大河の豊かな水がつくりだした平野、メコンデルタ各省を旅する
- 2025/02/05
- ベトナム観光旅行記
ベトナム語でヌオック(nước)とは、「国」という意味と「水」という二つの意味があります。そのせいかどうかわかりませんが、ベトナムには満々と水をたたえた川が多くあります。北部には紅河(ホンハー)が流れ、河によって運ばれた泥の沖積によってデルタが広がっています。
南部にはメコン川が流れています。ベトナム語では九龍(クーロン)川といい、その名の通り、いくつもの支流にわかれています。
メコン川は中国、チベットを源流とし、雲南省を経て、ミャンマー、タイ、ラオスを経てカンボジアからベトナムに至り、海へと注ぎ込む。全長4350kmにわたって流れる東南アジア最大の河川です。
メコン川の氾濫によって形成された巨大なメコンデルタは、ベトナムの稲作地帯として大きく発展しています。ベトナム国内で消費されるのみならず、年間900万トンも海外に輸出されています。
ここ最近はこのメコンデルタで生産されるコメの品種改良も進み、風味のよいコメが生産されるようになりました。
コメのみならずドリアンなどのトロピカルフルーツも盛んに生産されています。バサやパンガシウスといったナマズ系の淡水魚も生産され、こちらも世界中に輸出されています。マングローブの林では、汽水域に生息するカニやエビが養殖され、日本をはじめとする世界中に出荷されています。
いまやメコンデルタは、世界の胃袋を支えているといっても過言ではありません。
今回はそのメコンデルタの旅をみなさんに紹介しましょう。
<ミト/メコンリバークルーズ>
ホーチミン市から1時間30分から2時間ほど西に車を走らせるとティエンザン省ミト市に到着します。このミト市は17世紀に中国の明朝再建に敗れた鄭成功の部下たち3千人が台湾を逃れ、当時ベトナム中部を治めていた広南阮氏の許しを得て、この地に入植したのが街の形成のはじまりとされています。3百数十年の歴史があるメコンデルタの大きな都市のひとつです。
ホーチミン市を中心とするツアーに必ず組み込まれているのが、このミト市のメコンデルタクルーズです。ホーチミン市から日帰りでメコン川を体験できるとあってたいへん人気があります。
ミト市の船着場に到着すると、原動機付きの比較的大型の船に乗り込みます。メコン川を20分ほど遡上すると、中洲のトイソン島に到着です。
中洲に上陸すると果樹園を抜けて、カフェでトロピカルフルーツが振る舞われます。マンゴーやバナナ、ジャックフルーツ、ランブータンなどの季節を問わず収穫できる熱帯の果物を味わうことができます。もうこれだけで南国気分全開です。
ベトナムで100年の歴史ある伝統民謡ドンカー・タイトゥの歌と音楽の生演奏も聴くこともできます。この伝統民謡はユネスコの無形文化財の指定を受けているものです。
タイソン島では養蜂とココナッツキャンディーの生産も行っています。養蜂場とココナッツキャンディー工場の見学もコースに含まれています。試食も可能ですし、お土産として購入することもできます。
ヘビ、トカゲといった爬虫類が得意でない方はパスすることになりますが、ニシキヘビを首に巻く体験も可能です。私はどうもヘビをはじめとする爬虫類は得意でないのですが、女性のお客様などは面白がって奇声をあげながらも、ヘビを首に巻きつけて写真を撮影しています。男性よりも女性の方がヘビとの相性はよいのかもしれません。
そしてハイライトは中洲の中の船着場から手漕ぎのボートに乗船してニッパヤシの生い茂るジャングルの中をクルーズします。
メコンデルタの人々の足はその昔、小さな手漕ぎボートで移動していました。道路のかわりに小さな運河がジャングルの中に張り巡らされていたのです。その生活の一端をかいまみることができます。
陸地にあがり、レストランで昼食を召し上がっていただきます。ツアーで用意されるのはエレファント・イヤー・フィッシュ、象耳魚というメコン川で獲れる大型の淡水魚とソイ・チェン・フォンというサッカーボールほどの大きさに餅米を中空にして揚げた料理が特徴的です。魚はライスペーパーにお好みの野菜を加えて巻き、つけ汁につけて食べます。
