プラごみが海洋生物に与える影響を減らすため生分解性ストローで起業/株式会社ヴィナフット

 私の妻と子どもはタピオカミルクティーが大好きだ。よくデリバリーや店舗で購入して、家に持ち帰って飲んでいる。最近ではコップは紙製だが、蓋やストローはいまだプラスチックであることが多い。デリバリーでフォーなどの麺類を頼むことも多いが、こちらは紙製もあるが、やはり多くはプラスチック製の容器に入っている。特にデリバリーはコロナ禍で大いに発達し、レストランの料理まで運んでくれるように便利になってはいるものの、使い捨ての包装なので、ゴミが増えるとあっては、素直に喜べないのが実情だ。
 プラスチックゴミは適切に焼却あるいは埋め立て処理されていなければ、街中のポイ捨てゴミは河川を通じて海洋に達し、海を汚染する。そして、海洋生物の生存を脅かす。海洋を生活の場所とする大型の哺乳類や海亀などがプラスチックゴミを取り込んで死亡しているのが発見されるのは氷山の一角に過ぎない。
 プラゴミはまた海流や波の作用によって細かく砕かれ、マイクロ・ナノプラスチックとして海洋を漂い、小型の生物にとっても脅威となるばかりか、それを再び口にいれる人類への影響も未知のものだ。
 「サイエンス」誌2015年2月号によれば、陸上から海洋に流出したプラスチックゴミの発生量(2010年推計)を人口密度や経済状態等から国別に推計した結果、ベトナムは、チュ国、インドネシア、フィリピンについで発生量で第4位という不名誉な結果となっている。推計値では年間28〜73万トン。
 ちなみに日本は年間2〜6万トンで30位だ。だからといって少ない量ではない。日本は一人当たりの廃棄量において米国に次ぐ世界第2位とされており、プラスチックゴミそのものの廃棄量においては、これまた不名誉な結果となっている。
 だが、ベトナムも手をこまねいているばかりではない。最近になって、ストローはプラスチックにかわる素材に置き換わりつつある。金属や竹などを利用したリユース可能なものから、紙や中空の草の茎を利用した文字通りのストローまで誕生し、レストランやカフェなどで使用されているのを見かけるようになった。

 今回ご紹介する株式会社ヴィナフットは、ベトナムではじめて穀物デンプンから作られた生分解性ストローの研究・開発、製造、供給を行う企業だ。ハノイ市に本社があり、ハノイ市郊外に工場を有している。
 創業者はチャン・ディン・カイン。彼は金融など別の仕事をやっていたが、海が好きで、よく遊びにいっていた。そして、そこでプラスチックによる海洋汚染による生物への悪影響を知る。
 なかでもプラスチック・ストローはベトナムだけで年間80億本も一回使用しては再生されることなく捨てられている。そのことに心を痛めたカインは、2019年にプラスチックを代替する穀物デンプンによるストローの生産を思いつき、2021年には同社を立ち上げた。
 製造機械を輸入し、原料を仕入れ、製造をはじめるが、当初は思うような形に仕上がらず、潰れたり、ひしゃげたり、成形ひとつでも困難だった。思う形に仕上げることができるようになったのはついこの間のことだと語るカイン。

 同社の生分解性ストローは、穀物といっても小麦由来のものは用いず、グルテンフリーをうたっている。着色料も天然由来のものを使用し、保存料などは一切もちいていないという。食べても問題ないと、私の目の前でカインは商品をかじって食べて見せた。
 米国食品医薬局(FDA)の登録や、ベトナム保健省のテストにも合格している。
 紙製のストローは、少し時間が経つと柔らかくなってしまうので、たとえ環境にやさしいとしても、使用するのをためらってしまうのだが、同社の製品はどうだろうか?と若干いじわるな質問をした。
 カインはその問いに答えて「当社の穀物デンプン製のストローは水に濡らしても最低2時間は水で柔らかくなることはない」と断言した。同社のホームページにも最長8時間は水によって形状が変化することはないとうたわれている。
 ベトナムでは、プラスチック製のストローはスーパーや通販などで一本80〜100ベトナムドン程度で売られている。一方、同社の穀物デンプンストローは一本460ベトナムドンで、およそ4〜5倍の価格になってしまう。いくら環境によくても、コストが5倍となっては消費者がついてくるのだろうか?と心配になってしまう。
 同社のウェブサイトを見ると、それは杞憂のようだ。

 時代はエシカル消費の時代だ。消費者自身が環境にやさしい商品を選択する時代だ。そうした顧客を相手にするホテルやレストランは提供する使い捨て商品にあっても生分解プラスチックを使用するなど、自社が意識の高いことを顧客に売り込む必要がある上に、その環境に対するコストを顧客に負担させることもいとわないだろう。
 いわゆる富裕層を相手にしたインターナショナルなホテルチェーンやレストランがこぞって同社のストローを利用していることは、同社のウェブサイトの取引先一覧をご覧いただければ納得するはずだ。
 これらのホテルのレストランで、穀物デンプンストローや草でできたストローを使用しているのを筆者も実際に確認している。
 こうしたトレンドが一般の消費者にも理解されるようになれば、プラスチック製品を代替する穀物デンプンストローなどの商品がもっと売れるようになるに違いない。
 もちろん企業側のコストダウンの努力もおこたってはならないだろう。さもなければ、コストの高さゆえに、いかに環境にやさしくとも市場で生き残ることができないかもしれないからだ。
 同社の穀物デンプン製品なら3ヶ月もあれば自然に還る。しかしプラスチック製品であれば、埋め立てなどの適切な処理がなされずに環境中に排出すれば、巡りめぐって海洋のゴミとなり、半永久的に海を漂うことになってしまう。焼却すれば、化石燃料を燃やすのと同様、二酸化炭素が大気中に排出され、温暖化の原因となる。そもそも使い捨てのプラスチック製品は製造されないことが望ましいともいえる。
 ストローに使用されるプラスチックの量はわずかかもしれないが、使い捨てプラスチック製品としては、ある意味象徴的な商品であり、消費者の一部でもその使用を拒み、代替商品である穀物デンプンストローを選択するようになる、それをきっかけに使い捨てプラスチックの使用全体を避けるようにならないかと、そうカインは考えているようだ。
 海を愛し、プラごみが生物に与える影響に心を痛める彼のように、同社の製品をぜひ自社のサービスに取り入れていただけるようホテルやレストラン、カフェなどで検討をお願いしたいものだ。

株式会社ヴィナフット
Vinahut Joint Stock Company

プロフィール

2021年ハノイに創業。創業者兼現社長はチャン・ディン・カイン。海洋生物にあたえるプラスチックゴミの影響を知り、穀物デンプンによるストロー生産を思いつく。2019年から計画し、2021年に創業。当初は失敗が続いたが、現在は有名ホテルチェーンやレストランに自社の製品を納めている。

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