「前世はベトナム人?!」カカオパークでカカオ農場体験とこだわりチョコの販売

Binon Cacao Park/遠藤亜矢子インタビュー

 カカオ。中南米原産、赤道をはさんで南北緯20度以内の高温多湿の熱帯地方でしか生産できないと百科事典にはある。言わずと知れたチョコレートの原料だ。全世界での年間生産量は480万トン。ベトナムの生産量はそのうち5.5千トンに過ぎない。ただ多くの専門家はベトナムカカオの品質は優れていると口をそろえて評価する。

 そのベトナムのカカオに魅せられてしまい、その魅力を多くの人に知ってもらおうとベトナム南部バリアブンタウ省にカカオ農場「Binon Cacao Park」をオープンした女性がいる。遠藤亜矢子、彼女が今回インタビューに応えてくれた。

 彼女のカカオ農場はホーチミン市から車で1時間半ほどの距離にある、と書きはじめたいところだが、筆者は実際にこの農園を訪れたことがない。コロナ感染の急拡大のためにベトナム国内も移動は制限されているので仕方がない。同社のウェブサイトに掲載された動画でがまんしよう。

 遠藤とベトナムとの出会い。それは大学でベトナム語を専攻したことにはじまる。なぜベトナム語を?と尋ねると「ベトナムは政治的に安定していますし、宗教は仏教、日本との共通点もある。父親もベトナムの経済発展が期待できるとベトナム語専攻を勧めてくれました」というしごくまっとうな答えがかえってきた。

 「あ、でも私は前世がベトナム人(?)だった、と思っているんです。留学中に訪れた南部ヴィンロン省のメコン川の支流に佇んだ時にふと自分は以前ここに暮らしていた、って思ったんです。川があり橋がいくつもあって、フェリーで川をわたらなければたどりつけないようなところですけど」はじめて訪れた場所なのになぜか懐かしさを覚えた経験は私にもある。遠藤はそれを自分の前世の記憶だというのだ。

 卒業後、大手の旅行会社に就職。配属されたのはヨーロッパ担当するチームだった。欧州各国についても学び、仕事そのものも楽しかったが、なにか物足りなさも感じてもいた。大学で習ったベトナム語を使って、ベトナムとの仕事をしたいと思うようになっていた。

 20代後半、彼女は旅行会社を退職し、ベトナム関連の商社勤務を経て、ベトナムにも支社がある人材コンサルティング会社に自らの居場所を見つけた。「大手の会社は安定していますが、自分は会社の歯車の一つに過ぎないなとしか感じられませんでした。ベンチャー企業ですと、同世代の若い人たちがワイワイやっている感じでやりがいもありました。新規事業提案も自由にできる空気でした」と遠藤。

 34歳、遠藤は結婚し、夫のベトナム勤務に同道してベトナムにいきたいと考え会社に申し出た。「その機会に新規事業を立ち上げてほしいといわれたんです」

 彼女が手がけたのはレンタルオフィス事業。とにかく任された仕事は「楽しかった」という遠藤。事業を一から立ち上げて拡大し、成功させる喜びも知った。黒字化も果たした。「この時の苦労と喜びが今のBINON立ち上げに大きく役に立った」と振り返る。

 ベトナム滞在5年目。夫の帰任が決まる。そこで彼女は逡巡した。このベトナム経済の発展スピードの中で新しい何かができないか、と。

ベトナムのトロピカルフルーツ

 自分で事業を立ち上げた経験から多少の自信もあった。友人からも一緒にやらないかと誘いもうけた。彼女は40歳にして起業を決意する。新たに興した企業は海外進出や営業支援を行うコンサルティング会社とベトナムのこだわり素材を使用したジェラート(アイスクリーム)ショップをホーチミン市にオープンした。2016年のことだ。

 ジェラートショップではベトナムのトロピカルフルーツなどこだわりの地産地消の素材を使用しているのが「売り」だった。「そのショップの一番人気はチョコレートのジェラートでした。実はわたし自身、チョコはそれほど好きなわけではなかったのですが。原料であるカカオがベトナムで生産されていることをその時はじめて知り、ポテンシャルを感じました」

 カカオに出会った遠藤はベトナムにあるカカオ農園を巡り歩いた。カカオの果肉、カカオパルプの甘さ、カカオ豆からチョコレートになるまでの工程、知れば知るほど魅力的な食材だった。

 ただカカオは市場価格に左右され、虫害や災害にも弱かった。カカオ農家は零細が多く、手間がかかる割には収益の少ないカカオから、もっと収益のあがる農産物への転作が多いとも知った。農家から適正な価格でカカオを購入し、ベトナムのおいしいカカオをブランディングして世界に広めたい!との思いからカカオを日本に輸出するための貿易商社も設立した。

リアブンタウ省のビノン・カカオパーク

 そして2019年5月、バリアブンタウ省にビノン・カカオパークを設立。ベトナムのカカオのことをもっと知ってもらうためにはカカオ農場とチョコレート製造の体験ができる場所を設け、国内外のお客様を集客し、認知度をあげ「ビノン」ブランドのチョコレートを販売しようと目論んだ。

 「2年前、3ヘクタールの土地に800本のカカオの木を植えました。しかし植えていた樹種は生産性が低いものだとわかったので、そのうち600本は思い切って根元を残して切り倒し、別の生産性の高い樹種を接木して、来年の収穫に備えています。ちょうどコロナでお客様がいない時期ですので、思い切りました」と事業家としての果断さも備えている遠藤。

 コロナが感染が再び拡大、国内外の観光客がいつ戻ってくるかも見通せない状況にあり、遠藤いわくカカオパークは「なにもできない状況」だ。その中でも彼女は挑戦をつづけている。ひとつは日本の良品計画「MUJI」ベトナム一号店で自社商品を取り扱ってもらえるようにしたこと、またホーチミン市でのチョコレート直営店店「Binon Saigon 」Kitchenも設置した。直営店ではネットでの注文も受け付けるほか、キッチンでチョコレートを使ったケーキや焼き菓子も製造販売し、ホーチミン市内であれば宅配も可能だ。

 「コロナがぱあっと晴れたら、フルスロットルで仕事がしたいですね」と語る遠藤。「前世はベトナム人」を自称する遠藤であれば、コロナ禍もなんのその、遠藤が愛するこのベトナムの地でサバイバルしてカカオの豊かな実を成らせるに違いない。

文=新妻東一

Binon Cacao Park/遠藤亜矢子

遠藤亜矢子
Binon Cacao Park

プロフィール
大阪府出身。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)ベトナム語学科卒。卒業後は大手旅行会社に就職し欧州担当。ベトナムとの関わりをもちたくてベトナムと取引のある商社、そして人材コンサルティング会社へ転職。結婚を期にベトナム勤務となり、2016年にコンサルティング会社を興し独立。カカオ豆の貿易を手始めにカカオの魅力を知ってもらいたいとBinon Cacao Parkを2019年5月、バリアブンタウ省に開園、現在は同社CEO。

Binon Cacao Park:
http://binon-cacao.com/

Binon Saigon Chocolate:https://www.facebook.com/binon.socola

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