お昼をゆっくり楽しんだのちに再びバスに乗車してホーチミン市のホテルに戻ります。
<カントー/水上マーケットにラウマム鍋>
ホーチミン市から車で3時間の距離にカントー市はあります。人口120万人でメコンデルタで唯一の中央直轄市でもあります。カントー大学という歴史ある大学があり、特に農学に優れた大学として知られ、日本に留学した学生が学長になるなど、日本との関係も深い大学があります。
このカントー市の観光の目玉は、水上マーケットです。カイラン水上マーケットの名で知られています。
ツアーは早朝6時に始まります。街の船着場からモーターボートに乗り、水上マーケットに向かいます。30分ほどボートを走らせると水上マーケットに到着です。
その昔、この地域の移動、物流手段は船舶しかありませんでした。メコンデルタには川と運河がはりめぐらされ、果物や野菜、コメなどの穀物はすべて船で運ばれました。いまでこそ橋梁が整備されたために道路をトラックが走り物流の主流となりましたが、かつては船が主役でした。
今でもスイカやイモ類を満載した船が川の上を行きかい、船上で取引や荷渡しが行われている様子をみることができます。
かつては小型の手漕ぎ船が大きな船の間を行き来していましたが、小型の船での輸送はトラックに置き換わってしまい、ほとんどその姿を消してしまいました。
いまでも観光客相手にブンリューなどの麺や飲み物や果物を販売する小舟を見ることができます。
陸地にあがって色とりどりの麺をつくる様子などをみてから、再び船に戻り、船上のカフェなどで果物やお茶を楽しみます。
雄大なメコン川と、水上マーケットで扱われている物の量には圧倒されます。メコンデルタがもたらす豊かさを感じていただけるものと思います。
またカントーにきたらぜひ食べてほしいのが「ラウマム」鍋です。マムという魚を発酵させてつくった調味料の入った鍋汁にメコンデルタの淡水魚や白菜、空芯菜、ニラに加えて、ディエンディエンやスードゥアといったお花をあしらった鍋があります。汁にちょっとクセがあるものの、メコン川の豊かさを実感できる鍋です。黄色や白の花の色がアクセントの花を食べる鍋です。
<カマウ/ベトナム最南端の街、マングローブ林と干潟>
ベトナムの最南端の街、カマウ市。カマウ市までは乗用車であれば7時間、バスであれば8時間の距離となります。高速道路が途中までしかないので、移動にはどうしても時間がかかってしまいます。
長旅ができない方はホーチミン市からはカマウ市まで空路でひとっとびも可能です。所要時間は1時間弱。
カマウ市は最南端の街ではあるものの意外と大きな街です。この街の特徴はベトナム人、華人、そしてクメール人が仲良く暮らしていること。街にはベトナム寺院のみならず、華人のための会館やクメール寺院があり、それぞれ特徴があり、観光で楽しめます。
カマウ独特の料理には、バインタムカイ、というカレー味の料理があります。うどんのような麺にカレー味のソース、シューマイという肉団子も入っています。ベトナム料理のほとんどはあまり辛くはありませんが、このバインタムカイという料理は普通の辛さでも結構辛くて、辛いもの好きにはたまりません。
カマウ市から車とボートを乗りついで、ベトナム最南端のカマウ岬も訪れてみてください。高速ボートでマングローブ林の運河を通り抜けていきます。
干潟にはオオトビハゼという大型のハゼ科の魚を見ることができます。日本にいるハゼは小型なものが多いのですが、このオオトビハゼは20cm以上にもなります。味が良いことでしられており、カマウ岬のレストランではこのハゼの焼き魚を食べることもできます。
岬の最南端にはベトナム国旗はためく帆船を模した記念碑が、ベトナムの最南端であることを教えてくれます。カマウ名物のカニの大型のモニュメントやフラッグタワーがあり、タワーに昇ってマングローブの林を一望することができます。
ベトナム戦争時代には枯葉剤が撒かれて一面「死の森」となったこともありましたが、現在では森も再生し、マングローブの植林や保護を経て、豊かな自然が元通りになりました。
文=新妻東一