内装工事の仕事は好き嫌いではなく、ご縁がもたらしたもの/BCAベトナム投資株式会社

 インタビュアーのわたしは大学卒業後、四半世紀に渡って輸出入商社に勤めていた。製品を輸出するにしても輸入するにしても、製品をつくる工場訪問が欠かせなかった。わたしは糸へん、つまり繊維製品を担当していたので、製糸、織布、編立、縫製の各工程の工場への訪問は日常的に行なっていた。だから、いまも工場訪問にいくと心踊るものがある。
 よい製品を作り出す工場は、おしなべて工場自体も整理整頓が行き届いていて美しい。それは整理整頓がゆきとどき、明るく快適な製造・労働環境はよい製品をつくる土台となる。工場をいくつも訪問していると、工場の良し悪しと、そこからできあがる製品の品質も多少占うことができるようにもなる。
 工場内装はだからとても重要だ。工場の内装は、作業効率や安全性、労働者自身のモチベーションも左右する。最終的には製品の品質につながっていく。
 製造工場である以上、工場建設のためのコストには制限がある。工場建設のコストとその性能との間の最適解を求めるうえで、工場内装を専門とする企業のコンサルティングとその施工は、工場を新たにつくる上での重要なファクターだ。

 今回インタビューに応じてくれたのは、ベトナムBCA投資株式会社の副社長、グエン・フイ・ビンだ。同社は、主に工場や住宅などの内装を請け負う工事会社だ。今回もZOOMを用いたリモート取材であることをお断りしておく。

 ベトナムBCA投資株式会社は、ハノイのハドンに2019年創業の工事・住宅内装の施工会社だ。現在、正社員10名、プロジェクトごとに作業員を集めて内装工事を請け負っている。
 副社長のビンは、2008年から2012年まで5年近く、韓国で働いた経験がある。
 韓国へ出稼ぎに出かける前には2年間軍の兵役も受けたという。兵役を終えて韓国語を学び、韓国に赴いた。
 彼が韓国に出稼ぎに出たのは今から16年も前だが、現在も日本、台湾と並んで人気の海外出稼ぎ先だ。
 2023年、ベトナム全体では海外出稼ぎ労働者を16万人を送り出し、過去最高となった。出稼ぎ先国別では日本へは8万人以上、台湾へは5.9万人、韓国へは1.2万人弱だ。いずれの国も少子化問題を抱えて、建設、農業、介護など労働の強度の割に低賃金を余儀なくされている産業においては海外労働者を受け入れざるを得ない状況だ。
 これまで多くのベトナム企業にインタビューしてきた。その中で日本に研修生、実習生として働きにいって、ベトナムに戻り、起業したり、ベトナム現地法人の社長、責任者となった人は何人かいた。しかし韓国から戻ってベトナムに会社を設立し、その責任者を務めているケースはビンがはじめてだ。それだけ韓国への出稼ぎが増加し、歴史も重ねてきた証左だろう。
 出稼ぎ先の韓国語と内装工事の技術を持ちかえり、彼はまずベトナムにある韓国系の内装工事企業に勤めた。
 ハノイ市内、近郊の工場はもとより、ハノイのランドマークのひとつ、ダオタン通りにあるロッテセンタービル内の内装も手がけたそうだ。

BCAベトナム投資株式会社_作業

 彼は韓国系の内装会社3社で、通訳、管理者として働き、2019年にBCAベトナム社の創立にこぎつけた。
 現在の得意分野はやはり工場内装だという。特に完成後の工場の安全もさることながら、施行中に労働災害が発生しないように配慮した工事も行なっている。
 工事の際の労働災害防止という点ではまだベトナムは意識の低い面があるが、海外で技術を学んだ管理者のいる工場や現場は他国の経験に学び、労働災害対策に気を配った企業、仕事場をこのベトナムで実現し、優秀な労働者、工員を集めることにも成功している。
 そして彼が工場の安全性で気を配っているのは、防火防爆安全だという。
 工場における火災、爆発事故は後をたたない。事故が一度発生すれば、焼けてしまった工場そのものの物的人的被害が損失となるだけでなく、労働者は職場を失い、企業家は製品の生産ができず顧客にも迷惑がかかる。あってはならないことだ。だからこそ、工場内装では防火防爆をいかに防ぐかが重要だとビンは言う。
 また、2020年から2022年のコロナ禍では、ベトナムでは多くの工場で感染拡大を防ぎつつ、生産活動を維持するために、工場内に労働者の宿舎を設けて泊まり込みで生産を続けた。
 ビンの会社では、この工場の体制を支援するために、工場の改装を行う要望にも機敏に応えて、工事を行ったそうだ。多くの企業がコロナで仕事を失った一方で、ビンの経営するBCA社ではコロナ禍で逆に仕事が増えたのだそうだ。
 ビンに、この内装工事の仕事は好きなのか、そうたずねると、
 「好きというより、この仕事にわたしは『Duyên (縁)』があるのでしょうね」
 そう答えた。
 以前もあるベトナムの企業家に同じような質問をしたら、戻ってきた回答は「自分は縁があったのだ」そう答えた。
 日本語のいう縁という言葉とほぼ同一な意味をもつこのDuyênという言葉は私も好きな言葉だ。
 人間は自らの人生を選びとって前に進んできたように思いがちだが、実際には見えない人と人との「縁」によって自分の進むべき道に導かれてきたのではないかと感じることがある。
 わたし自身も貿易商社への就職も、旅行業への転身も、自らがそうしたいと思って進んできた道ではない。むしろ与えられた、それこそ人と人との「縁(えにし)」によって、ここまできたと言ってもいいだろう。
 そもそも私がこのビズマッチでベトナム企業インタビューを書いているのだって、このウェブサイトを運営する会社の社長とのご縁からなのだ。
 ビンもまた、そんな人と人との縁を大切にして、今の今まで自らの企業家としての人生を歩んできたに違いない。
 ビンの会社がコロナ禍でも仕事が減るどころか、むしろ仕事が増えたというのだから、縁のなせるわざなのだろう。

 これまでは韓国大手企業であるサムスン、LGなどと工場内装やデーウの大型都市開発に参画してきたが、今後は日系企業との関係も拡大したいとの強い意向をビンは持っている。
 残念なことにまだ日本を訪れる機会はないが、いずれ日本には足を運びたいと考えていると語るビン。
 「子どもの頃からサムライ映画が好きだった」というビンは、日本の規律正しさや人々の所作が好きだという。風景の美しさ、寿司をはじめとして食事のおいしさ、何より日本に行って働く友人たちも多くいるらしい。
 彼は二人の子どもの父親でもある。子どもの年齢は11歳と8歳だそうだ。まだこれから頑張って子育てしなければならない年齢だ。
 日本との縁を結んで、さらに彼の会社が大きく発展するであろうことを祈ろう。

文=新妻東一

副社長 グエン・フイ・ビン

BCAベトナム投資株式会社
BCA VIET NAM INVESTMENT JOINT STOCK COMPANY

プロフィール

2019年ハノイに創業の内装工事会社。工場内装を得意とするが、住宅の内装も可能だ。現在の主な顧客は韓国企業大手だが、今後は日系企業にも関係を拡大したいと抱負を語る。

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