日本的経営を学び取り入れ、金属加工でアジア太平洋トップ5目指す/チュオンアン商事輸出入株式会社

 従来、ベトナムは、南部には繊維、製靴など俗に「糸へん」とよばれる軽工業が、北部には鉄鋼や金属加工業、いわば「金へん」企業が多い印象があった。今も金属加工業というと北部に立地している企業が多い。日系をはじめとする自動車・オートバイ組立工場が北部に多く立地していたからだろうか。
 そんなベトナム南部に立地する金属加工業者もある。今回紹介する企業、TAG社、チュオンアン商事輸出入株式会社はそのひとつだ。
 インタビューに応えてくれたのは、同社の営業担当ダイレクターのドアン・ズイ・ホアン。今回もZOOMを利用したリモート取材だ。胸にTAGという同社のロゴの入ったユニフォームを着て画面の向こうに現れた。

パイプ・配管、ケーブルトレイ/ラダーなど工場設備製造

 同社は2009年、ホーチミン市に設立された。当初は建築物に施す電気配線や通風、空調用パイプ・配管のサプライヤーとして事業をスタートさせた。2011年には金属加工機械を導入して工場を建設、工場設備の各種部品の製造を開始した。2013年にはケーブルラダー、ケーブルトレイの生産をはじめ、2017年からはベトナムにおける再生可能エネルギー開発ブームにのって、太陽光発電システムの設計、施工をも開始した。
 当初の工場用の建築資材の製造販売から太陽光発電設備の設計、施工にまで事業を拡大している点はたいへん意欲的だ。
 同社の主な製品、サービスは次の通りだ。
 電線・ケーブル類、あらゆる電圧レベル、用途に対応した電線、ケーブル各種を提供できる。使用する場所も住居、商業ビル、工場、インフラプロジェクトなどの建設ニーズにも対応している。
 パイプ・チューブ類は同社の得意分野でもある。電気配線から上水道、下水道用のパイプ・チューブ、それに関連する付属品の提供も可能だ。素材も鋼管などの金属製のものからPVC、PPRなどのプラスチック製など、用途に応じたものに対応している。
 2013年から供給を開始した、ケーブルトレイ・ケーブルラダーは同社の主力商品のようだ。ケーブルを保護し、安全に配線するため、建築物にとりつけるケーブルトレイ、ラダーは、電化とデジタル化が極度に進む現代社会においてはきわめて重要な建築資材のひとつだ。材質には亜鉛メッキ鋼、ステンレス鋼などを選択でき、プロジェクトごとの仕様にあわせた商品を提供できる。トレイ、ラダーの他にはダクト、ジャンクションボックスの取扱もある。

太陽光発電の設計施工も手がける

 ベトナムは2050年までのカーボンニュートラルを政策として掲げ、世界に宣言している以上、石炭、石油など化石燃料を用いた発電所はゼロを目指さざるをえない。従来の火力発電所が新設もままならないとなれば、ベトナムは再生可能エネルギーへと大きくシフトしている。
 その動きに対応して、TAG社は太陽光発電の設計、設置、運用、保守までの一貫したサービスを提供している。家庭用、工場向けから、さらに大規模な太陽光発電所まで、需要に応じた様々な規模のプロジェクトに対応しているとのことだ。
 同社は建築資材用の金属製品を生産するメーカーだが、環境に配慮した再生可能エネルギーに対する需要に応えて、すかさず太陽光発電の設計、施工までサービスすることも可能とするなど、とても先見性のある企業ということは、このことからもわかる。
 同社のホーチミン市内にある工場は、面積3,000平米、従業員数125名、年間の売上は1,500億ベトナムドン、日本円にして約8.5億円だ。

豊富な設備を有し、20〜25%は輸出

 工場には金属加工機械が豊富に揃っている。
 ユニストラット機、CNCレーザー切断機、パンチング機、CNCフライス機、せん断機、水圧プレス機、金属切断機、ベンディング機、CNC旋盤、ねじ圧延機など各種を複数準備している。ラダーやボルト・ナット、パイプストラップなど、様々な建設用資材・部品の製造に対応できる設備構成だ。
 製造キャパシティは、ケーブルラダー類換算であれば、年間8千トン、ボトル・ナット換算であれば、年間5千トン、パイプストラップであれば3千トンの製造が可能だ。
 ほかにも金型モールドの加工請負にも対応する。
 同社の主な取引先はベトナムの大手建設会社をはじめ、清水建設や日立製作所といった日系建設会社や、ジーメンズや韓国系の建設会社との取引もある。
 同社の製品は国内での販売はもちろん輸出も行っている。全体の生産量の20〜25%は輸出にまわしている。主な輸出先は、カンボジア、フィリピン、シンガポール、マレーシアといった東南アジア諸国だそうだ。旺盛な建築需要のある東南アジア各国は同社の製品市場だ。
 ISO9001:2015、ISO14001:2015など、現代の生産工場であれば当然取得しているべき各種証明書も取得済みだ。
 同社の社長・会長のドアン・ヴィエット・クオンも、今回インタビューに応じてくれた営業担当ダイレクターのホアンも、いずれもベトナム北部ナムディン省の出身だそうだ。
 ホアンはハノイの建築大学出身で、卒業後、南部に移住し、同郷の社長・会長が起業した会社に勤めたのだという。社長・会長のクオンは、同じくハノイの工科大学出身だそうだ。どちらも理系の大学としては優秀な学生を輩出し、ベトナムの産業界で多いにその人材が活躍している教育機関だ。

日本式経営手法を日本人材開発インスティチュートに学ぶ

 そして、同社の幹部はすべてベトナム日本人材開発インスティチュート(VJCC)にて日本式経営の研修、指導を受けているとのことだ。同社の経営は日本式経営が実践されている。このVJCCは日本とベトナム両国政府の合意をもとに国際協力機構(JICA)と外国貿易大学とが協力して設立された国際人材育成機関だ。ハノイとホーチミン市にそれぞれあって、ビジネス研修に加えて日本語教育や交流事業を行ってきた。2002年にハノイとホーチミン市に設立された「日本人材開発センター」がその前身だ。
 同機関は日本式の経営をベトナムの若き経営者たちに伝え、それがベトナムの産業の発展に寄与してきた。このセンターで学んだ経営者を何人も知っている。VJCCで日本式経営を学び、5Sやカイゼンを実践してきたベトナムの生産工場は数多い。同社もそのひとつなのだ。
 同社は早々にも機械・電気(M&E)の分野でベトナムでもトップ3の企業になるだけでなく、アジア太平洋においてもトップ5に仲間入りすることを夢見ている。部品メーカーから太陽光発電の設計、施工までを行う同社の意欲的な取り組みは必ずやベトナムで大きく花開くに違いない。

ドアン・ヴィエット・クオン社長

チュオンアン商事輸出入株式会社
TRUONG AN IMPORT EXPORT TRADING JOINT STOCK COMPANY

プロフィール

2009年、ホーチミン市に創立。創業者・社長はドアン・ヴィエット・クオン。工場設備用の各種部品製造。パイプ・チューブ、ケーブルトレイ・ラダーから太陽光発電設備の設計施行まで手がける。業界でベトナムトップ3を目指すのみならず、アジア太平洋でもトップ5目指す意欲的な会社だ。

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新妻東一Sanshin Vietnam JSC マネージングダイレクター

投稿者プロフィール

1962年東京出身。東京外国語大学ベトナム語科卒。貿易商社勤務、繊維製品輸入を担当。2004年ベトナム駐在。2010年テレビ撮影コーディネートと旅行業で起業。

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