ベトナムでの飲食店経営の経験から食材調達プラットフォームを立ち上げた若きCEO

KAMEREO/田中卓インタビュー

 今回のBizmatchインタビューに登場するのは、2018年、飲食店向けにBtoBの食材調達プラットフォーム「KAMEREO」を立ち上げ、ベトナムのスタートアップでCEOを務める田中卓だ。1989年、静岡に生まれ、東京・江戸川区で育った31歳。彼がなぜ、今、ここベトナムにいて、テック企業を立ち上げることになったのか?ZOOMで話を伺った。

 「高校時代から将来は自分の会社を持ちたい、そう思っていました。20年、30年ひとつの会社に勤め上げるなんてイメージがわかなかった。大学も卒業生の多くが起業するといわれている慶応SFC、湘南藤沢キャンパスに進学しました。実際僕の大学の友人のほとんどが起業してます」と田中。

 卒業後、しかし彼は外資系の証券会社に就職する。2012年のことだ。「3年経ったら起業するつもりで入社しました。外資は新卒で入社しても給与が高いので、起業のためのお金を貯めることができますし、まだ若くても上場企業の社長に会って話をすることもできるんです。とても勉強になりました」と謙虚な一方、「上場企業の社長と多く面談する中で、自分にもできるかもしれないという根拠のない自信も沸きました」と人を呑むことも忘れない。

 成長したい、学びたいという思いの強い田中はこのままサラリーマンをやっていても、学ぶことは少なくなるし、そもそも証券会社は斜陽産業だ。平成元年に生まれた田中は生まれてこの方「好景気」を経験したこともない。日本は国民総生産(GDP)はフラットなまま、今後も成長は見込めないどころか衰退の兆候さえある。一度でいいから年6〜7%という経済成長というものを経験して、その場所で働いてみたいとの気持ちが募った。

 飲食業に興味のあった田中は世界中の飲食業についてネットで調べていたとき、あるブログが目に止まった。当時ベトナム・ホーチミン市レタントン通りの路地の奥で「Pizza 4P’s」を経営していた益子陽介のブログだった。経済発展著しいベトナムで日本人がビザ屋をやっている!

 Pizza 4P’sは元サイバーエージェントの益子陽介が2011年にホーチミン市ではじめたピザ、パスタを中心とするイタリア料理店だった。当時、日本人のみならず、ホーチミン市在住の外国人やベトナム人にも人気があり話題になっていた。

 田中は益子にメールを送った。ベトナムのPizza 4P’sで働かせてほしいと。早速スカイプで面接、とりあえずベトナムに来てみたらとの益子の誘いに田中は会社を休んでベトナムに飛んだ。

 「ホーチミン市はすごい活気があって、経済も伸びている。何よりも街の人々がみんな笑っていると感じました」という田中。すっかりベトナムに魅せられてしまった彼は外資系の証券会社を辞め、ホーチミン市の益子の懐に飛び込んでいった。益子のブログを読んでからベトナムに到着するまでたったの3ヶ月。2015年1月、田中、25歳の年だった。

 当時、Pizza 4P’sはホーチミン市に1店舗しかなかった。「当時、店はすごい人気で1日のうち午後6時から7時までの1時間は1分おきに1回予約の電話があるぐらい。100人から200人は予約をお断りしていました」

 「証券会社で働いていたときは会社は『指標』でみていただけでした、会社のなんたるかはわかっていなかったんです。会社経営でたいせつなのは実は人と人とのかかわりです。スタッフを採用してもどうやってモチベーションを高めるか、規律違反の場合のペナルティやインセンティブをどう与えるか、従業員同士のチームビルディングはどうしようか、など人事や労務に心をくだきました」

 この時期、Pizza 4P’sは外部の投資を受け入れてベトナム全土にチェーン展開を考えていた時期だった。彼はブログで「第2創業期」と位置付けている。2015年8月にはハノイ1号店出店のため、田中はハノイに飛んだ。

 「ハノイには2店舗、ダナンにも1店舗、Pizza 4P’sを出店しました。入社した当時には従業員40名でしたが、3年後には従業員は1000名近くになっていました」。Pizza 4P’sを他の仲間とともに短期間で発展させた経験を経て、田中には自信もうまれた。「同じことは自分にもできるのではないかと。根拠はないんですけどね」と照れてみせる。

 Pizza 4P’sは田中の在籍中に10店舗以上チェーン展開し、田中自身は飲食店の1から10を学ぶことができた。「当時ベトナム以外の第三国に出店するとの計画もあり、Pizza 4P’sに残るか、自ら起業するかまよいました」

 証券マンとして日本の大手飲食業をみてきた田中はPizza 4P’sで働くうち、ベトナムの飲食業のおかれている弱点を知った。日本の飲食業はその多くが大規模チェーン店で、卸売業者も大企業が多く、食材流通はシステム化されている。一方、ベトナムの飲食店、食材の供給元は中小零細の家族経営が多いうえ、体系化・効率化がなされていない。そのため本来、飲食店の店主がよい料理や店の質・サービスの改善など創造的な作業をする時間は仕入れのための雑用にとられていると感じていたのだ。

 「そこで食材の受発注業務を最適化する飲食業者向けのプラットフォームをつくってはどうかと考えました」そんなとき技術的に仕事をまかせられる人物と知り合い、彼を最高技術責任者にすえ、テック企業のスタートアップをはじめることを決断した田中。

KAMEREO LLC

 2018年、KAMEREO LLCを設立。当初は日本の「インフォマート」のような飲食店と食材のサプライヤーとの取引を電子化することを企図したが、最終的には自社倉庫も用意して飲食店向け「ネット業務スーパー」として機能させることにいきついた。取扱品目は700品目、顧客数はホーチミン市のみで400以上にもなっている。

 ただコロナによって飲食店は営業停止を余儀なくされている。今は飲食店のみならずファミリーマートなどの小売店にもKAMEREOを利用してもらい、コロナでの落ち込みをカバーしつつ、ハノイへの進出も視野に入れている。

 田中は「コロナ禍での事業の困難は、投資家から投資も受けて会社を運営しているので、当然プレッシャーもありますが、僕はあきらめていません。やるか、やらないかだけですね。根性論みたいですけど」と頼もしい。ベトナムNo.1の食材調達プラットフォームを目指す田中。彼がこの困難を乗り越えて、大きな実りを手にする日を楽しみにしよう。

文=新妻東一

KAMEREO/田中卓

田中卓(たなかたく)

プロフィール
1989年生まれ。慶応大学湘南藤沢校卒業後、クレディスイス証券に就職。2015年にはベトナム・ホーチミン市のPizza 4P’sに転職、COOとしてマネジメント、店舗の立ち上げを行う。2018年、KAMEREO LLCを設立し、代表取締役。
URL:https://www.web.kamereo.vn/

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