母のお好み焼き店と同じく地元ベトナム人に愛される日本食レストラン「Nagomi」を経営、オーナー/玉井成親

 ハノイ市内から車で30分、ハノイのお隣の省、フンイエン省に新しくできたEcoParkという新興住宅街。高層マンションと一軒家が立ち並び、広々とした公園、緑も多い。ハノイからもそれほど遠くない距離にあるのに、自然にあふれた景観の街で快適に過ごせるとあって、事業に成功した中間層に人気の街だ。

 このEcoParkにコロナ禍にあって、2020年10月に日本食レストラン「Nagomi」がオープンした。オーナーは玉井成親。2020年3月までは毎月のようにベトナムに通い、準備をすすめてきたが、4月には海外からのベトナムへの渡航が禁じられ、仕方なくリモートで開店準備を進めたという。内装工事の確認から、従業員の面接、オープニングの様子もすべて日本からオンラインで準備を進めたと話す玉井。コロナで何もできない、ではなく、リモートでもやれることはある、玉井のその姿勢には驚くばかりだ。
 ベトナムではコロナ感染が一定の収束をみせ、飲食店での食事に対する制限もなくなったこともあり、このコーナーがはじまって以来、はじめて対面での取材を行った。玉井がなぜ日本人客を見込めないEcoParkという場所に日本食レストランを設けたのか、彼のベトナムとの出会いから玉井自身の半生について伺った。

 玉井は1975年、大阪・堺市に生まれ。父は大工、母も働いてはいたが、自ら「カギっ子」だった経験から、自分の子どもには学校から帰ってきても母がいない寂しさを味あわせたくないと、自宅の1階に「お好み焼き屋」を開店した。
 「本当に小さな店なんですけど、地元の人たちに愛されている店で、常連客でいっぱいになるんです。母は今もお好み焼きを焼いてます」
 大阪といえば「こなもん」、タコ焼きやお好み焼きは玉井の母が経営するような、小さな地元の店で食べたいもの。玉井は母の働く背中をみて育った。
 高校卒業後、彼は東京に出たいばかりに新宿の料理店で住み込みで働きはじめた。寮は掃除も十分されておらず、気が滅入るような場所だったが、とりあえず住む場所もない。我慢して勤めた。先輩のひとりに玉井は大学への進学を勧められた。玉井は大阪に戻り、大学を受験、京都の龍谷大学に進学した。
 大学生になった玉井はさまざまな職業経験をするために様々なアルバイトにも挑戦した。その一つに梅田ヒルトンホテルの朝食レストランでの仕事もあった。
 「外国人のお客様が『ウォラ、ウォラ』って言うんですよ。それがWater(ウォーター)だとわかってね、カタコトでも英語で外国人と会話するのが楽しくて」
 海外への目が開かれた玉井は海外旅行へもいった。最初に訪れたのはイギリス。その後は東南アジアへも旅した。
 日本国際民間協力会(NICCO)がインターンを募集していると知った。NICCOの会長は様々な海外の人々の支援の方法は井戸を掘ったり、農業や物資の支援などいろいろあるが、どんな場合でも自立を促す支援でなければいけないという信念をもって海外支援を行っていることに共感、玉井は同会にインターンとして加わった。
 NGOの活動でもお金がなくてはなにもできない。スポンサーや助成金を集めるための方法やチャリティイベント開催などのやり方も学んだ。
 ベトナム・ダラットの少数民族コーホー族。貧しさのために学校にいけない子どもたちを支援するため、実際に村を訪ね、家庭訪問をし、調査をする仕事にもでかけた。
 「ベトナムの空港に到着して、右も左もわからず、とりあえずガイド役のベトナム人と一緒に車に乗り込みダラットに向かったんです。その時に車中で食べたバインバオ、肉まんがおいしくってね。印象に残っています」
 村ではコーホー族の人たちの家庭訪問をした。対象者の写真をインスタントカメラで撮影し用紙に貼り付け、家族構成などを記録していく。するとある家では家長の男性が写真をはじめて手にし、家族全員で撮影してほしいと懇願された。写真をとって男性に渡すと、お礼だといって当時は珍しかった缶コーラを手渡された。
 「1996、7年当時のベトナムはホーチミン市でも照明が少なく、暗かった。バイクもほとんど走っていなかったんです。田舎の少数民族の村での缶コーラは彼らにとっては宝物のようなもの。その気持ちがうれしかったんですね」

