ラムドン省の野菜くだものを世界の消費者に/アンバンティン食品有限責任会社

 2024年はベトナムの農産物輸出が好調だった。農林水産物全体では輸出額は625億米ドルに達し、対前年比で18.7%もの増加となった。過去20年間で最高の伸び率であり、世界的にもベトナムが高いシェアを有するコメ、コーヒー、カシューナッツ、水産物のみならず、野菜・くだものでも目覚ましい成長を記録したのが特徴だ。
 このうち、野菜・くだものは71.2億米ドルと27.1%も増加した。中でもドリアンの輸出が33億米ドルと突出し、野菜・くだもの輸出総額の約半分を占めている。
 このドリアン輸出の背景にはブームにわく中国が2022年にベトナム産の生のドリアンの輸入を認めたこと、加えて2024年8月のトーラム書記長の訪中に際して、中越間で冷凍ドリアンの植物検疫議定書の締結が行われたことが大きいとされている。
 中国では雲南や広東など中国南部でこそ食べられていたドリアンだったが、2017年ごろからSNSや東南アジアへの旅行ブームから人気に火がついて、タイ、マレーシア産のドリアンが大量に輸入されはじめ、北京あたりでも食べられるようになったのだという。
 「クリームチーズのような、ねっとりとした食感が中国人好みなのでは……」と伝えられるドリアン。ドリアンの香りを「汚水の腐ったような臭い」と感じる人がいるのは中国でも日本と同じようだが、その臭いを気にせずに食べてみるとおいしいと感じるひともいるのも確か。中国でも同様のようだ。
 ただかつての中国におけるザリガニブームのように、一時的な流行と人気にだけ支えられているのであれば、ブームがされば需要が急減して、産地が苦しむことにならなければいいがとの警戒感も存在するのも事実だ。
 その中でもベトナムはドリアンの対中国輸出で大きな農産物の売上をつくっている。とりあえずは目先の実利を取りに行っているのだろう。

 今回ご紹介する企業はアンバンティン食品有限責任会社だ。同社は、冷凍くだもの、野菜、香辛料を海外に輸出している。社長のグエン・コン・ラム氏に話を伺った。
 ベトナムの農産物を世界の消費者に届けようとの思いで、アンバンティン社は2007年に南部ベトナムの中部高原ラムドン省のバオロック市で創業した。すでに15年の歴史を有する会社だ。
 バオロック市はラムドン省にある。ラムドン省はベトナムの中でもくだものと野菜生産の栽培面積は6.2万ヘクタールを超え、その生産量も年間300万トンといわれる、ベトナムの農産物の一大産地なのだ。
 また、平均標高800mのジーリン高原に位置する町であり、お茶やコーヒー、養蚕が盛んに行われている。アボカドやドリアンの生産のほか、乳牛やヤギなどの牧畜業なども行われている。バオロック市は冷凍野菜・くだものの原料の調達、仕入れにとって立地のよい場所である。
 ラムは元々、コカコーラやネスレといった外資系の飲料メーカーの営業・マーケティング畑を歩いてきたという。英国企業に勤めたこともあるというから、ベトナム国内市場について詳しい上に、海外の飲食関係の市場についても詳しかったに違いない。
 彼はその後、日本の商社と組んで、1999年ごろからハチミツ生産に取り組んだ。月産3.5トンというからかなりの取扱量だ。事業は順調に推移したかにみえた。が、好事魔多し、客先は中国産の安いハチミツに乗り換えたために、事業が継続できず、2004年には店を閉めざるを得なかったという。
 「中国製品は安かろう、悪かろうなんだけど、客が品質にこだわらなければ、中国にはかなわないよねぇ」そう言って、ラムは苦笑いした。
 2005〜6年にはホーチミン市でドライフルーツの生産にも携わった。

 経験と失敗をもとに、ラムは自分の生まれ故郷に戻って食品加工・輸出会社を設立した。原料は自分のふるさとで採れた野菜・くだものをはじめとする農産物だ。
 彼が新たに取り組んだのは冷凍野菜・くだものの製造・輸出だ。新鮮なくだもの、野菜、香辛料を調達し、それをそのまま、あるいは客先の要望に応じて、皮を剥き、カットやペースト状にして冷蔵して輸出する。
 ラムのアンバンティン社は、1万平米の工場を備え、冷凍くだもの・野菜の加工工場としては最大規模の工場のひとつであり、年間約1万トンもの生産能力を有しているという。輸出先は欧州、アジア、豪州、米国など25ヶ所の国と地域に輸出しているとのことだ。
 輸出にあたっては、くだもの、野菜の生産行程での品質管理はもちろんのこと、加工工場そのものの安全衛生も重要な要素となる。くだもの・野菜の輸入国はいずれも厳しい品質基準を求めてくる。当然、輸出国の業者は国際的な認証をクリアしていることが求められる。
 同社も当然ながら、輸出に必要な国際的な認証である、BRC、ISO 22000:2018、HACCP、GMP、FDA USA、HALAL、KOSHERを取得している。
 同社が扱っているのは、くだものでは、マンゴー、ドリアン、パッションフルーツなどのトロピカルフルーツ、野菜としてはカボチャ、タロイモ、ジャガイモ、ニンジンなどの根菜類に、タケノコ、落花生など。香辛料・スパイスでは、ウコン、ニンニク、ショウガ、レモングラス、シナモンまで扱える。ベトナム産の野菜・くだものであれば、なんでも相談にのってくれそうだ。
 彼が今後、戦略的に開発を目指しているのは、シロップとカクテルとラムが呼称する商品だ。

 シロップとはイチゴ、オレンジ、パイナップル、レモンといったくだものの100%ジュースのことだ。また、カクテルとは、スムージーのように乳飲料を混ぜたもののようだ。ラムはこうした製品を戦略商品と位置付けて、今後同社の主力製品に育てたいという希望をもっている。
 そのためには投資の誘致も検討している。一定の投資をうけて、生産ラインを儲ければ、売先には困らないとの見通しもたてているようだ。
 コロナ禍にあって、たいへん苦労もしたようだが、コロナがあけて再び商売の攻勢をかけようとの意気込みを感じた。
 「明日、日本からバイヤーがくることになっていて、刻みシイタケの輸出の商談があるのだ」そうラムは楽しそうに語ってくれた。
 日本の農業は高齢化と人手不足で、衰退する一方だが、ベトナムの農業は大きく発展している。その大きな発展の流れにのって、ラムのアンバンティン社も大きな成長を見込むことができるのではないか。そんな期待をこめてインタビューを終えた。

文=新妻東一

社長のグエン・コン・ラム(中央)

アンバンティン食品有限責任会社
AN VAN THINH FOOD LIMITED COMPANY

プロフィール

2007年、ラムドン省バオロック市で創業。社長はグエン・コン・ラム。主な製品は冷凍くだもの、野菜、香辛料/スパイス。全世界25カ国に輸出、一部国内販売も手がける。今後はシロップ=100%くだものジュースとカクテル=乳飲料とのミックスジュースへの展開するための投資を受ける予定。

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