1979年創業、豊富な資源活かし炭酸カルシウム製造専業メーカー/ミンドゥック化学株式会社
- 2024/05/20
- ベトナム企業インタビュー
ハノイからクルマで走ること2時間半、世界的にも有名なハロン湾がある。1994年にユネスコの世界自然遺産に登録された風光明媚な観光地だ。
数千もの奇岩や小島が海の上にそそり立つ奇景を船でクルーズしながら楽しめることで知られている。
このハロン湾は中国雲南省桂林付近から続く石灰岩帯が風雨にさらされ、奇妙な形をした岩山と鍾乳洞を生み出した、典型的なカルスト地形だ。元々陸だった場所が海に沈降してハロン湾となったといわれている。
この石灰岩、主に海にあったサンゴ礁の堆積がつくりだしたもの。元々大陸棚にあったものが、地球を覆うプレートの移動によって陸地にせりあがってきたのだ。石灰はわずかに水に溶ける性質のため、長年の風雨によって独特の地形と空洞が作りだされた。
シダ類等の植物の堆積が炭化して地層となったのが石炭だが、サンゴなどの堆積が地層となったものが石灰岩層である。化石資源として古くから人間の文明には必要不可欠なものだ。
この石灰岩の最大の用途はご存知の通りセメント原料。古くはエジプトのピラミッドなどの建築資材として用いられ、日本では城の壁を塗り固めるしっくいとして用いられた。
石灰石としてのみならず、そこから作り出される炭酸カルシウム(CaCO3)は、現代のありとあらゆる産業分野に利用されている。
建築産業向けにはセメント、建材として、プラスチックやゴム製造業には充填材、製紙業においては白色、光沢を持たせるための添加剤として用いられ、塗料・顔料の製造にも欠かせないものだ。歯磨き粉、化粧品などに使用されるほか、食品添加物としても、また農業分野でも酸性土を中和するのに用いられている。
石油・石炭などの化石燃料・エネルギーは形を変えて、人間の文明の隅々にまで有効にもちいられるようになっているが、石灰石もまた我々の生活になくてはならない役割を果たしている。
ベトナムは北部から中部にかけて、豊富な石灰石の地層が存在している。この原料を活かして、ベトナムでも炭酸カルシウム、CaCO3の生産が行われている。
今回のベトナム企業インタビューで紹介するのは、ハイフォンにある炭酸カルシウム製造専業メーカー、ミンドゥック化学株式会社だ。
インタビューに応じてくれたのは、同社の社長、ファム・ヴァン・カン氏。今回もハイフォンの本社におられる同氏とリモートでインタビューを行った。
同社は1979年、国営企業・ミンドゥック化学工場として設立された。戦後まもない時期で「設立当初は電気がなく、あったとしても月に5〜7日間しか電気がこない、水はない、など困難を極めた」とカン氏は語る。
1986年には第6回ベトナム共産党大会で「ドイモイ(刷新)政策」が決議され、以後、計画経済から市場経済化がはかられ、外交政策も旧ソ連一辺倒から、アセアン諸国、中国、米国との関係回復、全方位外交へと舵をきり、そうした変化を背景に同社も次第に規模を拡大し、1998年には株式会社化をはかって国営企業から私企業への転換された。
同社は北ハイフォンと呼ばれる、灰色石灰石の産地に隣接し、原料をそこから得ると同時に、イエンバイ、トゥエンクアン、ゲアン、ハナム省の各省からも白色石灰石を調達しているそうだ。もちろん供給源として安定性を保つために、石灰石の採掘権を得て、原料の採掘も行っている。
原料と製品の搬入出に便利なように水路では1000トン級の船舶も横付けできるようになっているほか、トラックによる輸送にも便利がいいようになっている。さらに同社はハイフォン港の近くにあるため、輸出にも非常に便利だ。
ミンドゥック社では、乾式粉砕法によって白色石灰石を粉砕、分級して重質炭酸カルシウムを、化学的反応によって灰色石灰石から結晶を液中で析出させて軟質炭酸カルシウムを、それぞれ生成させている。
同社はベトナムではじめて1979年に軟質炭酸カルシウムの製造に成功した企業であり、1997年には重質炭酸カルシウムの製造を開始した。炭酸カルシウムの製造についてはもっとも歴史のある企業の一つだ。
ミンドゥック社の炭酸カルシウム製品は、各種産業で用いられている。具体的には、プラスチック、塗料、製紙、ゴムに添加されるほか、化粧品、食品添加物などにも使用されている。
消石灰も製造しており、主に建築、農業、消毒、内装などに使用されている。
比較的大きな粒状の石灰石は、道路の白線、水道浄化、陶器生産に用いられている。
設備は主に、米国、ドイツ、スペインおよび中国の設備を利用している。中国製は耐用年数が短いものの、金額がほかの国の機械に比べ、4分の1、10分の1と格安なので、そこはうまく使いわける必要があると、カン氏は語る。
同社の生産能力は、重質炭酸カルシウムは年産15万トン、軟質1.4万トン、その他石灰石製品で5.5万トン、消石灰が1.5万トンである。生産量の8〜9割はベトナム国内の需要に応えるものだが、10%は韓国、台湾、フィリピン、インド、カンボジアなど約8カ国に輸出されている。
現在は、微細なナノ炭酸カルシウムの製造にも挑戦し、実験モデルで成功をおさめて、大量生産にも着手しているものの、生産コストの最適化にはさらなる研究が必要という。日本製の優秀な機械とナノカルシウムパウダーの製造ラインがあれば紹介してほしいとカン社長に懇願された。
カン氏は、ベトナム商工会議所の団員として二度、日本を訪れたことがあるという。日本の製品、電車などの交通手段の発展ぶりには感銘を受けたそうだ。ただ残念ながら日本の炭酸カルシウムの製造メーカーを訪れる機会はまだない。
日本が世界有数の石灰石の資源国であることは当然ご存じなので、日本向けの炭酸カルシウムの輸出は考えておらないようだが、日系の製造企業向けには販売を拡大したいとの意向だ。
あらゆる産業に欠かすことのできない炭酸カルシウム。読者の企業が海外から調達しているのであれば、ぜひミンドゥック社の製品の調達も検討をお願いしたい。
なお、同社では二酸化炭素を回収して、炭酸ガスの販売も視野にいれている。炭酸カルシウムのみならず、炭酸ガスの調達先としても、今後有望かもしれない。
ちなみにカン氏はハイズオン省出身、ライチーの産地としても有名な場所、それも同省のライチーは種が小さく、果肉が大きいことで知られている。
「工場に来てもらえれば、おいしいライチーをご馳走しますよ」そうお国自慢を口にしてインタビューを終えた。
ミンドゥック化学株式会社
MINH DUC CHEMICAL STOCKSHARE COMPANY
プロフィール
1979年、北ハイフォンに国営企業として軟質炭酸カルシウム製造企業として設立。1998年には民営化し私企業となる。主な製品は重質、軟質炭酸カルシウム、消石灰、石灰石その他製品。重質炭酸カルシウムの生産能力は年産23.5万トン。主にベトナム国内向けだが、10%程度は海外8カ国に輸出する。