残留農薬・重金属のないクリーンなハチミツを開発し、製造・販売/ズオンザーK&Tバイオテクノロジー株式会社
- 2024/10/25
- ベトナム企業インタビュー
われわれ日本人には、ベトナムがハチミツの産地だといってもピンとこないのではないだろうか。
ベトナムはしかし年間6.4万トンのハチミツを生産し、そのうちアメリカにこれまた年間5万トンも輸出しているのだ。アルゼンチン、インド、ブラジルなどと並んでダンピングの疑いで米国から懲罰的な関税をかけられているほどなのだ。
そしてその産地はベトナム中部高原ダクラク省が中心だ。多くの方が意外に思われるだろう。
ベトナム国内でも様々なハチミツが売られている。日本ではレンゲやニセアカシアなどの蜜源から集められた花蜜のハチミツがよく知られているが、ベトナムではコーヒーやライチーの花蜜を集めて作られたハチミツが売られている。コーヒーの花のハチミツは、どこかコーヒーの香りがするようにも思われ、独特な味わいがある。ハチミツ好きな方にはベトナム独特の花蜜のハチミツを試してもらいたいものだ。
ハチミツと人間の歴史は古い。スペイン東部アラニア洞窟には紀元前6000年前に描かれた崖によじ登り、洞窟にある蜂の巣からハチミツを採取する人間の姿が描かれている。巨大なハチが人間の周囲を飛び回り、ハチミツを手にするのは危険を伴う行為だったことがわかる。
19世紀なかばに今あるような近代養蜂が開発されるまでは、蜂の巣を見つけては、巣からハチミツを搾る方法でしか、人類はハチミツを手にすることができなかったのだ。
近代養蜂によって人類はハチミツを豊富に生産し、消費するようになった。ベトナムは世界的な産地の一つだ。
今回のベトナム企業インタビューはハチミツ製造メーカーを経営する社長のズオン・ミン・タムにお願いをした。彼は、ハチミツの産地であるダクラク省の出身だ。今回もZOOMによるリモート取材であることをお断りしておく。
タムは、同社の社長であると同時に量子活性化ハチミツの開発者でもある。彼によれば、ベトナムは1990年代に入って、ドイモイ政策と全方位外交に転換し、農産物を輸出するようになって、経済が上向きになった。しかし、生産効率を考えるあまりに農薬を大量に使用し、その農薬が農水産物に残留して、欧米や日本などの先進国には農水産物を輸出できないような事態に陥った。
農薬以外にも重金属や抗生物質なども農水産物に残留して輸出がストップするケースもあった。農水産物のみならず、ベトナムが即席ラーメンを輸出したところ、輸入国の検査で、その国での使用が認められていない添加物を使用していたことで、輸入が停止するような事態にまでなっている。
農産物の輸出にあたっては、目にみえる狭雑物のみならず、農薬や重金属、抗生物質など、人間に有害な化学物質を取り除く、あるいは、使用しないことで製品の品質を守らなければ、農産物の輸出もままならない、そう確信したタムは、生産においてはなるべく農薬を使用しない農場で、その花蜜を集めたハチミツから農薬や重金属を取り除く技術の開発に努めたという。
スイス・ヌーシャテル植物園の研究者が全世界的な調査したところ、世界から集められたハチミツの75%は農薬に汚染されていると、ある科学雑誌に発表された。
ハチミツは通常、フィルターで濾過することで、狭雑物をとりのぞく。ハチミツには加熱処理は認められていないので、微生物や細菌を完全に取り除くことはできないばかりか、農薬、重金属、抗生物質などはそのままハチミツに残留してしまう。
特に農薬を人力で散布する時代はまだよかったが、ドローンを使用して農薬を散布するようになると、果樹などに大量の農薬が散布されるため、ハチが集めた花蜜にも農薬が残留することになる。
このことから、タムは10年にわたり、クリーンなハチミツ生産のための技術について研究し、「量子活性化」という方法を編み出し、残留農薬も重金属も除かれたハチミツをつくりあげた。名付けて「量子ハチミツEZ」。
化学的な、あるいは加熱による処理ではないないため、ハチミツが本来もっている滋養を損なうことなく、クリーンなハチミツが出来上がった。タムはこれを広く販売したいと考えている。工場もまだ400平米と小さなものだが、投資家を募って工場を拡張したいと夢を語るタム。
彼の出身地であるダクラク省のもう一つの特産はコーヒーだ。タムはコーヒーからも「汚れ」を落とし、安全・安心に飲めて、かつ、味もよいというコーヒーを生産している。こちらは「超音波コーヒー」と名付けた。
コーヒーには様々な「汚れ」が付着している。それらはコーヒーを飲むと胸焼けがするとか、胃もたれするなどと言われるが、その原因は、コーヒー豆に付着している「汚れ」に起因するのだとタムは指摘する。
ただ、コーヒー豆を焙煎前に洗浄するのはよいとして、化学的な、たとえば洗剤を使って洗ってしまってはもともとのコーヒー豆の品質が台無しになってしまう。
そこで物理的な方法、すなわち超音波洗浄をしてはどうかと思いつき、仕入れたコーヒー豆を超音波で洗ってみたのだという。
すると見た目にもなめらかなコーヒー豆ができあがる。それを焙煎して飲むと、コーヒー豆本来の味がするコーヒーが味わえるのだそうだ。
ハチミツの方は実際にタムから送られてきたものを試食してみた。まず、ハチミツ瓶の蓋をとって、スプーンですくうと、通常のものよりとろりとして、なめらかだ。実際に口に運んで味わってみると、ハチミツのしっかりとした甘味がある。琥珀色の、透明感のあるハチミツだ。
冷蔵庫にいれて保存しても「量子ハチミツEZ」は結晶化しない。結晶化そのものは悪いものではないとされているが、しかし、ハチミツを冷蔵庫で保管する家庭も多いはずで、結晶化したハチミツを使用前に湯煎するなどして、溶かして使うのは面倒だから、この点でもこの商品のメリットはあるといえよう。
「超音波コーヒー」も試してみた。見た目は普通のコーヒーと変わりがない。豆の種類はロブスタ種。日本人になじみのあるアラビカ種とは風味が異なる。そのロブスタ種の超音波コーヒーを挽いた粉を一人分のベトナム・コーヒー・フィルターで淹れて飲んでみた。
ロブスタ種なので、ブラックで飲むのには不向きだが、口に含んでみると、わずかに甘味のあるすっきりとした味わいだ。もちろんこれに砂糖をいれるか、あるいはコンデンスミルクを加えて甘くして飲むベトナムコーヒーにはぴったりだ。
タムは投資資金を集めて、新たな工場を建設し、年間3〜400トンのハチミツ生産を目指すのだと豊富を語る。
安心・安全でクリーンな農産物をつくり、ベトナムの農産物輸出に貢献したいというタムの心意気には共感しかない。
文=新妻東一
ズオンザーK&Tバイオテクノロジー株式会社
DUONG GIA K&T BIOTECHNOLOGY JSC
プロフィール
残留農薬、重金属が含まれていないクリーンなハチミツの生産のための技術開発に2009年に取り組み10年。同社の創業者、ズオン・ミン・タムは「量子活性化」技術を開発、残留農薬、重金属を取り除いたハチミツを製造、販売。加えて超音波によって洗浄したコーヒー、「超音波コーヒー」も開発、このほど販売を開始した。残留農薬や重金属の含有でベトナムの農産物が輸入国で受け入れられないことに対するソリューションを提供する。