野生ゾウの棲むヨックドン国立公園とベトナム最大のコーヒー産地、二つの魅力

今回ご紹介するのはベトナムに長期間暮らすようなひとでもこの地を観光に訪れる人はとても少ない場所です。観光地としての魅力は十分なのに観光開発が進んでいないため、ベトナム観光の穴場でもあり、これからはぜひ多くの人に訪れてほしいとお勧めしたいのがベトナムの中部高原の省、ダクラクです。

 ホーチミン市からダクラクの省都バンメトートまでは空路1時間で到着します。

 この地はかつてチャンパ王国とクメール王国とが領土を争った土地であり、19世紀半ばにグエン朝の領土とされたことでこの地がベトナムの領土となりました。

 20世紀のはじめフランスはこの地が標高500mの熱帯の高原であり、コーヒーの生産に適していることからコーヒーをはじめとするプランテーションの開発に乗り出します。

 ベトナム戦争中にはカンボジアと国境を接しているところから、軍事上でも重要な地点となり、米軍・かいらい政権軍と解放戦線、いわゆるベトコンとの戦争の激戦地でもありました。

 1975年北部から南部への侵攻が開始されますが、その際に南部省の仲でもまずダクラク省の省都バンメトートが「解放」されたのが3月10日です。以後、南ベトナム政府軍はなだれをうつように敗北し、4月30日にはついにサイゴン、現在のホーチミン市が「解放」されます。

 ダクラク観光の魅力として二つご紹介します。一つはゾウをはじめとする野生動物、もう一つはコーヒーの産地としての魅力です。ではウェブ誌上でのダクラク観光にご案内いたします。

ヨックドン国立公園は野生ゾウの生息地

ヨックドン国立公園の熱帯林
ヨックドン国立公園の熱帯林

 タイにおいてゾウは王権の象徴であり、ブッダの生まれ変わりとされ、大切にされています。でもベトナムにはあまりゾウのイメージはありません。しかしフエなどの観光地ではゾウの背中に乗る体験、エレファントライドができる場所もありますし、古く紀元1世紀には後漢に対して反乱を起こしたチュン姉妹はゾウにまたがり馬援の軍隊と戦う姿が版画などの主題になっています。また、江戸時代八代将軍吉宗の時代に将軍に献上されたゾウはクアンナム(広南)すなわち現在のベトナム中部からやってきました。ベトナムはゾウと繋がりの深い国だったのです。

 ベトナムにおける野生ゾウの生息地としてはダクラク省にあるヨックドン国立公園が有名です。

 ヨックドン国立公園は1992年に設立され、ベトナム第2位の広さをもつ国立公園です。落葉フタバガキの熱帯雨林で覆われ、野生動植物の宝庫でもあります。ダクラク省とダクノン省の二つの省にまたがり、西側はカンボジアと国境を接しています。

 哺乳動物89種、鳥類305種、両生類16種、爬虫類48種そして植物は858種、数百種の淡水魚、数千種の昆虫が生息しています。その多くが国際自然保護連合(IUCN)が作成した絶滅危惧種リスト(レッドリスト)に掲載された動植物種です。

 中でも野生のアジアゾウは近年の乱獲で絶滅の危機に瀕しています。WWFの調査でもこの40年間にダクラク省におけるゾウは激減しており、ゾウの保護のための行動を何も起こさなければこの数年間に絶滅するであろうと言われています。

 ヨックドン国立公園によると公園内のや野生ゾウは50〜60頭が確認されており、群れを作り公園内を移動し、カンボジア側の野生林へも移動することもあるようです。

 公園には多くの森林検査官が働いており、違法な自然林伐採を取り締まると同時に野生動物の保護にも当たっています。長期にわたり森林深くのステーションにとどまって、木材の盗伐者や動物の密猟者が森に立ち入ることのないように見張っています。

 ヨックドン国立公園はかつてエデ族がゾウを狩る場所でもありました。彼はゾウを捕らえて家畜化し、伐採した材木を運搬させるなどの使役に用いていました。 中でも誰よりも多くゾウを捕らえることのできた人は「ゾウ狩り王」と尊称されました。2012年に亡くなった最後の「ゾウ狩り王」アマコンは103年の生涯にわたり298頭のゾウを捕まえ家畜化しました。

