了証ももらえるそうだ。
ディンは今年42歳、一児の父親でもある。世界第2位のコーヒー大国ベトナム。その中でひときわ大きなコーヒー企業として成長していってほしいものだ。
文=新妻東一
ビアッジオコーヒー有限会社
Viaggio Caffe Limited Company
プロフィール
ベトナムでのコーヒー生産第2位のラムドン省に2014年創業。創業者はマイ・ゴック・ディン。両親はコーヒー農園経営。ホーチミン市経済大学で金融を学んだのち貿易商社で鉄鋼、食品を取り扱う。コーヒーの輸出専業で会社を起し、米国、欧州、フィリピンに輸出。主に生豆だが、焙煎したコーヒー粉のOEM生産が可能。コーヒー農園見学事業も実施。
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