 卒業後は商社に就職することを希望していた玉井だったが、ベトナム人研修生(2009年までは外国人研修生という在留資格。同年の入管法改正で「技能実習生」という在留資格が新設された)の受入れを進める会社に勤めた。ただ正社員としてではなくアルバイトとして入社した。1999年のことだった。
 研修生の受入先企業を開拓する営業を担当した。ファックスを送り、回答のあった客先に電話でアポイントをとり、訪問する毎日。
 「当時は中国人研修生が主流だった時代。ベトナム人研修生といってもお客様から『ベトナムはもう戦争は終わったのか』と質問されたりしました」
 営業にはノルマがあり、厳しさはあったが、ベトナム人研修生の受入成約は玉井の営業努力によっておもしろいほど決まっていった。
 「ホーチミン市にお客様と一緒に実習生の面接にもいきました。当時のホーチミン市はお土産の売り子や物乞いがホテルの前にいて、貧しくお金もない時代。研修生として応募しても面接で選ばれないと日本にはいけない。でも日本で実習生として働けば、その後の人生が180度かわってしまう。だから面接に集まった若い子たちがぶるぶる震えているんですよ」
 自分と年齢のあまりかわらない若者たちの人生がかかっている、自分は彼らにチャンスを与えることができる、やりがいを感じていた。
 一生懸命仕事を続けるなかで、現在の会社の方針に疑問を抱いた玉井は同僚2名と一緒に研修生受入れ業務を行う会社を新たにつくり、2002年独立した。
 受け入れる研修生数も300名を上限とし、研修生を毎月訪問、寮で一緒に食事をしたり人間関係を育むことにこだわった。
 「お金と時間がかかることですが、研修生を人としてみることを重視していました」
 ただ監理組合の名義を借りて運営していたこともあってトラブルに見舞われることもあった。そして2009年のリーマンショック。事業が急速にしぼみ、借金も抱え、ノイローゼになった。借金を返済するまでという期限つきで他の監理団体の名義も借りて研修生、実習生の受入事業は継続し、借金を払い切ったところで技能実習生の受入事業はやめた。
 玉井はその後はちみつの海外販売の営業代行を請け負い、海外への販売にも努力した。ただ企業オーナーが玉井の立替金の精算が滞ったために、これも途中で頓挫してしまった。

 玉井はベトナム人技能実習生たちの姿をみていた。日本から帰国しても日本語や学んだ技術を活かす場所は少ない。自らベトナムで事業をおこし、彼ら、彼女らと一緒に働きたいという気持ちが芽生えていた。
 技能実習生の送り出し機関をやっていた社長からEcoParkに物件があると聞かされ、飲食店を開くことにした。当初はワインバーの設立を構想していたが、ベトナム人社長のすすめもあって日本食レストランを経営することにした。
 「まわりには日本料理を食べさせる店はないですし、日本人が多く住んでいるわけでもありません。地元EcoParkのベトナム人に愛される店にしようと決めました」
 内装も日本のイメージである富士山などの景色の写真を壁にあしらい、屋上には赤鳥居も設けた。
 2020年10月に日本食レストラン「Nagomi」がオープンした。当時ベトナムはコロナ感染者ゼロを続けていたころで、飲食店の営業規制はなかった。開店当時は30%割引のプロモーションを2週間続けたが、大盛況だった。注文もおいつかない。玉井はその様子をオンラインで観て感激した。
 2021年2月にようやくベトナムに入国したが、ハノイでも厳しいロックダウンと飲食店の営業規制がはじまった。宅配だけは許されたので、料理のデリバリーサービスも開始した。EcoParkには競合する日本食のデリバリーはなく、こちらもヒットした。今でもデリバリーサービスは続けているという。
 「客層はファミリー層で、常連客も多く、ベトナム語と英語のカタコトでお客様と一緒にお酒を酌み交わすこともありますよ。想定外だったのは人気メニューが肉うどんとお好み焼きだったこと。母のつくるお好み焼きとは味が違うんですけどね」と笑う玉井。
 母のお好み焼き店が地元・堺市のご近所さんに愛される店であるのと同様に、玉井の日本食レストラン「Nagomi」はベトナム・フンイエン省EcoParkのご近所さんに愛される店になるだろう。

文=新妻東一

日本食レストラン「Nagomi」オーナー
玉井成親
プロフィール

1975年大阪・堺市生まれ。高校卒業後、一時東京に出て働くも、大学進学のため大阪に戻り、龍谷大学に入学。卒業後、コンサルティング会社に就職して、外国人研修生の送出し、受入れに関わる。2002年に独立し外国人研修生の受入事業を展開。2019年には日本食レストラン設立を計画、2020年10月フンイエン省EcoParkに日本食レストラン「Nagomi」をオープン。

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