縫製業を家業とする家に生まれ、自身もアパレルメーカーを率いる女性社長/LNK縫製
- 2023/04/20
ベトナムの繊維縫製業についての歴史(筆者体験談)
縫製繊維産業といえば加工貿易
私(新妻東一)がまだ貿易商社の社員だった1990年代。ベトナムの繊維縫製業といえばほとんどが加工貿易といわれる形式だった。当時、私は日本製または台湾製の毛糸をベトナムに送り、中部高原ダラットの女性たちに内職で子供用のセーターを編ませていた。
デザイン、仕様は日本のアパレルメーカーが提供、毛糸は日本の商社から延べ払いで提供し、輸出後は加工賃のみをベトナムの輸出業者に支払う形で取引をすすめた。
豊富な労働力と加工賃の安さ
当時、ベトナムではまだ毛糸は生産されていなかったが、豊富な労働力があり、かつ、ダラットのような地方では農林業以外の産業はなく、加工賃も安かったため、手編みのセーターを安価に手にいれることができたのだ。輸入された製品はデパートや量販店に販売された。
ただ、手編みのために商品の品質にバラツキがでる。頭が入らない、クマやウサギの意匠だが、目が吊り上がっていてかわいらしくない、など、思いもかけないクレームを前に輸出前検品にも苦労した。
ベトナム経済の発展とともにFOB契約へと変化
加工賃の上昇に伴い、縫製品輸入が下火になる
時代はくだってベトナム経済も発展してくると、加工賃も上昇する、原料となる系や生地、副資材をすべて海外から送っていたのではコストがかさみ、最終製品となった場合の価格で、他国との製品との競争に負けてしまうという事態も発生した。
そこから加工賃契約による縫製品輸入は下火となり、原料となる生地や副資材をなるべくベトナムで調達し、それを縫製、加工して輸出する形態へと変わっていった。
FOB契約の普及
後者を業界ではFOB契約と称した。買手のデザイン、仕様にもとづいて原料・副資材を工場側が手配し、縫製、加工してFOB(Free on Board)、すなわち船で輸出する場合は輸出船への積込費用込みの価格で輸出することを意味した。
問われるベトナム縫製工場の能力
FOB契約の難しさ
ただベトナム側の縫製工場に生地・副資材の調達能力や納期、コスト管理能力が問われるし、原料を購入して輸出するまでの資金負担能力も問われることになり、加工賃契約で成功した工場や会社であっても、すんなりとは転換できないケースもあった。
私もポロシャツや肌着などを扱った。ベトナムの取引先工場に加工のための機械を提供したり、技術供与も行なった。急激な原料高や金利高で原料調達が滞ったり、輸出した船舶が「海賊」や台風に襲われるなどして納期通りに量販店に収めることができず、バイヤーに頭をさげにいくこともあった。
縫製企業への取材
繊維の開発輸入に四半世紀も携わってきた著者にとって、縫製企業の取材はテンションが上がらざるを得ない。今回ZOOMによるリモート取材をうらめしく思ったことはない。
そう、このベトナム企業インタビューはコロナ禍にはじまった取材なので、リモート取材を売り物にしているからだ。縫製工場の工場見学ができないのは本当に残念だ。
創業者ヴ・ティ・ニュン氏にインタビュー
父親、母親、兄妹たちもみな縫製業を営んでいる
今回、インタビューに応じてくれたのはLNK縫製有限会社、ハノイに2019年創業の企業だ。創業者であり社長でもあるヴ・ティ・ニュン氏にお話をうかがった。
彼女は父親も母親もみな縫製業をやっている家に生まれた。「私の兄弟たちもみな縫製業を営んでいるのよ。いわば家業のようなものね」という。本当に縫製業が好きなのだろう、それを嬉しそうに語る。
ニュン氏の縫製企業でのキャリアについて
彼女はマーケティングや経営学を学んだのち、2005年には縫製企業でのキャリアを開始する。彼女の仕事のポジションは営業だった。
2013年にはFOB、つまり顧客からデザイン、仕様を受け取り、自前で原料、副資材を自ら調達し、縫製、加工を施し、直接輸出するスタイルの縫製業を友人と二人で起業した。「当時はまだ加工貿易が主流で、誰もFOB契約なんかできる企業がほかになかった時代ね」そう語るニュン。
2019年には自分自身の会社を創立。社名「LNK」の由来をニュンに尋ねると「私と夫、そして子供二人の頭文字からとったの。なぜ3文字かって?それは私の息子と私の名前の頭文字が同じNだからね」とニュンは笑う。
LNK縫製有限会社について
LNK縫製有限会社の特徴
加工貿易契約ではなくFOB契約での取引にこだわっている。
ただし彼女の会社では縫製工場はもたない。企画と販売の人材を備え、自社工場をもたない、いわゆるアパレル・メーカーだ。そのため従業員は12名、デザイナーにサンプル担当、技術やQC担当、そしてセールスを備えているという。
主な委託工場は4工場あり、生産する商品、素材によってそれぞれ得意、不得意があるので、使い分けてもいる。もちろんこの主力4工場以外にも委託することもある。
生地としてはニット、布帛いずれにも対応し、ジャケットやパンツ、スラックスなどのアウターを得意としている。ただし水着の縫製には対応していない。
主な輸出先、取り扱いブランド
主な輸出先は、米国、フランス、イタリア、英国、韓国などだ。
これまで扱ってきたブランドとしては、フランスの子供服ブランドのSergent major、Cyrillus、Kidliz、トラベルウェアのAnatomie、Worle Padel Tour、英国のGo Outdoorsなど欧州各国の有名アパレルメーカーとの取引実績がある。
取引先との信頼築く:認証の重要性とは?
認証を必要とする取引先には認証を受けた工場に委託する。たとえば、BSCI(Business Social Compliance Initiative)といった行動規範認証である。
このBSCI認証は日本ではまだなじみがないかもしれないが、世界標準の人権に従って職場の状態を改善することを目的とした行動規範であり、イオンなどの日本の量販店なども国際化、グローバリゼーションに伴って、その認証を海外のメーカーにこうした行動規範を求めるようになっている。
日本企業との取引が品質の証明書に
日経企業との取引に期待
残念ながら同社は「まだ日本企業とは縁がなくて取引にいたっていない」とのことだが、しかし、日系企業に対する期待は大きい。
「日系企業はアパレルでも小売でも品質要求は極めてきびしく、世界一といっても過言ではありません。もし日系企業との取引が可能となれば、そのことがまさに当社にとっての品質の『証明書』になりうるんです」そう語るニュン。
是非、LNK縫製へご相談を
ぜひこの記事を読まれた読者で、アパレルや小売企業の方はハノイにあるLNK縫製の扉を叩いてほしい。経験豊富な社長のニュンとそのスタッフたちが適切な工場を選び、思い通りの製品を提供してくるにちがいない。
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LNK縫製有限会社 社長 ヴ・ティ・ニュン氏
プロフィール
2019年ハノイに創業。社長はヴ・ティ・ニュン。一族はすべて縫製業に携わっている。2005年から縫製業に関わり、2013年からFOB契約の縫製工場を運営、現在は工場をもたないアパレルメーカーとして欧州を中心に縫製品を輸出。子供服などに強み。日系企業に取引先を求めている。
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