ゾウ狩り王の墓
「ゾウ狩り王の墓」

 現在家畜化されたゾウたちは観光客を背中に乗せて川を渡るサービスに利用されています。近年、ゾウや野生動物の「福祉」向上が世界的に叫ばれるようになり、長年実施されていた国立公園内でゾウの背中に乗ってジャングルをめぐるエレファントライドは禁止されました。代わりに家畜化されたゾウたちをジャングルに放ち、自然の姿に戻して遠くから観察し、写真に撮影するサービスを国立公園は提供しています。野生のゾウに遭遇するのは森林検査官でもまれであるとされていますので、観光で訪れてジャングルに入ってもまず野生ゾウを目にすることはできません。こうしたサービスを利用することで野生ゾウの保護について考える機会となることが期待されています。

 他に国立公園ではジャングルウォークや小舟でセラポック河を渡るツアー、エデ族の料理を学ぶコース、バードウォッチングなども楽しめます。

 ヨックドン国立公園まではバンメトート市内からであれば40km、車で1時間強の距離にあります。ベトナムの都市で観光やショッピングを楽しむ以外に自然、動植物に親しむツアーでリフレッシュするのはいかがでしょうか。

コーヒー世界第2位の生産国ベトナム、その最大の生産量を誇るダクラク省

ベトナム・ダクラク省のコーヒー生産

 ベトナムはブラジルに次いで世界第2位のコーヒー生産国ときいて意外に思われるかもしれません。中南米やアフリカには日本でも有名な産地があり、日本ではその国名や銘柄でコーヒー豆が売られていますが、ベトナムの名前を聞くことはあまりないからです。

 それにはベトナムで生産されているコーヒーの種類がロブスタ種と言って、私たちが日本で飲むコーヒーの種類であるアラビカ種とは異なり、単品で飲むことが稀な種類を生産していることにあります。

 ロブスタ種の歴史は比較的浅く、1895年にコンゴで発見され20世紀に入って普及がはじまった比較的新しいコーヒーの品種です。特徴はアラビカ種に比べ病気に強く、生産効率も良く、熱帯高地でしか育たないアラビカ種に比べて500m程度の低地でも生産ができます。ただアラビカ種に比べて苦味が強く、単品で飲むには味が落ちると言われています。ロブスタ種には独特のコクがありますので、ブレンドコーヒーやインスタント・缶コーヒーにアラビカ種と混ぜて用いられています。

 ベトナムでは19世紀半ばにフランス人宣教師がコーヒーを導入しましたが、主に北部紅河デルタ、ついでタインホア、ゲアン省で生産を行い、品種もアラビカ種であったため、うまくいかなかったようです。

 20世紀に入ってフランス人たちはロブスタ種を導入、コーヒーの生産に適した中部高原に開発を進め、ダクラク省には当時最大のコーヒープランテーションを設立しました。

バンメトート・ダクラク省博物館のコーヒーの展示
バンメトート・ダクラク省博物館のコーヒーの展示

 ベトナムのコーヒー産業は長引く戦争で発展が遅れましたが、1976年の南北統一以降、人口の少なかったダクラク省をはじめとする中部高原に他地域からの入植がはじまり、1980年代にはコーヒーの生産が奨励されました。1990年代には世界でもコーヒー生産で第2位を占めるほどになり、現在に至っています。ダクラク省でのコーヒー生産はベトナム全土の生産量の60%を占めています。

 ダクラク省へ入植し、コーヒー栽培をしていた両親に産まれたダン・レー・グエン・ヴーは医大に進学したにも関わらずコーヒー販売で起業するために退学し、1996年コーヒーショップをはじめました。現在はベトナム全土にコーヒーショップ「チュングエンコーヒー」を展開、コーヒー豆と製品を世界60ヵ国に輸出、「G7」ブランドのインスタントコーヒーの販売も行うまでに成長しています。

 バンメトートにはチュングエンコーヒーの経営する「コーヒーヴィレッジ」があります。世界コーヒー博物館、コーヒー園でコーヒーについて学び、コーヒーショップで挽きたてのコーヒーを味わい、お土産にコーヒー豆を購入することもできます。

 バンメトートでは2年に1回、3月に「コーヒーフェスティバル」も開かれ、同時にヨックドン国立公園に近いブオンドンではゾウのレースも行われます。コロナ禍にあったため2021年には中止となりましたが、コロナが終息すれば再びフェスティバルが再開されます。ダクラク省のゾウとコーヒーを共に楽しむなら、このフェスティバルに参加してみてはいかがでしょうか。

文=新妻東一

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