日本企業に学び、自動車・オートバイ部品を日系メーカーに供給/チャンブーインダストリアル
- 2024/11/22
- ベトナム企業インタビュー
日本の自動車産業の発展は1933年「自動車製造事業法」が制定されたことにはじまる。米国では自動車が大量生産され、性能も優れ、部品供給も十分であったが、日本では当時の年間生産台数は200台あまり。これでは有事にあっては国産車では役にたたないとの危機感から同法が制定された。
これを受けて日産は1935年、米国の自動車工場の設備一切を購入して、自動車の本格的な生産を開始した。トヨタ自動車は、それから遅れること2年、1937年に自動車工場を設立、重要部品の材料や専用機はできるだけ内製、国産であることを目指した。
ベトナムのビンファスト社は現在、ベトナム製の自動車の製造を2017年にはじめた。現在はガソリンエンジン自動車の製造はやめ、電気自動車(EV)を生産しているが、製造機械設備や部品の多くは輸入品だ。それはベトナムの自動車関連の裾野産業は十分育っていないから、やむを得ない選択なのだろう。
部品や製造機械を輸入でまかなえば、コストに跳ね返る。出来上がった製品が輸入品より高くなってしまうのであれば、自動車は売れない。日本では戦後、自動車産業が再び興隆するなかで、部品生産を行う裾野産業が発展した。それは、部品の内製化、国産化をしなければ自動車そのものが低廉な価格で提供できなかったからという側面もあるだろう。
おかげで日本では複数のオートバイ、自動車メーカーが生まれ、日本の産業、経済の発展に大きく寄与した。
ベトナムでは、化石燃料を燃焼させてエンジンを駆動するオートバイ、自動車が十分に発展する前に、電気自動車の時代がやってきた。内燃機関で駆動するオートバイ、自動車に比べて電気自動車は部品数がかなり少ない。電気自動車であれば、部品もモジュール化してしまい、部品産業の発展の過程も内燃機関用のオートバイ、自動車とはまた違ったものになるだろう。
今回ご紹介する企業は、ハノイに立地するチャンブーインダストリアル社だ。同社はコンピュータ数値制御の加工機による金属加工を行う企業で、素材は鉄鋼、ステンレスなどへの加工がメイン。主に自動車・オートバイ部品を日系企業に供給している。
創業者はチャン・ゴック・ドー。創業は2015年、9年前にハノイの中心部から20km離れたハノイの郊外に工場を設けた。
ドーは1986年ベトナム北部タイビン省に生まれ。タイビン省はハノイから車で2時間、100 km少々の距離にある。東側は海、残りの三方は川に囲まれ、コメの産地として知られている。タイビン省における観光地開発は遅れているのが、ベトナムを旅しても訪れる観光客は少ないが、素晴らしい田園風景が臨める。
ハノイ工業大学の機械科で機械工学を学び、卒業後はハノイにある日系の光学機器メーカーに5年間勤めた経験がある。2006年から2010年のことだ。その後、ベトナムの機械メーカーや梱包会社を経て、2015年念願のチャンブー社を立ち上げたそうだ。
卒業後、工場の機械設備の修理、補修に長年携わってきた経験から、製造メーカーが求める品質や商品についての知識が得られたからこそ、金属加工や金型、治具の製造を行う企業を設立したというドー。
工場の敷地面積は650平米、工場の建屋は480平米というから、それほど大きな工場ではない。従業員・工員数は16名という少数精鋭だ。2023年の売上は80億ベトナムドン、日本円にして4.8億円ということだから、従業員対比でも立派な売上だ。
主に機械部品が中心だが、日系の自動車・オートバイメーカーのベトナム工場と韓国の家電メーカー向けがほとんどだという。この顧客をみても、いかに同社の製品の品質と信頼度が高いかを示している。
2020年から2022年にかけてのコロナ禍にあって、ベトナムの企業は、食事、宿泊、生産活動の3つを工場内で完結し、工員たちが工場と自宅との間で移動しない限りにおいて生産を可能とするという厳しい措置がとられ、その状況が作り出せない企業は営業停止をせまられた。
チャンブー社はどうだったのか?とたずねたところ、
「コロナ禍ではかえって売上が増加したんです」と、少々申し訳なさそうにドーは答えた。
実は、ベトナムに進出した韓国の家電メーカーは、コロナ禍でずたずたとなった海外のサプライチェーンから、ベトナムの国内メーカーからの部品調達を増やす結果になったからだという。多くの企業が売上減どころか、生産中止や営業中止に追い込まれたなかで、チャンブー社はまさに幸運児だといえよう。
日本企業に勤めて学んだことは?という問いに対して、ドーは「すべてが標準化され、時間厳守、約束は守る、といった企業の態度でしょうか」という。そして付け加えた言葉は「働いている間に一度たりとも給与の遅配がなかったこと」だという。
ベトナムにおいては、給与の遅配、欠配は結構あるらしく、ドーはそのことに深く感銘をうけたようだ。労働者に対して給与の遅配、欠配などあってはならないというドーの経営者としての強い意志も感じられて好ましかった。
もう一つ学んだのは「カイゼン」。彼は日系企業のQCサークルで数多くの提案をし、現場改善に取り組んできたという。QCのリーダーとして活躍したこともあると誇らしげに語ってくれた。日本の工場、製造メーカーのDNAは確実にドーに受け継がれているようだ。
チャンブー社の優れた点をアピールするとしたら、という問いに対しては、
「我が社には若者が多く、生産コストも安い。小さな企業であるからこそ、臨機応変、省ロットの生産にも対応ができ、顧客には問題点があっても正直に話し、事実を隠さないことだ」とドー。
そして将来の夢はとドーにたずねると、なんのてらいもなく、「世界的な企業となってグローバル展開をめざす、特にベトナム国内のみならず、世界にも打ってでる。なによりも労働者の幸せが大切だ」と語ってくれた。
実は社名のチャンブーとは、チャンがドーの姓、ブーがドーの妻の姓とをつなげてつくったそうだ。「奥さんはドーさんと一緒に働いているのですか?」という質問に対して、ドーは「いや、彼女はフランス語が上手でフランス系の外資企業で働いています」と答えた。ベトナムでは夫婦共稼ぎは珍しくない。工場を経営する夫に、外資系企業でバリバリ働く妻という組み合わせ。ドーは男女2児の父親だ。労働者のみならず、子どもたちを育てる上でも、これからも全力で働く経営者であってくれるに違いない。
文=新妻東一
チャンブーインダストリアル株式会社
TRAN VU INDUSTRIAL JOINT STOCK COMPANY
プロフィール
2015年ハノイ市ホアイドゥック県に金属加工工場、チャンブー・インダストリアル社創業。創業者はチャン・ゴック・ドー。ハノイ工業大学機械科に学び、日系企業に就職。5年働いた後、機械メーカー、包装会社を経て、9年前同社を設立。主な顧客は日系自動車・オートバイメーカー、韓国系家電メーカー大手。今後は海外輸出にも注力したいと意欲に燃える。